大和魂と大関の道を邁進することを口上で述べた豪栄道だ。4字熟語を用いることが多い相撲界のこのやり取りについて、天声人語が話題にした。昇進の際の口上には四字熟語がよく使われる印象があり、大和魂は異色との評も聞かれた、として、男らしい感じの言葉がいい、日本人の我慢強さ、潔さなど色々な意味がこもっている、とも、本人の弁を解説する。この、大和魂は、いま、そのように使われることで、コラム子も意見を述べるような体である。古い辞書には「皇国人の廉直勇猛、国民上の精神」という定義だと、コラムは紹介する。これはいつごろの辞書と、突っ込みを入れたくなるところ、戦意高揚のために唱えられ、軍国主義を彩った勇ましい言葉の一つ、というようなことだったろう、と受け止める。その後に、海外派遣尾自衛隊の心得に、大和魂があるらしく、さらにサムライブルーの語でサッカー選手にも、似たようなことが浸透している。説明によっては、したがって、外国と比して日本流であると考えられる能力、知恵、精神などを指す用語・概念として、ウイキペディアは、時代によって意味は異なる、とする。
世界大百科事典 第2版の解説
やまとだましい【大和魂】
文献のうえで〈やまとだましい〉が登場するのは《源氏物語》乙女の巻で,光源氏は,12歳になった長男の夕霧に元服の式をあげさせ,周囲の反対を押し切って大学へ入れる。その際,〈才(ざえ)を本(もと)としてこそ,大和魂(やまとだましい)の世に用ひらるゝ方(かた)も,強う侍らめ〉と述べている。ここでは(1)大和魂は才(漢学の素養,漢才(からざえ))と反対の概念をなしていること,(2)本(もと)が才であり,したがって,末に位置するものが大和魂であること,(3)大和魂の属性として〈世に用ひらるゝ方〉すなわち処世的手腕・功利主義的判断能力が考えられていたこと,この三つの特性が認められる。
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
大和魂
やまとだましい
日本民族固有の精神として強調された観念。和魂,大和心,日本精神と同義。日本人の対外意識の一面を示すもので,古くは中国に対し,近代以降は西洋に対して主張された。平安時代には,和魂漢才という語にみるように,日本人の実生活から遊離した漢才(からざえ),すなわち漢学上の知識や才能に対して,日本人独自の思考ないし行動の仕方をさすのに用いられた。
大辞林 第三版の解説
やまとだましい【大和魂】
①大和心。和魂。(漢学を学んで得た知識に対して)日本人固有の実務・世事などを処理する能力・知恵をいう。 「才(ざえ)を本としてこそ,-の世に用ゐらるる方も強う侍らめ/源氏 乙女」 「露,-無かりける者にて/今昔 20」
②〔近世以降の国粋思想の中で用いられた語〕 日本民族固有の精神。日本人としての意識。
デジタル大辞泉の解説
やまと‐だましい 〔‐だましひ〕 【大‐和魂】
1 日本民族固有の精神。勇敢で、潔いことが特徴とされる。天皇制における国粋主義思想、戦時中の軍国主義思想のもとで喧伝された。
2 日本人固有の知恵・才覚。漢才(からざえ)、すなわち学問(漢学)上の知識に対していう。大和心。「なほ才を本(もと)としてこそ、―の世に用ゐらるる方も強う侍らめ」〈源・少女〉
天声人語
2014年9月14日(日)付
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きょうは秋場所の初日。みどころの一つは豪栄道だろう。やっとつかんだ大関の座でどんな相撲を見せるか。昇進が決まったとき、「これからも大和魂を貫いて参ります」と覚悟を語っていた▼昇進の際の口上には四字熟語がよく使われる印象があり、大和魂は異色との評も聞かれた。本人は「男らしい感じの言葉がいい」といっていた。「日本人の我慢強さ、潔さなど色々な意味がこもっている」とも。たしかに、そう単純な語ではない▼一般には日本民族固有の精神といった意味だろう。古い辞書には「皇国人の廉直勇猛、国民上の精神」という定義がみられる。忠君愛国の精神でもあろう。かつて戦意高揚のために唱えられ、軍国主義を彩った勇ましい言葉の一つである▼ところが、文献上初めて登場するのは源氏物語だと、今回知った。少女(おとめ)の巻で光源氏が息子の教育方針を語るくだりに、中国の学問が基礎にあってこその大和魂だ、とある。儒教的な原理を日本の実情にあわせて応用する才覚のことをいうらしい▼批評家の小林秀雄は『学生との対話』の中で、大和魂は恐らく女の言葉だったろうと述べている。平安の頃、漢学は男のものだった。そのかたくなな知識とは反対の、柔軟な生きた知恵が大和魂であり、「人間性の機微」に通じた優しい正直な心を指しているのだ、と▼男らしさと、女の心ばえと。色々な意味があるといった豪栄道は的確だったというべきか。奥深い言葉の森に分け入ってみるのも時には楽しい。