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習近平氏を無視、鄧小平路線絶賛する重鎮論文の不穏

2021-12-22 15:56:54 | 日記
習近平氏を無視、鄧小平路線絶賛する重鎮論文の不穏

編集委員 中沢克二

習政権ウオッチ2021年12月22日 0:00 


中国で異変が起きている。揺るぎない権威を固めたはずだった総書記(国家主席)、習近平(シー・ジンピン)の名前を一度も挙げずに無視した不穏な論文が、共産党機関紙である人民日報に堂々と載ったのだ。

奇妙なことに、これは「中央委員会第6回全体会議(6中全会)の精神を深く学ぶ」と題した文章なのである。

人民日報の理論ページのトップに大きく掲載された「改革開放は党の偉大な覚醒」と題した高官の論文

論文が習の代わりに最大限、評価したのは鄧小平だった。

その名に9回も触れて「改革開放は共産党の偉大な覚醒」と絶賛し、「長期にわたる『左』の教条主義の束縛から人々の思想を解放した」と思想路線面での賛辞も惜しまない。

これは悲惨な文化大革命(1966~76年)までの毛沢東路線の誤りを痛烈に批判した表現だ。

毛に対する個人崇拝への厳しい視線も感じるが、習への権力集中に絡む敏感な問題だけに「寸止め」になっている。

中国を世界第2位の経済大国に引き上げ、第1位の輸出大国とし、世界の工場にした……。

鄧小平路線を引き継いだ歴代国家主席である江沢民(ジアン・ズォーミン)、胡錦濤(フー・ジンタオ)時代の業績も事細かに挙げている。

この論文を単独で読めば、上中等収入国の仲間入りをした2010年までに「歴史的な突破」と名付けた中国の経済的台頭は一段落し、12年以降の習近平時代は鄧、江、胡がこしらえた素晴らしいごちそうの食べ残しで食いつないでいるような錯覚にとらわれる。

あらわになった「鄧・江・胡」vs「毛・習」の構図

注目すべきは、書き手である曲青山のポストである。

中央党史・文献研究院院長という共産党の過去・現在の歴史解釈の要となる重鎮なのだ。

当然ながら「鄧小平超え」を演出した「第3の歴史決議」取りまとめにも関わっていた。

「改革・開放」政策で自らの時代をつくった鄧小平氏(広東省深圳で)
しかも曲青山は現職の中央委員(閣僚級)だ。

中央委員197人、中央委員候補151人が大集合した6中全会にも出席している。今の党内の雰囲気を熟知したうえでこの論文を提起した意味は重い。

「(共産党内で)今後の中国を左右する2つの考え方がなおぶつかっている。

歴史的な観点からみれば、論争があるのはむしろ健全な動きだ」。

ある共産党の関係者は、必然性を指摘する。

論争の存在を浮き彫りにしたのは早速、曲青山論文に対する反撃が出たことだ。掲載からわずか4日後、人民日報は同じ理論面に、中央政策研究室主任の江金権による正反対の論調の文章を載せた。

タイトルは「党による全面的指導の堅持」。

こちらは、習時代より前の分散主義、自由主義を攻撃する第3の歴史決議が醸し出す雰囲気に忠実な習礼賛トーンだ。

党の絶対指導、党への絶対忠誠は、突き詰めれば習への権力集中を是とする論理に他ならない。

中国共産党の歴代指導者、左から毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平の各氏

鄧小平、江沢民、胡錦濤の3人は無視。

あえて毛沢東を2回登場させ、習の名を6回も挙げた。

鄧、江、胡がセットであるように、毛と習もまたセットなのだ。その2グループは思想路線を巡って対峙している。

党の喉と舌といわれる党機関紙に対峙する論調が載ったのは、歴史決議自体が解釈上、巨大な矛盾を含んでおり、引き続き党内で議論がある実態を象徴している。

とはいえ江金権は20年に中央政策研究室トップに抜てきされた新進の幹部で、まだ中央委員でもない。いわば格下である。これでは、どちらが主流なのかさえ曖昧だ。

来年の経済政策も左右する路線闘争

見逃せないのは、政治的な路線闘争が、現実の経済政策づくりに密接にリンクしている構造だ。

曲青山論文が載った12月9日は習、首相の李克強(リー・クォーチャン)も出席して来年の経済政策を議論した中央経済工作会議の真っ最中だった。

中国を成長に導いた改革開放こそが取るべき道だと圧力をかけているのである。
オンライン形式で記者会見する李克強首相(3月)=AP

12月上旬にも、これに絡む重大な発言があった。

「中国経済は向こう何年か、かなり厳しい状態に置かれる。これからの5年間は、改革開放から40年余りで最も困難な時期になるだろう。決して楽観すべきではない。第1の問題は内需の後退だ……」。

