逆波は根の国生れ蘆の角 高野ムツオ
テーブルの無数の傷へ春の雷 同
古墳から揺れがはじまる春の地震 渡辺誠一郎
花粉とぶきれいな色の水薬 栗林浩
魚叱る男ありけり夏の月 大場鬼怒多
かたつむり音立てて降る夜の雨 今瀬剛一
泉湧く泉の芯をひた隠し 同
遠泳のこのまま星とならむかな 同
春の雲人も鳥居も足二本 今瀬一博
花が花いざなひ堤あふれだす 岡崎桂子
火の影を踏む白足袋や薪能 小川軽舟
体内を燃やす呼吸や夏来たる 同
砂利船の吃水深し五月雨 同
春眠のわたしは布のやうに広い 奥坂まや
汗しつつ街のいづこにゆくも壁 髙柳克弘
虫の夜の星夜に浮く地球かな 大峯あきら
日輪の燃ゆる音ある蕨かな 同
峰雲を背後に水素ステーション 浦川聡子
春の月ぬうつと藁の屋根の上 黛執
畑にゐる人にまつはる蝶々かな 山本洋子
梅雨の雷などにもふつと励まされ 黒田杏子
卓袱台をたためばほたる二つ三つ 同
如月の望月をやや過ぎしころ 髙田正子
床の間に琴立てかけし朧かな 中岡毅雄