■他人の墓の中に立ち 2017.2.27
「訳者あとがき」にあった。
「原書のタイトルは"Standing in Another Man's Grave"である。これは作中でも
説明されているが、シンガーソングライターのジャッキー・レヴィンが作曲した歌、
"Standing in Another Man's Rain"をリーバスが聞き違えたことから来ている。
その歌声は情感たっぷりで、心を揺さぶられずにはいられない。.......ジャッキー・レヴィンは実力はあるのに、世界的なメジャー歌手にならないまま、二〇一一年六一歳で生涯を閉じた。.....彼の音楽をこよなく愛しているイアン・ランキンはジャッキー・レヴィンと篤い友情で結ばれていた。」
”おれたちみたいに、いいやついるか?
いない、いない-----
そんなやつらは皆死んじまった……”
「彼の死を悼んだイアン・ランキンは、本書をジャッキー・レヴィンに捧げた。」
このあとがきには、このミステリーの雰囲気が余すところなく表現されている気がします。
一匹狼の周囲とはなじめない難しい性格、違法とも思える強引な捜査も敢えて行い、一言多いトラブルメーカー、要するに古いタイプの典型的な元刑事、そんな主人公のジョン・リーバスが足で捜査を進めていくミステリーなのです。
若い女性の失踪事件がA9号線上で起こってはいるが、それ以外は、これと行って大きな事件もなく、物語は粛々として展開していくのですが、飽きることはありません。
フォックス(苦情課の刑事)、ニーナ(行方不明の娘を探す母親)、ハメル(クラブ経営)、ダリル(ハメルの片腕)、カファティ(裏社会の顔役)とのやり取りが面白いからだろうと思われます。
それとこのミステリー全体に漂っている雰囲気が、ぼくをつかんで離さなかったのだとも感じました。
"はぐれ者にも常に動ける余地を与えるべきである"とは、前本部長があんたについて書いた言葉だよ。署長は"はぐれ者"に下線を引いていたな」
「おれは結果を出した」リーバスが繰り返した。
「ジョン・リーバスは絶滅種なんだ、クラーク。氷河期が訪れて去ったのに、彼はまだ泳ぎ回っている。ほかの者は進化を遂げているのにな」
「進化してあなたみたいになるぐらいなら、ダーウィンをハンマーで殴り倒したほうがましだわ」
おそらく、リーバスは今、どこかのパブで飲んでおり、そのたまったつけは、決して請求されないのだろう。それを賄賂とも誘導とも思わず、正当な捜査方法と考えているにちがいない。昔はそんな考えの刑事が多かったのだろうが、そういう時代は過ぎ去り、そんな戦士たちはとっくに戦場を去った。老いぼれリーバスは、どこか
海外の浜辺にあるタヴェルナで、たっぷり貯めた年金を使いながら、ゆったりと酒浸りの生活を送ればいいのだ。ところがリーバスは犯罪捜査部への再就職の希望を出した。
なんとも厚かましい野郎だ。
「まだそんなことに関心を持っているような口ぶりだな」
「趣味ということにしてくれ」
「趣味は身を滅ぼすこともある」
「引退後の生活を埋めるために、何かをしなきゃならんだろ。それで道を誤るんだ。
一日中何もすることがないから、もとの商売に戻っちまう」
「希望の泉は涸れることがない」
リーバスは、自分の愛車に話しかけたり、物に語りかける癖がある。
「おまえとおれの二人だけか?」リーバスはパイントグラスへ言った。
「いつもそうだよな」
ぼくにも似たような癖があるのですが、あなたにもありませんか?
無傷でいられる人間は誰一人いない。
誰一人。
『 他人の墓の中に立ち/イアン・ランキン/延原泰子訳/ハヤカワ・ミステリ 』
「訳者あとがき」にあった。
「原書のタイトルは"Standing in Another Man's Grave"である。これは作中でも
説明されているが、シンガーソングライターのジャッキー・レヴィンが作曲した歌、
"Standing in Another Man's Rain"をリーバスが聞き違えたことから来ている。
その歌声は情感たっぷりで、心を揺さぶられずにはいられない。.......ジャッキー・レヴィンは実力はあるのに、世界的なメジャー歌手にならないまま、二〇一一年六一歳で生涯を閉じた。.....彼の音楽をこよなく愛しているイアン・ランキンはジャッキー・レヴィンと篤い友情で結ばれていた。」
”おれたちみたいに、いいやついるか?
いない、いない-----
そんなやつらは皆死んじまった……”
「彼の死を悼んだイアン・ランキンは、本書をジャッキー・レヴィンに捧げた。」
このあとがきには、このミステリーの雰囲気が余すところなく表現されている気がします。
一匹狼の周囲とはなじめない難しい性格、違法とも思える強引な捜査も敢えて行い、一言多いトラブルメーカー、要するに古いタイプの典型的な元刑事、そんな主人公のジョン・リーバスが足で捜査を進めていくミステリーなのです。
若い女性の失踪事件がA9号線上で起こってはいるが、それ以外は、これと行って大きな事件もなく、物語は粛々として展開していくのですが、飽きることはありません。
フォックス(苦情課の刑事)、ニーナ(行方不明の娘を探す母親)、ハメル(クラブ経営)、ダリル(ハメルの片腕)、カファティ(裏社会の顔役)とのやり取りが面白いからだろうと思われます。
それとこのミステリー全体に漂っている雰囲気が、ぼくをつかんで離さなかったのだとも感じました。
"はぐれ者にも常に動ける余地を与えるべきである"とは、前本部長があんたについて書いた言葉だよ。署長は"はぐれ者"に下線を引いていたな」
「おれは結果を出した」リーバスが繰り返した。
「ジョン・リーバスは絶滅種なんだ、クラーク。氷河期が訪れて去ったのに、彼はまだ泳ぎ回っている。ほかの者は進化を遂げているのにな」
「進化してあなたみたいになるぐらいなら、ダーウィンをハンマーで殴り倒したほうがましだわ」
おそらく、リーバスは今、どこかのパブで飲んでおり、そのたまったつけは、決して請求されないのだろう。それを賄賂とも誘導とも思わず、正当な捜査方法と考えているにちがいない。昔はそんな考えの刑事が多かったのだろうが、そういう時代は過ぎ去り、そんな戦士たちはとっくに戦場を去った。老いぼれリーバスは、どこか
海外の浜辺にあるタヴェルナで、たっぷり貯めた年金を使いながら、ゆったりと酒浸りの生活を送ればいいのだ。ところがリーバスは犯罪捜査部への再就職の希望を出した。
なんとも厚かましい野郎だ。
「まだそんなことに関心を持っているような口ぶりだな」
「趣味ということにしてくれ」
「趣味は身を滅ぼすこともある」
「引退後の生活を埋めるために、何かをしなきゃならんだろ。それで道を誤るんだ。
一日中何もすることがないから、もとの商売に戻っちまう」
「希望の泉は涸れることがない」
リーバスは、自分の愛車に話しかけたり、物に語りかける癖がある。
「おまえとおれの二人だけか?」リーバスはパイントグラスへ言った。
「いつもそうだよな」
ぼくにも似たような癖があるのですが、あなたにもありませんか?
無傷でいられる人間は誰一人いない。
誰一人。
『 他人の墓の中に立ち/イアン・ランキン/延原泰子訳/ハヤカワ・ミステリ 』
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