露の世のかの一粒のいとほしき ひよどり 一平
若い頃は、勢いにまかせて酒を呑んだ。雰囲気や味わいは二の次だった。
今や、そんな勢いはなくなった。
わずかな酒をチビリチビリ。
手酌こそ日本酒の粋秋の蝶 ひよどり 一平
奨め上手のお酌なら、さらに粋。
本音かなァ?
正義漢と言えば聞こえはいいが、私の場合は怒りっぽいだけのことかもしれない。
つまり、沸点が低いのだ。
子供の頃からの性格で、母親もかなり心配してくれたようだった。
「怒りたくなったら、親指の爪を舐めるんだよ」、と、これは当時の母親の弁。
腹が立ったら親指の爪を舐め、爪が乾いてからものを言えという内容だった。
爪が乾くまでの時間を置けば、きっと冷静になるはず。
母親の知恵だったのか、誰かの知恵だったのか?確認したことはなかった。
せっかくの知恵だったのだが、私は一度も実行していない。だから効用は未確認。
80歳を過ぎても爪を舐めずに怒ったり、発言をしたりしている。
その都度、残るのは深い自己嫌悪。
今日もまた繰り返してしまった。
「あーあ、あんなこと、言わなきゃよかったなァ」
こんな日に限って、畑の唐辛子が赤々と眼に飛びこんで来る。意地悪な唐辛子。
年老いたからといって、辛い唐辛子は辛い。甘くなるはずはない。
諍いて戻る道の辺とうがらし ひよどり 一平
(いさかいてもどるみちのべとうがらし)
夏休みで来ていた孫が帰った。大きな荷物を持って、父親に伴われて帰って行った。
残されたのはじじとばば。
また耳鳴りだ。
気晴らしに散歩に出た。さほど気分は乗らなかったが、いつものコースを歩いた。
池の端にトンボ。
このトンボ、昨日と同じヤツだろうか。
まさかねぇ。
耳鳴りや同じ蜻蛉とまた出会ふ ひよどり 一平