ももの日の人形の影ひとの影 斎藤信義
明け方の天女が原の淑気かな 同
雪晴れやアイヌコタンの空舟 同
潰したるペットボトルの中に海 夏木久
原子炉に銀河鉄道途中停車 同
朝顔の淵に停まらず縄電車 同
風鈴が残りねえやが入替る 仁平勝
別れるの別れないのと冷奴 同
立春の電車に座る席がない 同
魔法瓶有るだけ並べ甘茶寺 伊藤伊那男
マッチ一本迎火として妻に擦る 同
京の路地一つ魔界へ夕薄暑 同
一日の中の永遠返り花 青木澄江
春昼の真ん中は乱丁である 同
うたかたは十一月へ急ぎけり 同
山中に塩の地名や青胡桃 堀越胡流
神木の影のなかなる三尺寝 同
月光の深きにいつか魚となる 同
松葉掃く母に木洩れ日石蕗の花 依田百合
諾ふも拒むも独り花曇 同
毛糸編むいつしか菫色の午後 同
ぼうたんの花弁の底に今朝の雨 三好美津子
百粁先の初富士へ疾走す 同
大綿に風に逆らふ意志のあり 同
白れんや空の付箋を剥がしつつ 田中葉月
ふらここの響くは子音ばかりなり 同
銀漢や象のなみだに触れに来る 同
少女らは跡を見にゆく野焼かな 高木一惠
啓蟄や川から畑へ水運ぶ 同
定住漂泊おぼろ狐の尾の千切れ 同