パーマー、オーラル・メソッドを開発して昭和の初期に日本の英語教育に貢献した。文法翻訳法における失敗から、自ら語学習得の経験だったのだが、音声による慣れをもって文型習得の先駆けをした。日本語教育でその方法、理論を長沼直兄に影響した。1950年代以降にAL方法で見直され、その議論がおこる。
パーマー、オーラル・メソッド
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
> 会話法などと訳される,会話中心の語学教授法。文部省の招聘を受けて来日した H.E.パーマーが英語教授研究所 (のち語学教育研究所と改称) に拠って開発,普及に努めた英語教育法。音声言語から入って文字言語へ導く。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 オーラル・メソッド
oral method
>口頭作業を重視した外国語教授法。口頭教授法と訳される。1922~36年(大正11~昭和11)に日本の文部省言語顧問であったイギリス人ハロルド・パーマーが提唱した。彼は1921年に著した『The Oral Method of Teaching Languages』によって、この教授法の提唱者とよばれている。
世界大百科事典内のオーラル・メソッドの言及 パーマー【Harold E.Palmer】1877‐1949 より
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…1922年文部省顧問として来日し,英語教授研究所(のちの語学教育研究所)を開いて所長となった。教育,著書,講演を通じて,彼のいわゆる〈オーラル・メソッドoral method(口頭教授法)〉を説き普及させ,第2次大戦前の日本の英語教育に大きな影響を与えた。それは同時に,戦後アメリカのC.C.フリーズによる〈オーラル・アプローチ(口頭接近法)〉普及の素地をつくるものであった。…
パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察 :
「実用」の語学教育をめぐって
有田, 佳代子
一橋大学留学生センター紀要, 12: 27-39
2009-07-20
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1922 年から 14 年間、文部省の英語教授顧問として滞日したハロルド・E・パーマー(Harold E. Palmer 1877-1949)は、20 世紀の英語教育におけるもっとも傑出した人物のひとりとも評されている(Richards & Rogers 1986:31)。その、直接法を用いたオーラル・メソッドは、日本語教育においては主として、パーマー来日直後から親交のあった長沼直兄(1894-1973)を通して、現在の日本語教授法を基礎づける重要な一要素となって
いる
一方で、日本語教育においては、パーマー来日の 30 年近く前から宣教師に日本語を教えていた松宮弥平(1871-1946)が、「未だかつて生徒の国語を介して説明したり、翻訳で理解させたりしたことは、唯の一回でも、唯の一語でもありはしない」(松宮 1936:16)と言い、厳格な直接法による教授を実践した。また、山口喜一郎(1872-1952)が台湾や朝鮮半島で、パーマーの理論の先学であるグアン(F.Gouin 1831-1896)式の直接法をすでに試みていた。
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パーマーの言語観は、ソシュールに強く影響を受け、言語を、ソシュールのラングとパロールに通じる code と speech の2 つに分類した。言語習得とは、このうちの speech=個人的行為としての言語、運用としての言語を習得することであり、code=社会制度としての言語、規範としての言語を学ぶことではないと言う。すなわち、パーマーにとって言語習得とは、言語に関する静的な規則を知識として得ることではなく、実際の生活場面でコミュニケーションの道具として使えるような技術を体得することであった。
この speech=運用としての言語を習得するために、直接法によって、言語学習の 5 習性を身につけなければならないとした。5 習性とは、音声の観察(auditory observation)、口頭での模倣(oral imitation)、口頭での反復(catenizing)、意味化(semanticizing)、類推による作文(composition by analogy)である。そして、これを行なうための具体的な練習方法として、次の7つの練習活動をあげている。耳を訓練する練習(ear-training exercise)、発音練習(articulation exercise)、反復練習(repetition exercise)、再生練習(reproduction exercise)、置換練習(substitution exercise)、命令練習(imperative
exercise)、定型会話(conversational exercise)であった。
>ミシガン大学のチャールズ・フリース(C.C. Fries)によるオーディオ・リンガル法に大きな影響を与えた。特に、置換練習はパターン・プラクティスの先駆けであり、パーマーの理論と方法がアメリカの英語教育に大きく貢献していることは、定説となっている。