ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「空とセイとぼくと」

2009年01月04日 | 書籍関連
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ホームレス生活を共に送っていた父親が凍死し、6歳にして一人で生きて行かなければならなくなった少年・零(れい)。住む所も無い彼、そして野良犬のセイとの日々が始まる。共に“餌”を捜し、遊び、一緒に寝る事さえ出来れば、それで良かった。セイと居れるだけで満足だった。

保護しようとする警察から逃れ、“野生児”として年月を経た或る日、それは零が14歳になった頃だが、セイがフィラリア症罹患してしまう。読み書きすらも出来ないけれど、ずば抜けた嗅覚を持ち、女性の“発情”が臭いで判る零は、セイの治療費を稼ぐべく新宿でホストとして働く事になる。児童福祉法抵触する為、年齢を偽って働く彼に与えられた源氏名は「ポチ」。何もが初体験の零は、次第にその能力を開花させて行き・・・。
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みなさん、さようなら」、「ブラック・ジャック・キッド」、そして「すべての若き野郎ども」に次ぐ久保寺健彦氏の第4作が「空とセイとぼくと」。冒頭に記したのは、その粗筋で在る。終戦直後の我が国には両親を戦争で失い、一人で生きて行かなければならなかった、所謂戦災孤児”で溢れていたと言う。1948年の時点での数は28,248人とされるが、一般孤児81,266人の中にも実質的な戦災孤児は多く含まれていると考えられ、その総数はかなりの多さになる事だろう。そんな時代から60年以上経った現在、若い世代のホームレスが増えていると言う。中にはホームレス同士で結婚して子供を儲けたケースや、子供を儲けてからホームレスになったケースも在るだろうし、そういったケースが今後増えて行く可能性も否定出来ない。零の様な極端さは無いにしても、幼くして一人でホームレス生活を送らなければならないというケースが、全く在り得ないと断言出来ない怖さが現在の日本には在る。

自分の本名も知らず、生年月日も果たして本当か判らない零。義務教育を受ける事無く育った彼には、知らない事が余りにも多い。「innocent(イノセント)」という単語が在るが、純真無垢な野生児として育って来た零が、時には人の優しさに触れ、そして時には人の悪意に晒される。それでも純真無垢さを失わない零の姿に、心が痛い自分が居る。

久保寺作品には映画「グローイング・アップ」シリーズや「スタンド・バイ・ミー」等で感じる、少年期の切なさが在る様に思う。ほろ苦さと言っても良いだろう。そして「死」という事柄にサラッと触れる事で、「限り在る生命」という当たり前の事実を再認識させてくれる。全体的に明るくウエットさの無い文体だが、読後に漂うのは何とも言えない切なさや物哀しさ。

総合評価は星3.5個

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2 コメント

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Unknown (マヌケ)
2009-01-04 14:00:17
私も今、犬が(主人公)登場する作品を読んでいます。 マヤやアステカなどの高度な文明が、同じ程度に高度な文明のヨーロッパに征服されたのはなぜなのか、なぜその逆が起こらなかったのかという文明論と併読中です。「ベルカ、吠えないのか?」という古川日出男さんの作品で、冒頭のシベリアでの表記で「チャイルド44」のウクライナの状況が思い起こされました。 こちらは飢餓から飼い猫をしとめるため森の奥深くに分け入った少年二人のうち、兄が後の連続殺人犯に殺害される冒頭シーンです。 母親も村人も子供まで飢えから襲われて食べられていたため殺人事件とは思わず・・・というところです。 ベルカの主人公は旧日本軍がキスカ島に残した軍用犬から数世代後の子孫たちが辿る戦争を犬たちの目を通して描いています。 上陸した米兵を地雷原に誘い込み玉砕した北海道犬の勝の忠実さ、米兵にしっぽを振って飼われることを選んだジャーマンシェパードの3匹の強かさ、冒頭のつかみはなかなかです。
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>マヌケ様 (giants-55)
2009-01-04 15:13:59
書き込み有難う御座いました。

なかなか興味深い本を読んでおられますね。動物は好きな自分ですが、動物がメインで登場する小説を最近は余り読んでいません。昔は西村寿行氏の作品(「犬笛」や「黄金の犬」等。)を結構読んだものですが。

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