この星の春を盡すや又震ふ 高橋睦郞
踝に雲さやりつぐ川禊 同
變若水や有爲の奥山㝱深く 同
春惜む綾取りの橋壊しては 同
三界は火宅風宅三の酉 同
山や水有情無情や皆目覺む 同
高橋睦郞先生より句集『花や鳥』(ふらんす堂)を頂きました。先生には昔より要所要所で大変お世話になっております。ご上木をお祝い致しますとともに併せて心よりお礼申し上げます。「芭蕉一代の表現行爲を継承しようと志すなら、その爲事を尊敬しつつ、各人自分一代の爲事を志さなければなるまい」と帯文にあり、深く首肯致します。
菜種梅雨パレードにひつような橋 田島健一
山桜なにも言わずについてくる 同
人をさがしてと奉じてゐる遅日 鴇田智哉
菜の花の群れが空気を膨らます 同
つま先に春の闇から届く波 福田若之
ゆく春に折り目があれば分けやすい 同
ほんたうはつばきのなかにあることば 宮﨑莉々香
星ぼしや見えなくなつた手に手を振る 同
こゑが地に届いて枝垂桜かな 宮本佳世乃
ともに夜を生き桜蘂降りつづく 同
何度開けてもないものはない冷蔵庫 高橋亜紀彦
仙人掌の永き夢から醒めて赤 同
曼珠沙華汝もサイコパスかも知れず 同
白梅や詩人は生くるために書く 同
長き夜や使ひみちなき砂時計 同
出目金の泪に誰も気づかざる 同
月に住む時代それでも白子干 仲寒蟬
入口のとなりに出口牡丹園 同
息止めて水着売場を抜けにけり 同
バイナップルすら爆弾に見えてくる 同
出目金の赤は黒より不幸せ 同
雪もよい湯気のにおいのからだかな 越智友亮
気を抜くと雨粒こぼす春の空 同
噴水の水やわらかく水に消ゆ 同
駆け足や宇宙は秋の空の上 同
金木犀両手で握手して別る 同
数学をやめ台風を待っている 同
河童忌の鉄のにおいの掌よ 同
稲咲いて朝をくださる光かな 同
革ジャンの鈍きひかりやうまごやし 同
白玉や今が過ぎては今が来て 同
相槌うって君は話さずオリオン座 同
川幅に橋おさまらず枯葎 同
わだつみの道の遠のく秋入日 加藤哲也
顔見世を出て風となる一と日かな 同
宵闇に紛れ込みたる夏館 同
新涼やロダンの肘のあたりより 同
大人にもこどもにも降る木の実かな 同
蠟梅や知覚過敏を憂ひつつ 同
菜の花や月光菩薩立ち上がり 同
ぶらんこの裏まで見せて跳びにけり 蜂谷一人
心太突いて夜空を滴らす 同
龍骨のかたちに日本南吹く 同
林檎むくまあるくほどけゆく時間 同
もう土へかへる桜でありしもの 同
蒼き灯の底を聖夜の魚となる 同
蛤の舌夕暮に触れてをり 同
馬跳びの最後冬夕焼と遭ふ 同
ひぐらしや波の広がる心字池 同
空蟬を残して声となりにけり 同
昼点いて白熱灯や虚子忌なる 同
噛みてなほ七面鳥の皮の照り 佐藤文香
ぬかるみのあかるみを踏み友なりけり 同
にはとりのはぐれて一羽春の中 同
夏霧を鳥おりてきて馬となる 同
終の住処鉄扉に薔薇を這はせあり 同
こゑで逢ふ真夏やこゑは消えるのに 同
音楽のあをく膨らむ熱帯夜 同
事切れてまだ虫籠のなかにいる 福田若之
手に木の葉てんごくにも俳句はあるよ 宮﨑凜々香
木犀の届いてゐたる自動ドア 宮本佳代乃
心地よく浮かぶ月かたむき沈む 田島健一
星あかり豆腐の壁にゆきあたる 鴇田智哉
卒業の丘からのぞむガスタンク 小林かんな
来た路を金魚とともに引き返す 同
にんじんの太くて書架にトルストイ 同
大人になってからの友達梅三分 仲田陽子
ピーマンの中へ本音を詰めておく 同
白鳥の遺伝子をもち自由なる 同
灰色の象の背に乗る朧月 中田美子
フラスコに残る触媒昼の月 同
黄落のあちらこちらに庭師立つ 同
少しづつ空気を吐いて百合の花 岡田由季
数へ日の母はさつさと助手席に 同
初旅の関東平野のびてゆく 同
ここのつの竅の明け暮れ年つまる 中原道夫
鶏卵の冬日を両手囲ひなる 同
納豆の糸切る顔も回しけり 同
古墳には松の傾く日永かな 同
断崖に柵なく夏の終はりたる 同
深山にて蝶より人に会はざりし 同
みどりなす那須塩原を次で降り 同
天辺にまだ上のある曼珠沙華 同
しやぼん玉息もろともにかがやくよ 杉山久子
魚の眼みなこちら向く寒さかな 同
三日月を栞としたるこの世かな 同
聖樹の灯人待つ人を照らしをり 同
ミサイルが来る風呂吹に箸の穴 同