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廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。「蜉蝣」の様な己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。其処に突如現れた不気味に冷笑する黒服の男。命の十字路で2人は、或る契約を交わす。肉体と魂を分かつ物とは何か?人を人たらしめている物は何か?深い苦悩を抱え、主人公は終末の場所へと向かう。其処で、彼は1つの儚き「命」と出逢い、嘗て抱いた事の無い愛する事の切なさを知る。
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「帰国子女で英語が堪能。」、「高校時代はレギュラーのミッドフィールダーとして全国高等学校サッカー選手権大会に出場し、準優勝迄勝ち進む。」、「慶應大学を卒業。」、「大学在籍中に『仮面ライダーカブト』(動画)の主役に抜擢され、イケメン俳優として大ブレークする。」等々、女性の場合で言えば「才色兼備」と評されるで在ろう彼の名前は「水嶋ヒロ」。そんな彼が「本名の『齋藤智裕』で執筆&応募した処女作で、第5回(2010年)ポプラ社小説大賞の大賞を受賞した。」事が明らかになったのは、昨年の10月だった。其の処女作「KAGEROU」は刊行されるや否や大ベスト・セラーを記録したのは、多くの記憶に新しい所だろう。
処女作刊行前から、あんなにも一般的な知名度が高かった作家は此れ迄に居なかったろう。又、処女作があんなにもバッシングを受けた作家も、此れ迄に居なかったと思う。「著名人の作品と最初から判っていて、『此れは売れる!』という事で大賞を授与したのだろう。」、「余りにも酷い内容。」、「普通ならば、刊行されるレヴェルの作品では無い。」等々、此れでもかという位のバッシングが巻き起こり、自分の中にも「相当酷い作品なんだろうな。」というイメージが出来上がっていた。だからこそ刊行から約5ヶ月という時間を置き、出来るだけ真っ新な気持ちで読む事にしたのだった。
此の作品は「臓器移植」を題材とし、「命」に付いて書かれている。飽く迄も自分の想像だが、齋藤氏が一番言いたかった事は、次の文章だったに違いない。
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「いまごろになってようやく気づいたんだけど『死にたい』って、裏を返せば『生きたい』ってことなんだよね。死にたい気持ちが強いからこそ生きたい気持ちも強くなる。」
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主人公のヤスオは40代(登場時は40歳。物語の途中で41歳となる。)の男で、親父ギャグを連発している。27歳という若さ、其れもイケメンの斎藤氏がこてこての親父ギャグを書き連ねたと思うと、凄いギャップを感じたりする。
気になったのは、ヤスオが幼少期を回顧するシーン。当時の母親の服装とか、流行っていた歌に付いて言及しているのだが、「40~41歳のヤスオよりも少し上の世代の幼少期」という感じがして、個人的には違和感を覚えた。(編集者は、其の辺を指摘しなかったのだろうか?)
想像でしか物を言えないが、受賞に付いて「出来レース的な色合い」がゼロだったとは思わない。出版不況の昨今、「水嶋ヒロの処女作なら、確実にベスト・セラーになるぞ!」という思いが、ポプラ社に在ったとしてもおかしくはないだろう。
でも、文章は決して流麗とは言い難いけれど、酷評の嵐を受けなければいけない程の酷さでは無い。「水嶋ヒロ氏の作品」という事で無く、「単なる一新人の作品」という事ならば、そんなに悪い出来とは思わない。「頭脳明晰な上にイケメンなんて許せない!」という、嫉妬から生じたバイアスが掛かった書評も結構在るのではないだろうか。(もしかしたら読まないで、彼此書いているケースも。)
作家としての真価が問われるのは、2作目以降にどんな作品を紡ぎ出して行けるかに掛かっている。「『KAGEROU』とは全く違った作風で、世間を驚かせてくれたら。」と期待。
総合評価は星3.5個。