釣り人のみんな無口や春近し ひよどり 一平
(つりびとのみんなむくちやはるちかし)
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六十台らしき不精髭の釣り人が、30センチに及びそうな鮒を釣り上げた。
「お見事ですね」と声を掛けたら、面倒臭そうな顔で振り向き、にやりとした。
「鯉ですか?」と尋ねた。
「いや、真鮒」とぶっきら棒に答えてくれた。
もっと聞いて欲しそうな顔なので、「これほどの鮒なら、引きも強いでしょうね」と尋ねた。
「うん、あたりは良かったね」と言いながら、またもやにやりとした。
カメラに収めようと思ったが、周りの釣り人の手前、余分なことは止めた。
周りの釣り人の誰も寄ってこない。他人の手柄には興味がないのだろうか。
手柄の釣り人は、面倒臭そうな顔をしながら、釣り上げた鮒を池に放した。この池はキャッチアンドリリースなのだ。
春はそこまで来ていた。