現代俳句選抄

ご恵贈頂いた書誌から、五島高資が感銘した俳句などを紹介しています。

加藤哲也・句集『最終列車』角川書店

2024-01-31 | 俳句

わだつみの道の遠のく秋入日  加藤哲也

顔見世を出て風となる一と日かな  同

宵闇に紛れ込みたる夏館  同

新涼やロダンの肘のあたりより  同

大人にもこどもにも降る木の実かな  同

蠟梅や知覚過敏を憂ひつつ  同

菜の花や月光菩薩立ち上がり  同

 

 


蜂谷一人 著・句集『四神』朔出版

2024-01-25 | 俳句

ぶらんこの裏まで見せて跳びにけり  蜂谷一人

心太突いて夜空を滴らす  同

龍骨のかたちに日本南吹く  同

林檎むくまあるくほどけゆく時間  同

もう土へかへる桜でありしもの  同

蒼き灯の底を聖夜の魚となる  同

蛤の舌夕暮に触れてをり  同

馬跳びの最後冬夕焼と遭ふ  同

ひぐらしや波の広がる心字池  同

空蟬を残して声となりにけり  同

昼点いて白熱灯や虚子忌なる  同


佐藤文香・アメリカ句集『こゑは消えるのに』港の人

2024-01-18 | 俳句

噛みてなほ七面鳥の皮の照り  佐藤文香

ぬかるみのあかるみを踏み友なりけり  同

にはとりのはぐれて一羽春の中  同

夏霧を鳥おりてきて馬となる  同

終の住処鉄扉に薔薇を這はせあり  同

こゑで逢ふ真夏やこゑは消えるのに  同

音楽のあをく膨らむ熱帯夜  同

 


「オルガン」35号

2024-01-14 | 俳句

事切れてまだ虫籠のなかにいる  福田若之

手に木の葉てんごくにも俳句はあるよ  宮﨑凜々香

木犀の届いてゐたる自動ドア  宮本佳代乃

心地よく浮かぶ月かたむき沈む  田島健一

星あかり豆腐の壁にゆきあたる  鴇田智哉

 


髙野公一 著『芭蕉の天地「おくのほそ道」のその奥』朔出版

2024-01-14 | 評論

髙野公一先生よりご著書を頂きました。お手紙では、拙著『芭蕉百句』への温かいご批評を賜り、重ねて心よりお礼申し上げます。先生は「芭蕉の天地」で、ドナルド・キーン賞優秀賞を受賞された碩学にして恐縮至極に存じます。いずれにしましても、現代にあって、芭蕉の俳諧精神を探求する者同士として心強い思いがしました。深謝まで。


ユプシロン第6号

2024-01-14 | 俳句

卒業の丘からのぞむガスタンク  小林かんな

来た路を金魚とともに引き返す  同

にんじんの太くて書架にトルストイ  同

大人になってからの友達梅三分  仲田陽子

ピーマンの中へ本音を詰めておく  同

白鳥の遺伝子をもち自由なる  同

灰色の象の背に乗る朧月  中田美子

フラスコに残る触媒昼の月  同

黄落のあちらこちらに庭師立つ  同

少しづつ空気を吐いて百合の花  岡田由季

数へ日の母はさつさと助手席に  同

初旅の関東平野のびてゆく  同