日本禅宗四大道場というのをご存じだろうか? 那須の雲厳寺、筑前の聖福寺、越前の永平寺、紀州の興国寺を指すらしい。永平寺や聖福寺は納得だし、雲厳寺も有名だけれど、紀州の興国寺なんて聞いたこともないという方が多いのではないだろうか。なにを隠そう、この寺は約半世紀前、高校生だった私が修行のまねごとのために通ったお寺だ。由緒あるお寺だということは知っていたけれど、とても四大道場と言われるほどの印象はなかった。専門道場の看板は掲げていたけれど、師家が一人に雲水が一人だけというようなさびしい状況だった。
インターネットで調べてみると、「四大道場」説もすべて雲厳寺の宣伝ホームページであるというのもちょっと引っかかるけれど、興国寺の法堂には「関南第一禅林」という額がかかっている。確かにそのように勢いのある時代もあったのだろう。
興国寺は鎌倉時代の創建で御開山は心地覚心禅師(法橙国師)である。禅師は宋に渡り、無門関を編纂したことで有名な無門慧開の法を嗣いだ。無門関とともに味噌と醤油、それと尺八を日本にもたらしたのも禅師である。当地の名産品である「金山寺みそ」の名の由来は、禅師が修行していたことのある径山寺における味噌の製法を倣ったものであることからきている。
下の写真はかつての山門跡地である。かつては広大な寺領を有していたらしい。
うっそうとした林の向こうに風格のある石垣が見えてくる。
私が田舎にいたころはまだ「法燈派大本山」の看板を掲げていたが、現在は妙心寺派の末寺となっている。
近在は海岸の美しいところである。当寺を訪れた際は、是非、白崎海岸などに足を延ばして紀州の海岸美を堪能していただきたい。