2016年の世界選手権は、羽生選手にとって波乱の展開となりました。
公式練習時の曲かけ練習での妨害騒動が問題となり、心が乱されてご本人曰く「精神がぐちゃぐちゃだった」との状態から迎えた、1年で一番大事な試合。
まずこちらは、ショートの、公式曲かけ練習の時の動画です。
後半のステップが、今まで以上に見ごたえがあって素敵ですね。かなり練習してきたのだと、解ります。
こちらは、別の動画主様の映像で、羽生選手がよりクローズアップされていますので、上の動画ではわからないことがわかります。両方を合わせて見ると、良く分かります。
同じく本番のショートよりも前に行われた、フリーの曲での「曲かけ練習」の動画(音ナシ映像)はこちらです。
目線と動きをきちんと追っていれば、狙ってやっているのかどうか、普通は見てわかります。
また、その選手が夢中になりすぎただけなのかどうか、集中して周りが見えなくなっている状態なのかどうか等も、その動きに前後からずっと真剣さがあるのかどうかをきちんと見ていれば、一目瞭然です。
曲かけ練習の時、曲のかかっている選手が端を通過するときに他選手とすれ違うのはよくありますが、曲かけ練習の選手がリンクの中央にいる時にさえ、「何度も」すぐ近くをすれ違ったりぶつかりそうになるというのは、相手が真ん中を狙って滑ってこないと出来ないことであり、「偶然」では起きないと私は思っています。
上の動画では、羽生選手はよく耐えていますね。
一連のことは、「一連の流れの中で」総合的に判断すべきです。
曲かけ練習で既にくり返されてきたことを、「注意したのに、またもや繰り返した」という最も重いその事実を無視し、最後の一瞬だけを切り取って、判決を下すようなことを一方的にしている人は、あえて事実をねつ造しているのと同じです。
そのような記事を書く人の文章を読んで、それに気が付けない人たちも、残念ですね。
さて、男子のショートプログラムは、ジャンプの細かいミスはあっても、全体に、
とても良い演技が続出しました。
特に、会場となったアメリカの、アメリカ選手たちは、滅多にないほど、生き生きとした素晴らしい演技をしたように思いました。盛り上がりも凄かったですね。
こちらは、羽生選手のいた最終グループの、6分間練習の様子の動画です。
この映像には、あまり羽生選手は映っていませんが、映っている時には、羽生選手の背中が珍しく開いていて、
閉め忘れなのか、暑くてわざとやったのか(この日は普通だったはずですが)、見ている側はドキドキしましたね。
いつもよりも相当緊張していたのだろうと解ります。
でも、本番までには元に戻っていて、一安心。
羽生選手のショート「バラード第一番」。 解説ナシの動画です。
まず、私の感想を一言で言うと、見ていて「とても幸せな演技だった!」と思いました。
この「幸せな」という言葉は、なぜ出てきたのか、最初は自分でもよくわかりませんでしたけど、
その後、演技終了後に羽生選手がインタビューで、
「気持ちよく滑ることが出来た」「滑っていて幸せだった」とコメントしたのを見て、なるほど!と納得しました。
前からずっと思っていたことですが、滑っている時の選手の気持ちというのは、観ている側にも、きちんと伝わるんですよね。
全体として、音に合わせて非常に繊細に細やかに、強弱も含めて全身で的確に表現されていて、本当にとても素晴らしかったです。
情熱と繊細さが光り、冷静さと激しさが見事に同居するような、そんなバラード第一番でした。
途中、4回転トウループ+3回転トウループのところで、最初の4回転が少し着氷が沈んで、
いつもよりワンテンポ遅れたかに見えたのですが、その後に何の問題もなさげに後続ジャンプを見事にキレイに成功させていきました。
かつてのプルシェンコ選手もそうでしたけど、こういうところで、普通はできないような、圧巻の技術力を見せてくれたのも凄いですが、
そのほんのわずかな遅れにより、かえってその後の全てが音楽にピッタリと合ったように見え、逆にハッとさせられました。
そんなちょっとしたことさえも、より素晴らしい演技へつながった要素になったように見えて、とても感動しました。
この、4回転トウループ+3回転トウループのジャンプから、バタフライから入るキャメルスピンのところまでは、全てが音楽にピッタリと合っていて、非常にカッコよくて印象に残ります。
最後のトリプルアクセルは、レイバック(=上半身を後ろに反らす)なしのイナバウアー(=イーグルのように足を左右に開脚して横滑りするが、両足を前後ずらして滑る技のこと)から、
羽生選手得意のバック・アウト・カウンター(=後ろ向きスタートの、アウトサイドエッジで滑る、カウンターという種類のターン)に続いて、助走なしで跳ぶ、超・高難度のものです。
この最後のトリプルアクセルの着氷の瞬間とそれに続く一連の動作が、
私から見ると「最も心奪われたポイント」で、息を呑むような素晴らしさと美しさでした!
