私は「ひっつき虫」である。
正式な学問上の名称は知らない。そんなものはどうでもいい。
春の終わりごろに黄色い小さな花を咲かせ、写真のような姿になるのは初冬。
ここに実を落として、来春に芽を出してもよいし、どこかに動かされ、そこで新しい天地を得てもいい。
もちろん、わが種族の本意としては、少しでも離れたところへ移動して、そこで新しい芽を吹かせたいはずだ。
とは言っても、タネの形や備わった機能からして、誰かの力を借りて、遠くへ運んでもらうしか手段はない。
ここまで刺々しい姿になってしまっては、たんぽぽのように、風にまかせて移動するような軽業はできない。
ドングリの実や柿の実などであれば、鵯や烏に啄んでもらい、彼らの消化器官によって運んでもらう手段もある。
しかし、私のような形では、鳥や獣に食べてもらうわけにはいかない。なにしろトゲトゲだらけなのだ。
残る手段は、通りかかった獣や人間にひっついて、運んでもらうことを期待する。「ひっつき虫」の所以でなのだ。
ところが、この辺りには野犬がいない。猫も少ない。不景気になったものだ。
そんなこんなで塞いでいたら、カメラを持った老人がやってきた。私が待つ荒れ地の中にまで、ドカドカと入ってきたのだ。
「ラッキー!!」 私は老人のズボンにひっついた。
暖かい日差しの昼ごろであった。
(続く)