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扇屋「俵屋」の養子となった伊年(いねん)は、醍醐の花見や、出雲阿国の舞台、又、南蛮貿易で輸入された数々の品から、意匠を貪っていた。俵屋の扇は日に日に評判を上げ、伊年は「平家納経」の修理を任される。万能の文化人・本阿弥光悦が版下文字を書く「嵯峨本」、「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」下絵での天才との共同作業を経て、伊年の筆は益々冴える。
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【「風神雷神図」】
美術の教科書等で、此の「風神雷神図」を目にした人は多い事だろう。ユーモラスさを秘めた風神と雷神が、生き生きと天翔る姿を描いた作品だ。描いたのは江戸時代初期の画家・俵屋宗達。そんな彼の生涯を描いた小説「風神雷神」(著者:柳広司氏)は、約500頁の大長編。
室町時代から江戸時代迄の約400年間、我が国の画壇の中心に在った「狩野派」。中でも安土桃山時代を生き、時の権力者・織田信長や豊臣秀吉の“御用絵師”を務めた狩野永徳は、狩野派で一番有名な人物と言えるかもしれない。
そんな狩野派が牛耳って来た我が国の画壇に、江戸時代初期、突然現れた天才絵師が俵屋宗達。名前は有名だが、其の生涯に付いては全く知らなかった(彼が扇屋の養子だったという事自体、今回初めて知った程。)ので、「風神雷神」は読み応えが在った。
本阿弥光悦や出雲阿国等、有名な歴史上の人物達が、目の前で話したり、行動したりしている様に感じられる程、生き生きとした表現力。「実際に、こんな感じで話したりしてたのかもなあ。」と、どっぷり感情移入してしまった。
「有名な作品が、どういう経緯で描かれる事になったのか?」が、時代背景を元に、詳しく記されている。名前は知っているけれど、どういう繋がりなのか良く判らなかった歴史上の人物達の関係性も、此の小説で理解出来た。
総合評価は、星3.5個とする。