現代俳句選抄

ご恵贈頂いた書誌から、五島高資が感銘した俳句などを紹介しています。

大井恒行・句集『水月伝』ふらんす堂

2024-05-01 | 俳句

覚悟なき死のおびただし核の冬  大井恒行
覚めているほかは眠りぬ鈴の風  同
ひかりなき光をあつめ枯れる草  同
赤い椿 大地の母音として咲けり  同
行方わからぬ光放てり手の林檎  同


高橋睦郞・句集『花や鳥』ふらんす堂

2024-02-22 | 俳句

この星の春を盡すや又震ふ  高橋睦郞

踝に雲さやりつぐ川禊  同

變若水や有爲の奥山㝱深く  同

春惜む綾取りの橋壊しては  同

三界は火宅風宅三の酉 同

山や水有情無情や皆目覺む  同

高橋睦郞先生より句集『花や鳥』(ふらんす堂)を頂きました。先生には昔より要所要所で大変お世話になっております。ご上木をお祝い致しますとともに併せて心よりお礼申し上げます。「芭蕉一代の表現行爲を継承しようと志すなら、その爲事を尊敬しつつ、各人自分一代の爲事を志さなければなるまい」と帯文にあり、深く首肯致します。


「オルガン」33号

2024-02-11 | 俳句

菜種梅雨パレードにひつような橋  田島健一

山桜なにも言わずについてくる  同

人をさがしてと奉じてゐる遅日  鴇田智哉

菜の花の群れが空気を膨らます  同

つま先に春の闇から届く波  福田若之

ゆく春に折り目があれば分けやすい  同

ほんたうはつばきのなかにあることば  宮﨑莉々香

星ぼしや見えなくなつた手に手を振る  同

こゑが地に届いて枝垂桜かな  宮本佳世乃

ともに夜を生き桜蘂降りつづく  同

 


高橋亜紀彦・句集『異邦の神』朔出版

2024-02-11 | 俳句

何度開けてもないものはない冷蔵庫  高橋亜紀彦

仙人掌の永き夢から醒めて赤  同

曼珠沙華汝もサイコパスかも知れず  同

白梅や詩人は生くるために書く  同

長き夜や使ひみちなき砂時計  同

出目金の泪に誰も気づかざる  同

 


越智友亮・句集『ふつうの未来』左右社

2024-02-11 | 俳句

雪もよい湯気のにおいのからだかな  越智友亮

気を抜くと雨粒こぼす春の空  同

噴水の水やわらかく水に消ゆ  同

駆け足や宇宙は秋の空の上  同

金木犀両手で握手して別る  同

数学をやめ台風を待っている  同

河童忌の鉄のにおいの掌よ  同

稲咲いて朝をくださる光かな  同

革ジャンの鈍きひかりやうまごやし  同

白玉や今が過ぎては今が来て  同

相槌うって君は話さずオリオン座  同

川幅に橋おさまらず枯葎  同


加藤哲也・句集『最終列車』角川書店

2024-01-31 | 俳句

わだつみの道の遠のく秋入日  加藤哲也

顔見世を出て風となる一と日かな  同

宵闇に紛れ込みたる夏館  同

新涼やロダンの肘のあたりより  同

大人にもこどもにも降る木の実かな  同

蠟梅や知覚過敏を憂ひつつ  同

菜の花や月光菩薩立ち上がり  同

 

 


蜂谷一人 著・句集『四神』朔出版

2024-01-25 | 俳句

ぶらんこの裏まで見せて跳びにけり  蜂谷一人

心太突いて夜空を滴らす  同

龍骨のかたちに日本南吹く  同

林檎むくまあるくほどけゆく時間  同

もう土へかへる桜でありしもの  同

蒼き灯の底を聖夜の魚となる  同

蛤の舌夕暮に触れてをり  同

馬跳びの最後冬夕焼と遭ふ  同

ひぐらしや波の広がる心字池  同

空蟬を残して声となりにけり  同

昼点いて白熱灯や虚子忌なる  同


佐藤文香・アメリカ句集『こゑは消えるのに』港の人

2024-01-18 | 俳句

噛みてなほ七面鳥の皮の照り  佐藤文香

ぬかるみのあかるみを踏み友なりけり  同

にはとりのはぐれて一羽春の中  同

夏霧を鳥おりてきて馬となる  同

終の住処鉄扉に薔薇を這はせあり  同

こゑで逢ふ真夏やこゑは消えるのに  同

音楽のあをく膨らむ熱帯夜  同

 


「オルガン」35号

2024-01-14 | 俳句

事切れてまだ虫籠のなかにいる  福田若之

手に木の葉てんごくにも俳句はあるよ  宮﨑凜々香

木犀の届いてゐたる自動ドア  宮本佳代乃

心地よく浮かぶ月かたむき沈む  田島健一

星あかり豆腐の壁にゆきあたる  鴇田智哉

 


ユプシロン第6号

2024-01-14 | 俳句

卒業の丘からのぞむガスタンク  小林かんな

来た路を金魚とともに引き返す  同

にんじんの太くて書架にトルストイ  同

大人になってからの友達梅三分  仲田陽子

ピーマンの中へ本音を詰めておく  同

白鳥の遺伝子をもち自由なる  同

灰色の象の背に乗る朧月  中田美子

フラスコに残る触媒昼の月  同

黄落のあちらこちらに庭師立つ  同

少しづつ空気を吐いて百合の花  岡田由季

数へ日の母はさつさと助手席に  同

初旅の関東平野のびてゆく  同

 

 

 

 


中原道夫・句集『九竅』エデュプレス

2023-11-03 | 俳句

ここのつの竅の明け暮れ年つまる  中原道夫

鶏卵の冬日を両手囲ひなる  同

納豆の糸切る顔も回しけり  同

古墳には松の傾く日永かな  同

断崖に柵なく夏の終はりたる  同

深山にて蝶より人に会はざりし  同

みどりなす那須塩原を次で降り  同

天辺にまだ上のある曼珠沙華  同