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「晩夏の墜落」 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞

2017年10月23日 | もう一冊読んでみた
晩夏の墜落/ノア・ホーリー  2017.10.23

  悲劇は追体験するのがつらすぎるドラマだ。

  人生は決断と対応の連続だ。
  自分がすることと、まわりのことが自分に対してすることでできている。
  そしてかならず終わるのだ。


挽歌の墜落』 を読みました。
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

おもしろい小説であり、楽しく読むことができました。
しかし、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞したことを考えると、彼らもおもしろいと感じたのでしょうが、ぼくとは感じる面白さの内容が、少し違う気がします。

億万長者、プライベートジェットの所有、屋敷の値段は宇宙ステーション並、移動には常にボデーガードが付き従う、そんなアメリカの超富裕層の日常を知ることができました。

そんな彼らにとって、お金とは。

 金で買えないものはどのみち欲しいものではない、という有名な諺がある。たわごとだ。現実には金で買えないものなどないのだから。ほんとうだ。愛も、幸せも、心の平和も、金を出せばみんな手に入る。事実、この世にはだれをもまったき存在にできる金がある。よちよち歩きの幼児でも知っていること----分け合うこと----を私たちができるようになれば。
ところが、金は地球の引力と同じく、自身をどんどん引っぱりながら一カ所に集まる力で、最終的にブラックホールをこしらえる。それをわたしたちは富と呼ぶ。これは単に人間が犯す過ちではない。


登場人物は、みな、興味ある人物像が語られます。

 「飲んだくれだったころのおれは、いわゆるお喋り野郎でね、つぎからつぎへと言葉が口をついて出たものさ。たいていは、そういうことを人は聞きたいんだろうと思っていた。いや、ちょっとちがうな、人を刺激すると思っていたんだ。正直なところ」
「なにを飲んでいたの?」
「ウィスキー」
「男っぽいのね」


 最近のサラは、整理されていない人生の時間のなか自問していた。今のわたしはただ金を動かすためだけに生きつづけているのだろうか?

 億万長者の別邸に同行することもあり得ない。たとえその場所がモナコのお城であっても。こちらは客室乗務員、サービスのプロであって、娼婦ではない。断固としてルールを、境界線を守らなければならない。金持ちの住む世界にはいったら最後、たやすく道を見失ってしまうから。

 ひとりの男とその男が放つ光のうしろに立ち、こだまのような、影のような人生を生きるとはどういうことかを考えた。自分が負った傷についてはこれからも説明するつもりはない。彼はグロッグ銃の引き金に指を掛けて眠っていた。世界とは不可能なものであることを、イスラエルという国家も不可能なものであることを、男たちは毎朝起きてブーツを履き、なんであれ不可能なことをするために出かけていくのだということを彼は知っていた。そんなことは人類の奢りだ。勝ち目はほとんどないにもかかわらず勇気を奮い起こすなどというのは。針に糸を通すのも、山に登るのも、嵐のなかで生き延びるのも。

人生も語られる。

 でも、彼は男で、共和党員。複雑な女性心理のなにがわかる。

 だれにでも出身地があり、だれにでも生い立ちがある。そんなわたしたちの人生は曲がりくねった線に沿って広がり、思いがけない形で衝突する。

 男はまた微笑んだ。
「事故に遭ったようなものかって? ちがうね。この世界は危険な場所なのさ。だけど、そんなことはあんただって承知のうえだろう?」
「この世界が危険な場所なのは承知のうえだろうと言ったんだ。原因があって結果がある。悪いときに悪いところに居合わせるともいう。人間の歴史のなかで善人が考えなしに悪さをした時代も指ぬきひとつぶんぐらいはあるかもしれんが」


この物語を読んでいると、隔靴掻痒に苛まれる気持ちが張り付いてくる時が、まま、ありました。
その内容、詳しく話したいのですが、それもまた、隔靴掻痒。
ネタバレになってしまう。それはだめ。
読んで下さいね、あなたも。そうすれば、あなたにも、ぼくのこの気持ち分かっていただけることでしょう。

  『 挽歌の墜落/ノア・ホーリー/川副智子訳/ハヤカワ・ミステリ 』

コメント
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