1954年、N響の招きで当時46歳のカラヤンが単独初来日しました。
『音楽之友』1954年6月号にカラヤンを囲んでの座談会(聞き手は前田幸市郎、田代秀穂、村田武雄)の記事が載っていましたが全体的にカラヤンの優等生的な、またはリップサービス炸裂の、正直あまり面白くない記事だと思ったので、カラヤンが指揮したNHK交響楽団について述べた感想などについてのみピックアップします。
-----------------
村田 ではN響を指揮なさった印象を伺いたいのですが。
カラヤン NHKの交響楽団はとても敏感と言うのでしょうか。センスに富んでいる。とても敏感で六十分練習していましたら、日本のオーケストラであることを忘れた位です。とても指揮しやすい交響楽団です。
村田 それは技術的水準が高いということですか。
カラヤン 技術的というより私の要求するものを非常にセンシティヴに感じる力があるということです。指揮者の思っていることをよく感じとってくれるのです。これが管弦楽の力として大切なものですから。
村田 ヨーロッパの管弦楽団の水準からしてN響はどのくらいの地位にあるのでしょうか。
カラヤン 勿論、ヨーロッパやアメリカには素晴らしいオーケストラがあります。いわゆるベスト階級のもの、ボストンやフィラデルフィアやニューヨークなどには勿論かないませんが、その次の段階には入ると思います。つまり最優秀とは言えないけれども、その最優秀のオーケストラを除けばまあ同じ位のスタンダードということができましょう。
村田 ウィーンで名高いトーンキュンストラーと比較してはどうですか。私達はレコードで聞く範囲内でしかわかりませんが。
カラヤン とんでもない。トーンキュンストラーはベストの階級です。あの管弦楽団は技術的からいっても第一流ですから比較はできません。
村田 N響の技術はどうお考えになりますか。
カラヤン 勿論随分上手で、みなさんよく訓練されているし、それから技術的にもとても素晴らしいところもあります。それはオーケストラで一番大事なことは自分の持っているものを全部外へ出すこと、全員が力をすっかり出し切ることの出来る、それが一番大事なことですが、それがかなりよく出来ます。NHK交響楽団はもっと上手になる可能性がありますね。いわば新らしい一つのホームを作ろうとする段階にあるのです。オーケストラを完成するのには多くの年月がかかります。とても忍耐がいるのです。トスカニーニの経験からしてもそうです。又私の経験からしてもそうです。
(中略)
田代 何かレコードの場合には演奏会と違った演奏の工夫をされることがあるのではないか。
カラヤン 特別、レコードのために演奏を変えたり特別組織をとったりはしておりませんが、ただレコーディングするとき、二・三分位ずつやって一番いいのをつぎ合わせてゆくので全体を通して演奏するような統一ある生気がない場合があります。
(中略)
村田(?) あなたが創設なさったイギリスのフィルハーモニア管弦楽団について伺いたいのですが、あれはほかの管弦楽団とかけ持ちの楽員ではなくて全部独立しているんですか。
カラヤン あれはレコーディングのために特に組織したオーケストラです。コロンビアがスポンスして全部独立した楽員から出来ています。数年前に作ったのですがそのわけは、録音するためにあちこち飛んで歩く必要がない、指揮者さえ来ればいつでもよい録音が出来る、そういう目的で作ったオーケストラで、もう二・三年もすると最上のものになるでしょう。非公式には演奏会もしています。
-----------------
。。。村田武雄さん、トーンキュンストラーなら当時のN響と比較できると思っていたのかも。レコードの演奏がいまひとつだった?
あと、やはりカラヤンは当時からレコーディングは所詮レコーディングだから切り貼りでいいんだと割り切っていたんですね。