ヒョウタンクワガタ Nigidionus parryi
分布:台湾の場合ほぼ全土、特に南投県・奥萬大では発見しやすい
体長:大型個体では33㎜前後
標高:約200~1900m
発生期:おおよそ2月中~12月上旬
個体数:普通
発見場所:朽ち木内約90%・道拾約10%
午後3時~6時ころ林道を歩行する個体がいる
鞍馬山は採集に適している
楓林農場では夜間明かりのある所でも採集されている
雌雄発見比率:約50%:50%
生態:
日本のオガサワラチビクワガタを巨大にしたようなクワガタです。
このヒョウタンクワガタは、生涯のほとんどを朽ち木の中で暮らし
親虫が幼虫を養育する亜社会性のクワガタです。
また、成虫は肉食性が強いものの
自分の健全な子供(幼虫)を食することはないと認識します。
ただし、兄弟間では羽化の早い個体が蛹を食す場面を見たこともあります。
野外では土の中に半分埋まったような
梨樹・殻斗科植物の硬質黒枯れ朽ち木で発見しやすく
普通、1つの巣には1対の成虫に伴って幼虫が見られ
同一朽ち木内で「クロツヤムシ」もよく見つかります。
また、若齢幼虫を親虫から離すと
生存率が5~10%程度下がることがあるとも聞いています。
↓ 左からヒョウタンクワガタ・チビクワガタ・マメクワガタ
私が初めてヒョウタンクワガタを手にしたのは2001年3月で
その興味深い生態にひかれ7年ほど飼育を続けました。
観察では、幼虫は脚部の摩擦に加え
大アゴを使って「カチカチ」と発音し(終齢になってから?)
成虫もまた発音しました。
親虫は朽ち木やマット内に坑道を掘りうろうろしながら暮らし
狭いところでは互いの上(下)を、少し広いところでは横を通過しました。
そして、通過するとそのまま後ずさりして
お尻を向け合ったまま交尾を行ったりもします。
最初から一文字になる交尾スタイルです。
↓ *終齢初期のメス幼虫
クロツヤムシとヒョウタンクワガタ
現地ではヒョウタンクワガタとクロツヤムシが
同一朽ち木内から発見されることがよくあります。
クロツヤムシの仲間は日本の九州と四国の山地帯にも分布しており
朽ち木の中で一生のほとんどを過ごします。
岡島秀二・荒谷邦雄 監修,2012.「日本産コガネムシ上科標準図鑑」によると
日本に分布するクロツヤムシは成・幼虫ともに発音をし
親虫は、幼虫の養育もします。
ここまではヒョウタンクワガタと似たような生態ですが
クロツヤムシの幼虫は激しい生存競争をするそうで
生死をかけた戦いの末、生き残った個体が成虫になるとされています。
↓ *接近して緊張が走るヒョウタンクワガタ終齢幼虫
↓ *ヒョウタンクワガタの幼虫は、健全な個体間で傷つけあわない
これまでにヒョウタンクワガタの幼虫が
大アゴを使い「カチカチ」と発音する場面は何度か見ましたが
複数の個体による同時発音を聞いたことがないため
1頭だけが発音すればその目的は果たせるのかもしれません。
台湾のクロツヤムシがどのような生態かわかりませんが
少なくともヒョウタンクワガタ幼虫の大アゴによる発音は
同居するクロツヤムシへも伝わっていると思われ
両種の間には未知なる関係があるのではないかと想像しています。
↕ *ライトトラップに来た台湾のクロツヤムシ(奥萬台にて)
飼育に見る生涯
私の飼育環境・経験(2001〜2008年及び2020〜現在)の限りでは
ヒョウタンクワガタのライフサイクルは安定しており
卵から成虫になるまでに12~15か月ほどかかり
それらの新成虫が産卵するのは翌々年の3~5月ころです。
例えば、今年(2021)羽化した新成虫は翌年(2022)には産卵せず
翌々年(2023)の春期に産卵するという流れです。
これを普通と考えると
ヒョウタンクワガタの繁殖に関して「癖がある」とは思わなくなります。
終齢幼虫が市場流通し始めるタイミングと
私の飼育下での成長ステージも確かに重なります。
また、一度産卵した親虫はその後3年程度生存する個体もいましたが
再び産卵することはなく、すべて息絶えました。
産卵までの期間や寿命に関しては
栄養状態(蔵卵)や管理温度などに左右される可能性も考えられますが
ヒョウタンクワガタを繁殖させるには
長生きさせることが一つのポイントになると私は考えています。
↓ 年間管理温度:12〜25度程度
産卵
今回使用したマットは「産卵一番」で
容器底部10㎝ほどを硬詰めし
加水した市販の産卵木を埋め、煮干しや犬用ジャーキー等を与えました。
こうして産卵セットを組んでも先述の通り
私のところでは産卵は羽化から2年後になるため
その間にマットの腐食はほどよく進み
開封時の「産卵一番」とは異質な状態になり
母虫はそのマット底部付近に卵を産み付けました。
↓ 餌は犬用のジャーキーや煮干し
↓ マットの水分はやや多めで表面が乾燥してきたら霧吹き
↓ 2021年4月10日 マットに産み付けられた卵
↓ 2021年5月2日 容器底部に見える終齢幼虫
クワガタムシの幼虫は中脚と後脚を擦り発音し
同種他種と必要な距離を保とうとします。
また、口元にある小アゴの先はハサミ状になっており
朽ち木などを挟むことができます。
↓ 中脚⇩と後脚⇩を擦り発音 小アゴの先はハサミ状(大きいほうの⇩)
↓ 終齢初期幼虫(2021年5月24日)
↓ 頭の色は薄いオレンジ
↓ 親虫は健在(羽化から2年経過して産卵した)
私の場合、幼虫の掘り出しは
親虫がマット上を徘徊するようになる8月ころに行うようにしています。
この行動は幼虫が終齢になり養育の必要がなくなったため
コロニーから出ていこうとしている親虫の姿ではないかと考えています。
その時まで様子を見る日が続きます。
最後になりましたが
台湾のクワガタムシに関する多量の資料と情報を提供いただいた
謝謝
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