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一般に文法で分析する文の構成単位は“詞”と呼ばれる。“詞”は文法的に、独立して運用でき、意味を有する最小の言語単位である。しかし、ことばの単位でみると、“詞”は更に細かく分解することができる。漢字で表記された文で、漢字一文字に相当する、ことばの音と意味の結合した単位を語素と呼ぶ。漢字という表記単位でみると、これ以上区分することはできない。語素について学ぶことで、文の中での漢字の音と意味の関係を知ることができ、“詞”の役割をより深く理解することができる。今回は語素、及びそれに呼応する漢字、また語素を構成する音、意味についてみていきたい。
語素と漢字
語素は語音と語義の最小の結合体であり、最小の言語単位である。例えば、“我們学習漢語”と言う時、この文は三つの単位(ユニット)に分けることができる。
我們 | 学習 | 漢語
しかし、これは最小の言語単位ではなく、まだ次のように区分できる。
我|們|学|習|漢|語
この六つの単位(ユニット)以上の区分はできない。もし分けるとしたら、音と意味の結合した言語単位でなく、語音の単位となる。中国語の語素は多数が単音節で、文字として書かれたものが漢字である。口語の中で、単独で言うことができ、意味を表す単音節のものが、語素である。中国語の語素には二音節(“双音節”)、多音節のものもあり、文字として書くと、二個、或いはそれ以上の漢字になる。例えば、“玫瑰”、“莎士比亜”がそうである。多音節の言語単位が一つ、それともいくつかの語素で構成されるのか鑑定するには、「代替法」(“替代法”)を用いることができる。例えば、“漢語”ということばを調べるには、既に知っている語素を使って、双方向に置き換えを行う。
漢語 漢語
英語 漢族
日語 漢人
口語 漢字
このように双方向に置き換えができるということから、“漢語”という二音節の言語単位は、二つの語素から成ることがわかる。
もうひとつ、三音節の単位を例に挙げると:
科学 家 科学 家
藝術 家 科学 書
思想 家 科学 城
このことから、“家”は一つの語素であることがわかる。“科学”が一つの語素か二つの語素かは、再び置き換えを行えばよい。置き換えの結果、二つの語素から成ることがわかる。
ある言語単位が単方向にしか置き換えができない場合、一つの語素であると見做さないといけない。例えば、“啤酒”は一つの語素である。
啤酒 啤酒
黄酒 啤?
白酒 啤?
しかし、“啤”は、別の言語単位において置き換えができるので、これも一つの語素であると証明できる。
黄啤 黄啤
黒啤 黄酒
生啤 黄花
これより、“啤酒”は一つの語素であり、“啤”も一つの語素であると説明することができる。同様の理由から、“蝴蝶”は一つの語素であり、“蝶”も一つの語素である。“駱駝”は一つの語素であり、“駝”も一つの語素である。置き換えは以下のようになる:
蝴蝶 蝴蝶 粉蝶
粉蝶 蝴? 粉筆
幼蝶 蝴? 粉末
彩蝶 蝴? 粉刷
駱駝 駱駝 駝毛 駝毛
?駝 駱? 駝峰 鳥毛
?駝 駱? 駝背 羊毛
?駝 駱? 駝絨 鴨毛
語素は“詞”(独立して運用でき、意味を有する最小の言語単位)を構成する単位であり、したがって“詞素”とも呼ばれる。しかし、“詞素”を詞から分離するには、先ず文中でどれが詞であるか確定して、その後はじめて詞素を分離することができる。実際は、私たちは代替法によって語素を分析するので、置き換えを行う単位が詞であるかどうかを確定する必要はない。
語素も、成語・熟語など、固定したことば(“固定詞組”)を構成する基礎である。例えば、“国泰民安”という成語は四つの語素から構成されるが、この四つの語素は、現代漢語の中では単独では“詞”にならない。
“豊衣足食”という成語では、“豊”と“足”は“詞”にならないが、“衣”と“食”は“詞”になる。
多くの語素は昔から使われてきたが、その中の多くは、昔は“詞”であったが、現代漢語では“詞”にならない。ただ、その中間のものも存在する。例えば、“葉”は一般には単独では使用しない。“一葉知秋”の中の“葉”は語素であるが“詞”ではない。しかし、生物学で“花”、“葉”は併称され、単独で“詞”として使われる。
金、石は一般には“金子”、“石頭”と言わなければならないが、鉱物学では単独で“詞”として使われる。
口語では、しばしば単音節の語素を略称として、二音節のことばの代わりに使用している。例えば:
医院領導 略称:“院領導”
学校所辧工廠 略称:“校辧工廠”