シットスピンも、手の表現まで細やかで、とても良かったと思いましたし、そこからステップへ入るまでのところの表現も、とても良かったです。
ステップも、今までで一番、音楽に合ったイメージに仕上がっていたと思いました。
途中、ちょっとだけ音から遅れたかに見えてドキッとしたのですが、その後は問題なく合わせてきて、
特にステップの最後から、スピンを含む演技終了の瞬間までの、曲に合わせた盛り上げ方、気迫は凄かったと思いました。
最後のコンビネーション・スピンの途中から歓声が凄くなり、演技終了と同時に、観客総立ちでスタンディングオベーションになっています。
グランプリ・ファイナルで更新した歴代最高得点に、ほんのわずかなだけ足りない点数が出ましたけど、これはもう、ただの誤差の範囲みたいなものだと思います。
観終わった瞬間に、「あ、110点は出るな」と思った演技でした。
グランプリ・ファイナルの時は、冷静さと落ち着きが光る、セルフ・コントロールの徹底した完璧と呼べるような演技でしたけど、
今回のこちらは、やや揺らいだ要素が見られたものの、それさえも逆に味わいに変えていったような、全体に「情熱が勝る」演技だったかな、と思いました。
どちらも素晴らしく、どちらも羽生選手らしくて、甲乙つけがたいですね。
でも、羽生選手も語っていたように、嬉しさでは、今回の方が上でした!
終了直後の、興奮した様子は、王子イメージをぶち壊しにかかっているのかと思いました。(笑)
私はアップにされた映像を見たので、思わず爆笑してしまいましたが、でもあれは、時間にしたらほんの一瞬でしたよね。
演技終了直後に、鼻の穴が広がるほど興奮して雄叫び調になるのは、歴代アメリカ女子選手(ミッシェル・クワンさんとか、サーシャ・コーエンさんとか…)にも良く見られたように記憶しているので、(あちらは女子ですので、当時はちょっと引きましたが、次第に見慣れました)、
さすがアメリカ会場…!と思った私でした。(笑)
でも、それだけ喜びが爆発するような、困難と理不尽さの中で、激しい精神的な闘いを潜り抜けて成し遂げた演技だったのだろうと思います。
それだけに、演技は本当に見事でしたね。
「よっしゃー!見たか!」って叫んだだの何だのと騒がれていましたけど、
ファンとしては、
「もちろん、しっかり見ていましたけど?」(笑)とか、
「おっしゃー!見たぞ!」と、笑って返してあげたいところです。
羽生選手は、現時点での記録保持者であり五輪金メダリストでもある立場から、フィギュアスケート界に巣食う「悪霊ども」(=人間のことじゃありません!)や、「見えない闇の力」に向けて叫んだのだと、私は解釈しています。(笑)
その後、胸に手を当て、胸を強く叩くようにしながら、真剣な表情で、いつも以上に丁寧に感謝を込めてお辞儀をしていた羽生選手の姿が、むしろ私の印象に強く残り、見ていて胸にじーんと来るものがありました。
本当に強い思いで臨んだ試合だったのだと、よく伝わってきましたので…。
日本のテレビ解説では、
本田武史さんが、「全体的に、柔らかさの中で強さも見える、素晴らしい演技でした。」と褒めてくださり、(その通りだと思いました!)
高橋大輔さんが、「凄いの一言ですね。最終グループ、ミスが続く中で、ミスをしない強さを見せつける彼の強さをまた見せつけられた。 スケーティングのほうも身体が動いていて、ぐんぐんぐんぐん心をつかまれていくプログラムでしたね。」
と言って下さいました。(これもその通りだと思いました!)
日本の男子の元トップ選手として、似たような状態に置かれたり、様々なものと闘ってきた過去のあるお二人は、羽生選手の終了時の表情等なんかについて、あれこれ言ったりしていませんね。
今回の羽生選手の置かれた状況や、その心情、こういう中でパーフェクト演技をすることの大変さを、本当は誰よりもわかっているであろうお二人からの、心のこもった、素直な称賛が嬉しいですね。
ショート終了後の、英語のインタビューです。
羽生選手は、この日の演技とその結果について、「本当にものすごく嬉しいです」「練習がほとんど滅茶苦茶だったので、グランプリ・ファイナルの時よりも嬉しいです」 と答えています。
前回はハビエルに負けたけど、今回はあなたが勝つ番だね、と言われた後、ちょっと照れながらも、「もちろん、優勝したいけれども、まずはフリープログラムを、落ち着いて、集中して演技したいです」と答えています。
こちらは、ショート終了後の、Jsportsのインタビューです。
…羽生選手、一体いくつのインタビューをこなしたのでしょうか。
Jsportsの時は、既に相当なインタビューをこなした後のようです。大変でしたね。
プレスカンファレンス(記者会見)での羽生選手の様子です。
こちらは、ロシアのタラソワコーチが、羽生選手の演技を絶賛しているのを、
「ロシアン・フィギュアスケート・フォレヴァ」のブログ主さんが翻訳して下さっていますので、
どうぞご参考に。 → http://moscowm.blog61.fc2.com/blog-entry-945.html
注目すべきは、「50年以上コーチをやってきた」というタラソワコーチが、「こんなにも幸せな気持ちになるなんて」、と、羽生選手の演技を手放しで喜んでいる点です。
タラソワコーチもこの演技を観て 相当幸せな気持ちになっていたようです。
私は、とっても嬉しかったです!