李克強のブレーンである著名な経済学者、李稲葵の経済フォーラムでの発言は、時期が時期だけに波紋を広げた。

これから5年間とは習が6中全会を経てトップを維持する方向性が大筋、固まった期間にピタリと重なっている。不動産の構造的な値下がり、地方財政の逼迫、教育・エンターテインメント産業への規制、頭打ちの自動車市場など具体的問題に触れつつ、厳しい予想を公開の席で語ったのは興味深い。

そして内需喚起に向けた長期的な処方箋として示したのは、李克強式の「都市と農村の一体化」政策だった。

当局の姿勢を批判した中国の楼継偉元財政相=共同

58歳になった気鋭の学者、李稲葵は全国政治協商会議委員も務める清華大学中国経済思想・実践研究院院長であり、発言力は強まりつつある。

もう一つ、気になる発言があった。元財政相の楼継偉による暴露である。

「中国の統計数字は経済のマイナスの変化を反映していない」。

中央経済工作会議の終了直後だけに反響が大きかった。

年明けに発表される21年の成長率といった経済統計もマイナス面が省かれていると言っているに等しいのだ。

楼継偉は元首相、朱鎔基の周りを固めていた「改革派」である。

その朱鎔基は鄧小平に抜てきされて、1990年代に国有企業改革を断行した実績がある。

改革開放路線の系譜を継ぐ楼継偉は、習の経済路線とは微妙な距離があっただけに、今回の発言にも意味があるとみられている。

先の中央経済工作会議の発表では「安定」を意味する文字を25回も使った。

直接、言いにくい中国経済の不安定さを暗に示す表現である。

これと李稲葵、楼継偉の発言を合わせれば、厳しさの度合いを推し量ることができる。

年末が近づく中国で20日、1年8カ月ぶりの利下げが発表されたのも同じ流れにある。

「長期執政、長治久安」 習氏が引き締め

「改革開放を偉大な覚醒と持ち上げた論文は、(習の)静かな怒りを買ったのではないか」。

そんな噂も飛び交う中、習は早速、党内引き締めの動きに出た。

再び権力集中の意義と長期にわたる執政の重要性を訴える重要指示を全党に発したのだ。そこで使った習独特の用語は「集中統一指導」「長期執政」「国家の長治久安」だった。

習の重要指示を久々に開かれた全国党内法規工作会議で伝達したのは、習側近の能吏で中央弁公庁主任の丁薛祥だ。

会議で演説したのは思想・イデオロギー担当の最高指導部メンバー、王滬寧(ワン・フーニン)である。

こちらは曲青山論文に反撃した江金権を、自らも務めていた中央政策研究室トップに引き上げた人物だ。

権力集中を志向する「毛・習」と、改革開放を旗印にする「鄧・江・胡」の路線闘争。野心的な「鄧小平超え」に踏み込んだ第3の歴史決議は、闘いに再び火をつけてしまった。

そこには減速著しい現下の中国経済にどう対処するかという主導権争いも絡む。今後5年余りを左右する22年秋の共産党大会に向けた闘いは、簡単には終わらない。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。


