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捜査線上の夕映え/有栖川有栖 

2023年03月27日 | もう一冊読んでみた
このミステリーがすごい! 2023年版
国内編3位 捜査線上の夕映え/有栖川有栖/文藝春秋


著者「あとがき」には、こうある。
余情が残るエモーショナルな本格ミステリが書きたい

大阪駅「時空の広場」から眺めた、時々刻々変化する美しい夕焼けの描写。
風光明媚な瀬戸内の孤島、仲島での調査旅行。そこでの安らぎの風景と気候の優しさ。
何よりも、心温まる人のもてなし。

ミステリの面白さより、旅行記であり、青春記で優る物語でした。



 淀川を渡って大阪駅へ。新大阪駅の構内でのんびりしていたため存外に時間が過ぎており、西の空か夕陽で眩しい。私は改札を出て、五階にある時空(とき)の広場で佇み、ガラスのフェンス越しに夕焼けを眺めた。うちのマンションからも夕陽はよく見えるが、ここからのものはスケールが段違いに人きい。
 九月初めの落陽が放つ光は強烈で、各ホームを覆う蒲鉾形の屋根も、複雑に絡みながら西----地図に当たって正確を期すと南西----へ延びる幾本ものレールも、その先に見える超高層ビルのガラス窓や壁も、黄金色にギラギラと輝き、今にも発火しそうだ。全身を灼かれながら入線してくる電車は、火炎地獄から逃れてきたかのよう。かと思えば、そちらに向けて進撃していく電車もある。上空に残った淡い青色が、夕陽との対比で爽やかなこと。
 この駅が大改修によって現在の形になってすぐに、私はこんな夕景か出現したことに驚いたのだが、傍らを行く人は関心がなさそうに見えたし、テレビで新しい駅舎が紹介される場合も、言及されることはなかったように思う。職場や学校や家庭で、「うん、あれはすごいね」とみんな話題にしているのだろうか?
 周辺に立つビルの屋上展望台や高層階のレストランからの夕陽が美しい、とは聞く。しかし、そんなところに上からずとも、駅構内で足を止めれば、負けず劣らずの風景を目にできる。なんでもない日常にこんな恩寵が紛れ込むから、現実世界も油断がならない。


 ----きれいな夕焼け空やね。
 中学生の郷美が言うのに、松岡陽人はこう応えていた。
 ----こんな空を見たら、明日がくるのが楽しみになる。
 今日がいい日だったとしても、よくない日だったとしても。
 ----どっちにしても楽しみや。


 『 捜査線上の夕映え/有栖川有栖/文藝春秋 』



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