さて、一方で今回、ショート終了後のインタビューの時点で既に、羽生選手は公式練習の時に怒りをあらわにしてしまったことそのものについては、自分で反省していることをカメラの前で述べているのですが、これを報道しなかったところが多いようです。
またそれらの状況を全く想像もできない人たちや、相手国の背後にある政治的な関係等を全く考慮できない人たち、さらには、特定の記事の中にある大きな誤りに直ちに気が付けないで拡散している人たちも、誰のファンとか関係なく、本当に残念なことです。 読めばわかると思うのですが。
また、シーズン通して感じたことですが、「闘志」と「怒り」は正確には大きく違うと思うのですが、何かというと、闘志を怒りと勝手に表現して、「怒り」をあおり、「怒る」ことをはやし立てるかのような報道やコメントをする人たちは、私には、本当に素晴らしい演技が見られることや、本当に選手が勝つことを望んで応援しているように全然思えません。
怒りが、危険を伴う高難度技の成功や、最高評価につながるわけがないことぐらい、フィギュアスケートを見てきた人なら解るはずです。
また、「演劇」のような「演技」要素ばかりを求める人は、フィギュアスケートではなくて、劇場に行って、ぜひとも役者さんたちを応援してあげてほしいと思いますし、
一瞬の「表情」ばかりを、「大事な試合の前後でさえ」選手に求めるような人たち、そのようなもののつまらない「再現」をわざわざやらせたい人は、本気で全てをかけて真剣に勝負している選手ではなく、モデルさんやお笑い芸人さんたちに頼んでほしいと思います。
さて、この男子ショートで、羽生選手以外で、特に目を引いた演技をしてくれたのは、チャン選手、宇野選手、フェルナンデス選手でした。
コフトゥン選手は、今シーズンのSPはとても面白いと思うし今までにない魅力が出ていたと思うのですが、「I can't dance!」と叫ぶ歌に合わせて、むしろ踊りまくるというのは、アメリカ人にはちょっとどうなのか、と思えて…(笑)
「I can dance !」だったら、観客に盛り上げてもらえたかも…と思いました。
宇野選手の演技は良かったです。 集中力や気迫が凄かったですね!
さて、こちらはパトリック・チャン選手のSP.
今シーズン、チャン選手は、フリーでは素晴らしい演技を見せていましたけど、ショートがイマイチでしたが、今回のものは素晴らしかったです。
今までの中で一番良い出来で、特に、本当に本当に楽しそうに、心から嬉しそうに自在に滑っているのが良く伝わってきた点が素晴らしかったです。
ジャンプでミスはあったものの、表現面がとても良くなっていました。ここまで心から楽しそうに、このプログラムを滑るチャン選手を見たのは初めてな気がして、私はかなり驚きました。
精神的に何か突き抜けたのだな、と感じましたし、この調子でフリーで快心の演技を見せたら、羽生選手にはまだまだ脅威になり得る存在だなと思えました。
全てにおいて向上心のある羽生選手にとっては、このパトリック・チャン選手が今シーズン見せた、演技に対する態度の変化は大きな意味を持ってくると思うし、今後も有り難い存在となるしょう。
次は、ハビエル・フェルナンデス選手。
このプログラムは、私には最初から、フェルナンデス選手史上ベストプログラムだと思えていましたし、特に今シーズンはグランプリ・ファイナルがスペインで、世界選手権がアメリカ、という会場を思えば、(アメリカ東部は、第二公用語がスペイン語なくらいですから)どちらでも大うけし、高評価につながることは目に見えていました。
演技の出だしから、非常に引き付けられるものがあり、自信をもって堂々としたスタートの演技でしたし、今回は2個目の4回転でミスがありましたけど、それ以外はよく集中していて、一つ一つが、今シーズンの中でも特に素晴らしい出来に仕上げてきた、と感じました。
上半身の動きにも既に余裕が感じられ、プログラムが「彼のもの」になっている感じがしました。
もしジャンプミスがなかったら、一体何点が出たのか…と思わされ、
だからこそ、フリーで一番羽生選手の脅威になるのは、彼だろうな、という予測が出来ました。
結果的に、当たっちゃって、ちょっと嬉しくないです。(笑)
でも、そんな中でも、羽生選手には、「観ていて幸せを感じられるような、圧巻の演技を見せてくれて、どうもありがとう!」と言いたいですね。
歴代最高得点となっている、グランプリ・ファイナルの時のショートと並ぶような、
多くの観ている人を幸せな気持ちにした、良い意味でも記憶にも残る演技だったと、私は思いました!
男子のショートで唯一だった、観客の大歓声と総スタオベが、その何よりの証拠ですね!(笑)