文氏自慢の「K防疫」はなぜ挫折したのか…日本との差に衝撃

2021-12-22 14:14:37 | 日記
文氏自慢の「K防疫」はなぜ挫折したのか…日本との差に衝撃

2021/12/22 01:00桜井 紀雄有料会員記事




韓国では連日、新型コロナウイルスのPCR検査を受けるため、人々が長蛇の列を作っている =15日、ソウル(AP)
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は新型コロナウイルス感染による重症患者の急増を受け、防疫措置の緩和で段階的に日常生活を回復させる「ウィズコロナ」政策を今月中旬から中断した。迅速な検査で感染拡大を未然に防ぐ韓国式「K防疫」は国際的に評価され、文政権の支持率を押し上げてきたが、この防疫スタイルは実質崩壊しているとも指摘される。文大統領自慢のK防疫はなぜ挫折したのか。K防疫がもてはやされていた1年半前に崩壊の兆しがあった事実が浮かび上がってきた。
■あるべき医療の崩壊
医療崩壊とは「本来あるべき医療ができない」状態を指すという。この定義を当てはめれば、韓国の医療現場は、医療崩壊状態にあるか、その瀬戸際にあるといえる。
韓国の1日当たりの新規感染者数は7000人台前後を推移しているが、本当の問題は新規感染者数の増加ではなく、重症患者の急増にある。20日までの数日間の重症者数は1000人前後で推移。ウィズコロナが始まった11月1日と比べて約3倍に急増した。
ソウル首都圏の重症者用の病床稼働率は9割近くに上る。ほぼ満床であることを意味しており、空き病床の待機中に死亡する患者が後を絶たない。救急車に乗せられたまま、いくつもの病院に受け入れを拒まれ、また自宅に戻される重症者も少なくないという。
救急病床の逼迫(ひっぱく)でがんなど他の重病の手術や治療にもしわ寄せがきている。本来あるべき医療を受けられない患者があふれる現実がある。
文氏は今月16日、国民に向けて「段階的な日常回復の過程で重症患者の増加を抑えられず、病床確保などの準備が十分でなかった」と陳謝。韓国政府は18日からウィズコロナを中断し、飲食店での利用人数や営業時間の制限など、防疫措置を再び強化した。
ただ、文氏は先月末には「過去に後退はできない」と述べ、ウィズコロナを継続することに強いこだわりを見せていた。この判断が防疫措置の再強化への転換を遅らせたとの見方も出ている。
■防疫「一流」に酔いしれ
時計の針を昨年夏に巻き戻してみたい。日本を含め、先進国の多くが新型コロナの感染拡大の押さえ込みに苦戦する中、韓国は迅速で大量のPCR検査で感染経路を早期に特定し、感染拡大を押さえ込むことに成果を上げていた。
文政権は「KOREA(コリア)」の頭文字を取って「K防疫」と呼び、政治的にもアピールした。昨年4月の総選挙では、与党候補が韓国製の診断キットが120カ国以上に輸出されたことを挙げ、韓国が「世界が見習う一流国家になった」と強調した。与党は選挙に圧勝した。
韓国がK防疫に酔いしれているころ、日米や欧州、中露などは事態の打開をワクチンに託し、ワクチンの開発や確保にしのぎを削っていた。
その年の12月、ワクチン確保の遅れを追及された当時の丁世均(チョン・セギュン)首相は、ワクチン確保に動き出した同年7月の状況を振り返り、「当時、感染者数が100人台でワクチンへの依存度を高める考えがなかった」とワクチン確保での失策を認めた。
米ファイザー社製ワクチンなどの確保に出遅れた韓国政府は今春以降、先に入手できた英アストラゼネカ(AZ)社製ワクチンを、重症化リスクの高い高齢層から優先して接種していった。そして、国民全体の接種率が目標の7割を超えたことから11月1日にウィズコロナにシフトした。
だが、AZワクチンは接種から3~4カ月で効果が落ち、日本が主に接種していたファイザーの約6カ月より短いことが研究で明らかになっている。ウィズコロナに移行したときには、重症化リスクの高い高齢層の多くでワクチン効果が低下していたのだ。
そのため、接種済みの高齢層にブレークスルー(突破)感染が続出。韓国政府は、ブレークスルー感染の急増を想定せず、重症化率を低く見積もって病床を準備していたため、すぐに病床が逼迫した。結果的にK防疫への慢心からその後の対応がことごとく後手に回り、現在の状況を生んでいることになる。
■崩れいくK防疫の基盤
韓国で今月10日に発表された世論調査では、政府の新型コロナ対応について「よくやっている」との回答は前月より13ポイント急落して44%にとどまった。「間違っている」との答えは15ポイント上昇して47%を占め、否定的評価が肯定的評価を上回った。来年3月の大統領選の与党候補まで政府対応を批判し始めた。
韓国で関心が高いのが、最近、新規感染者や重症者を押さえ込めている日本の状況だ。「韓国製の検査キットを使わないから変異株を検出できない」「感染者が少なく見えるのは検査費が高く、検査総数が低いためだ」などと中には事実に反し、日本をおとしめるような見方も目立った。
K防疫がもてはやされていたころは、新規感染者が一時2万人台に上るなどした日本の感染状況をあわれむ見方も多かった。そのため、今の日韓逆転現象に戸惑っている韓国人が少なくないのが正直なところのようだ。
だが、実際に日本で感染による重症者や死者が激減した状況に、韓国の専門家やメディアでは、日本の現状と比較してK防疫に盲点があったとの分析が持ち上がっている。
その中で主流といえるのが、日本では重症化リスクの高い高齢層へのワクチン接種を優先させる一方、無症状や軽症で終わる感染を根絶させることにまで血眼にならなかったためだとの解釈だ。接種か自然感染で集団免疫が形成されたのではないかとの見方だ。
この見立てについてはさらなる検証が必要だが、韓国の専門家の一人は「日本の感染者急減はK防疫の致命的な誤りを示す事例だ」と指摘。韓国では、迅速・大量の検査でアリの入り込む隙間もないよう感染自体を押さえ込もうと、「矛盾にあふれた防疫」を続けてきたと主張した。どだい、完全な押さえ込みを主眼にしたK防疫には限界があったとの指摘だ。
韓国で日によって氷点下となる寒空の下、屋外のPCR検査所には長蛇の列が途絶えない。だが、韓国紙は、急激な感染拡大で調査人員が足りず、感染経路の追跡調査の体制は事実上マヒしていると伝えている。
文政権の支持率の源泉となってきたK防疫は、もはやその基盤さえ崩れつつあるようだ。
(ソウル 桜井紀雄)