緒方さんは元国連の偉い人として知られているが、彼女の功績を知る日本人は意外と少ないのではないかと思う。湾岸戦争後の混乱の中イラク国内のクルド人は非常に大きな困難に見舞われた。隣国に避難しようにもトルコからは入国拒否されている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) は難民に救うための組織であるが、当時は、国境を越えないと難民として認められない規定であった。しかし、緒方さんは「難儀をしている人に国内も国外もない。」と言い各方面に働きかけて、クルド人がUNHCRの援助を受けられるようにしたのである。いろんな思惑が交錯する国際関係の中で、緒方さんはただ一つの信念に従って行動していた。それは、困難に遭遇している人々のために、ひたすら外交努力を積み重ねるということである。そのことが、彼女が諸外国から多大な尊敬を集めている理由である。
彼女は日本の大きな財産である。彼女の遺志を理解し模範として行けば、日本は世界中から尊敬される国になるだろう。だが、われわれ日本人自身がそのことを分かっていないようにも見受けられる。日本の難民申請の受理はわずか1%、しかし産業界の要請により労働者としての移民を大量に受け入れようとしている。このようなご都合主義は如何なものか。先だっての台風で、東京都のある区の避難所では路上生活者の受け入れを拒否したという。区民ではないということを理由に、「あなたは風雨にさらされていなさい。」と言ってのける冷酷さを、その職員自身が自覚しているだろうか。
人道主義の立場に立ち自分自身できちんと判断し、主体的に行動する。そういうことを緒方さんは身をもって我々に教えてくれているのである。
緒方さんが偉大であればあるほど、日本という国の卑小さが際立っている。そう思えてならない。