「坂の途中の家」
映画にはR指定(restricted 制限されるの意味)があるが、小説にはないのだろうか。
もしあるなら、この小説は、R子育て中になろう。
角田光代さんは同世代で、人気があり、影響を与える作家さんだけれど、
あの映画化もした(読み友も強くお薦めの)「八日目の蝉」も直木賞受章の「岸辺の彼女」も私はピンと来なかった。
しかし、それでよかったと思った。
だってなんだか心に強く残ってめんどくさそうなんだもん。
角田さんがズキュンしたのは、旅行記だった。
それでやっとわかった。角田さんと私は世代が同じではあるが、旅先での過ごし方など、感覚は違う。
けれども全く違うと思いながらも「そういうことあったかも」「それ私のこと?」と思わせてしまう筆力がめんどくさいのだ。
私は絶対不倫相手の赤ちゃんをさらったりしない。ビールを呑まずにいられない精神状態なら、アル中を夫に疑われても気兼ねせず呑んじゃう。
いやでも、どうなんだろう。思い込んでしまったら、そうなってしまうのもわからなくもない。してしまう想像もできる…のが怖い。
裁判員制度で裁判員に任命されることも、
子育て中の夫や母たち、友人たちとのすれ違い、齟齬、苛々、
命に代えてもと思う大事なわが子への苛立ち、憎しみ、罪悪感、自信喪失、
それはしつけ?それとも虐待?
絶対にないとは言えない。他人事ではない。その場になれば、私のことなのだ。
周りを見渡し、ありもしない普通を探し求めて傷ついている。
私達はなんと共感力がありすぎるのだろう、なんと真面目に取り組みすぎるのだろう。ささやかな幸せのために涙がでるほど頑張っている。端からは理解されなくても。
角田さんは、それを筆力で知らしめる。あなたのことかもよと。
しかし、結論は出してくれない。どうすればいいとは答えてくれないのだ。
子育て中の当事者、周囲の人々に読んで貰いたい。と思いつつも、そんな共感力の強い不安定な時期に決して読んじゃダメ!!とも思う。
あなたの漠然とした不安がここにあり、そしてそれは心にしっかりと投影されてしまうのだから。めんどくさい。
それよりも寝た方が有益(笑)