外交部所属機関 略称:“部属機関”
言うまでもなく(“不言而喩”)、これらの略称は特定の使用環境の中でのみ使われる。
上で述べたように、中国語の語素の語音形式が音節であり、書面形式、つまりそれを文字で表したものが漢字である。一つの漢字は一つの音節を表し、多くの漢字と語素は一対一の関係にある。しかし、例外もある。音節、語素、漢字の三者のそれぞれの関係は比較的複雑であり、下記はそのよく見られる情況である。
(一)一つの音節が一つの漢字で書かれ、一つの意味を表す、或いは複数の意味を表し、これらの意味は互いに関連している。これは一つの語素と一つの漢字の関係である。
例えば:
◆ jing1 ― 睛(眼珠:ひとみ)
◆ gong1 ― 工(工人:労働者。“工作:仕事。工程:工事。工業。技術、技能。長于:秀でている。精巧である)
(二)一つの音節が複数の異なる漢字で書かれるが、同じ意味を表す。これは一つの語素と複数の漢字の異体字との関係である。
例えば:
◆ hui2 ― 回、囘など“回”の異字体(曲がる、めぐる。別の場所から元の場所に戻る)
◆ yuan2 ― 園、园(野菜、果樹、樹木を植える場所)
(三)一つの音節が一つの漢字で書かれ、複数の意味を表し、これらの意味は互いに関連しない。これは複数の語素と一つの漢字の関係である。(注)
例えば:
◆ gong1 ― 公(1)“私”に相対する「公の」。共通の。公開。公正。公事。
(2)公爵。男子に対する尊称。夫の父。雄の
(注)複数の意味が関連するかしないかは、ここでは現代漢語のレベルで見ている。もし、古代漢語、現代漢語を合わせてみると、一般には関連しない意味も、関連する場合がある。例えば、“書信”(手紙、書簡)の“信”と信任、信用の“信”は、古書の中で用いられる“信使”(公文書の送達者。使者)の“信”と関連づけると、同一の語素と見做すことができる。また、快楽の“快”、スピードの速い“快”、刃物が鋭利であることの“快”、といった意味が関連したものかどうかは判断が難しい。したがて、ここでは“多義字”と呼び、異形、異義の“同音字”と区別している。
(四)異なる音節が同一の漢字で書かれ、同一の語素を表す。これは一つの語素と多音の漢字の関係である。
例えば:
◆ xiao1 削(削皮:皮を剥く。削鉛筆:鉛筆を削る)
xue1 削(削減。削足適履:[成語]足を削って靴に合わせる。無理に調子を合せること)
◆ ke2 殻(蛋殻:卵の殻。子弾殻:銃弾の薬莢)
qiao4 殻(地殻。金蝉脱殻:[成語]蝉が外皮を脱ぐように、人に知られずそっと姿をくらますこと)
(五)異なる音節が同一の漢字で書かれるが、意味は異なる。これは複数の語素と一つの多音多義の漢字の関係である。
例えば:
◆ xing2 行(歩く。流通する、広める。行う、する)
hang2 行(行列。行業:職業、業種。排行:同族中の同世代間での、長幼の順序)
◆ shen1 参(人参。参商:参星と商星の二つの星は同時に現れないことから、親しい人が互いに遠く離れ、会うことができない譬え)
cen1 参(参差cen1ci1:長さや大きさが不揃いである。参錯:雑然として不揃いである)
can1 参(参加。参考。参拝)
以上で述べた音節、語素、漢字の間の五種類の関係は、一定程度簡略化したものである。例外や判断がつかないものも、実際のことばの中では少なからず存在する。例えば、儿化した音節は、一つの音節の末尾音に巻き舌の動作を付加したもので、“儿”は単独の音節ではない。“gai4r ― 蓋儿”、“wan2r ― 玩儿”は何れも一つの音節だが、二つの漢字で書かれる。語素の角度から見ると、“蓋”、“ 玩”は一つの語素を表し、“儿”も一つの語素を表す。このように、儿化音節は一つの音節が二つの漢字で書かれ、二つの語素を代表するという例外のケースである。
また、例えば:
beng2 ― 甭(不用) fiao4 ― 覅(不要)
lia3 ― 倆(両個) po3 ― 叵(不可)
sa1 ― 仨(三個) sa4 ― 卅(三十)
人によっては、これらは皆一つの音節、一つの漢字で二つの語素を代表していると考える人もいる。しかし実は、これらは一つの語素を代表している。もし“甭”が二つの語素なら、“beng2”は二段に分かれ、それぞれ“不”と“用”の意味を表わさなければならない。そうしてはじめて「語素が語音と語義の最小の結合体である」という定義に符合することになる。分割できない以上は、これらは当然一つの語素である。
【原文】胡裕樹主編《現代漢語》重訂版・上海教育出版社1995年より翻訳