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ホームレス生活を共に送っていた父親が凍死し、6歳にして一人で生きて行かなければならなくなった少年・零(れい)。住む所も無い彼、そして野良犬のセイとの日々が始まる。共に“餌”を捜し、遊び、一緒に寝る事さえ出来れば、それで良かった。セイと居れるだけで満足だった。
保護しようとする警察から逃れ、“野生児”として年月を経た或る日、それは零が14歳になった頃だが、セイがフィラリア症に罹患してしまう。読み書きすらも出来ないけれど、ずば抜けた嗅覚を持ち、女性の“発情”が臭いで判る零は、セイの治療費を稼ぐべく新宿でホストとして働く事になる。児童福祉法に抵触する為、年齢を偽って働く彼に与えられた源氏名は「ポチ」。何もが初体験の零は、次第にその能力を開花させて行き・・・。
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「みなさん、さようなら」、「ブラック・ジャック・キッド」、そして「すべての若き野郎ども」に次ぐ久保寺健彦氏の第4作が「空とセイとぼくと」。冒頭に記したのは、その粗筋で在る。終戦直後の我が国には両親を戦争で失い、一人で生きて行かなければならなかった、所謂“戦災孤児”で溢れていたと言う。1948年の時点での数は28,248人とされるが、一般孤児81,266人の中にも実質的な戦災孤児は多く含まれていると考えられ、その総数はかなりの多さになる事だろう。そんな時代から60年以上経った現在、若い世代のホームレスが増えていると言う。中にはホームレス同士で結婚して子供を儲けたケースや、子供を儲けてからホームレスになったケースも在るだろうし、そういったケースが今後増えて行く可能性も否定出来ない。零の様な極端さは無いにしても、幼くして一人でホームレス生活を送らなければならないというケースが、全く在り得ないと断言出来ない怖さが現在の日本には在る。
自分の本名も知らず、生年月日も果たして本当か判らない零。義務教育を受ける事無く育った彼には、知らない事が余りにも多い。「innocent(イノセント)」という単語が在るが、純真無垢な野生児として育って来た零が、時には人の優しさに触れ、そして時には人の悪意に晒される。それでも純真無垢さを失わない零の姿に、心が痛い自分が居る。
久保寺作品には映画「グローイング・アップ」シリーズや「スタンド・バイ・ミー」等で感じる、少年期の切なさが在る様に思う。ほろ苦さと言っても良いだろう。そして「死」という事柄にサラッと触れる事で、「限り在る生命」という当たり前の事実を再認識させてくれる。全体的に明るくウエットさの無い文体だが、読後に漂うのは何とも言えない切なさや物哀しさ。
総合評価は星3.5個。
ホームレス生活を共に送っていた父親が凍死し、6歳にして一人で生きて行かなければならなくなった少年・零(れい)。住む所も無い彼、そして野良犬のセイとの日々が始まる。共に“餌”を捜し、遊び、一緒に寝る事さえ出来れば、それで良かった。セイと居れるだけで満足だった。
保護しようとする警察から逃れ、“野生児”として年月を経た或る日、それは零が14歳になった頃だが、セイがフィラリア症に罹患してしまう。読み書きすらも出来ないけれど、ずば抜けた嗅覚を持ち、女性の“発情”が臭いで判る零は、セイの治療費を稼ぐべく新宿でホストとして働く事になる。児童福祉法に抵触する為、年齢を偽って働く彼に与えられた源氏名は「ポチ」。何もが初体験の零は、次第にその能力を開花させて行き・・・。
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「みなさん、さようなら」、「ブラック・ジャック・キッド」、そして「すべての若き野郎ども」に次ぐ久保寺健彦氏の第4作が「空とセイとぼくと」。冒頭に記したのは、その粗筋で在る。終戦直後の我が国には両親を戦争で失い、一人で生きて行かなければならなかった、所謂“戦災孤児”で溢れていたと言う。1948年の時点での数は28,248人とされるが、一般孤児81,266人の中にも実質的な戦災孤児は多く含まれていると考えられ、その総数はかなりの多さになる事だろう。そんな時代から60年以上経った現在、若い世代のホームレスが増えていると言う。中にはホームレス同士で結婚して子供を儲けたケースや、子供を儲けてからホームレスになったケースも在るだろうし、そういったケースが今後増えて行く可能性も否定出来ない。零の様な極端さは無いにしても、幼くして一人でホームレス生活を送らなければならないというケースが、全く在り得ないと断言出来ない怖さが現在の日本には在る。
自分の本名も知らず、生年月日も果たして本当か判らない零。義務教育を受ける事無く育った彼には、知らない事が余りにも多い。「innocent(イノセント)」という単語が在るが、純真無垢な野生児として育って来た零が、時には人の優しさに触れ、そして時には人の悪意に晒される。それでも純真無垢さを失わない零の姿に、心が痛い自分が居る。
久保寺作品には映画「グローイング・アップ」シリーズや「スタンド・バイ・ミー」等で感じる、少年期の切なさが在る様に思う。ほろ苦さと言っても良いだろう。そして「死」という事柄にサラッと触れる事で、「限り在る生命」という当たり前の事実を再認識させてくれる。全体的に明るくウエットさの無い文体だが、読後に漂うのは何とも言えない切なさや物哀しさ。
総合評価は星3.5個。

なかなか興味深い本を読んでおられますね。動物は好きな自分ですが、動物がメインで登場する小説を最近は余り読んでいません。昔は西村寿行氏の作品(「犬笛」や「黄金の犬」等。)を結構読んだものですが。