中国語学習者のブログ

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沈宏非のグルメエッセイ: 【対訳】大いに“火鍋”を語ろう(2)

2010年12月06日 | 中国グルメ(美食)
  沈宏非の語る中国の冬の味覚、“火鍋”。前回の続きを、ご覧いただきます。

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■ 論火鍋,北京不止涮羊肉,韓国料理店的牛肚火鍋以及延吉鮮族人売的朝鮮狗肉火鍋,也好吃得很。其実,包括涮羊肉在内的北派火鍋都有一个特点,就是主料単一,湯底不繁,直奔主題,与川、粤形成了鮮明的対照。牛肚火鍋,主料就是牛肚、面条,至于狗肉火鍋,除了実打実的狗肉之外,最多也就是添点狗腸、狗肝,湯料也是狗肉湯,再加入豆腐、蔬菜、粉条之類,爽与不爽,一半取决于辣与不辣的“狗醤”。

・実打実 shi2da3shi2 うそ偽りがない

 火鍋について言えば、北京は涮羊肉だけでなく、韓国料理店の牛肚(牛の臓物)火鍋や延吉出身の朝鮮族が商う朝鮮風犬鍋も大変おいしい。実際、涮羊肉を含む北京式火鍋にはひとつの特徴がある。つまり、主な食材が単一であり、スープの中身は単純で、まっすぐ主題を追いかけており、四川、広東とは明らかな対照を形作っている。牛肚火鍋は、主な材料が牛肚(牛の臓物)、麺であり、犬鍋に至っては、実質本位の犬肉以外、最大限加えたとしても犬の腸、犬の肝までで、スープも犬肉のスープ。これに豆腐、野菜、春雨の類を加え、さっぱりしておいしいか否か、その半分は辛いのと辛くないのがある「狗醤(犬ミソ)」で決まる。

■ 不管是不是从北方遊牧民族処“騎来”,火鍋的確是一種很中国的飲食方式,而且非常地具“亜洲価値”。

 北方の遊牧民族のところから「馬に乗ってやって来た」にせよそうでないにせよ、火鍋は確かにたいへん中国的な飲食方式であり、非常に「アジア的価値」を備えている。

■ 如果説飲茶是広東人的身份認同,那麼全体中国人的身份認同,就是火鍋。世界上很少有一个種族,像中国人這様熱愛火鍋,当然,法国人偶尓也会来一道“布艮地鍋”,至于瑞士的芝士巧克力火鍋,其実更像是一道甜品,尽管上述地区的年平均气温都遠低于中国。

 もし飲茶を広東人のアイデンティティーだと言うなら、中国人全体のアイデンティティーは火鍋である。世界中でも、ひとつの民族が、中国人のように火鍋を熱愛するというケースは稀である。もちろん、フランス人もたまには「ブルゴーニュ鍋」をやるし、スイスのチーズやチョコレートのフォンデュに至っては、その実、デザートのようだ。これらの地域の平均気温は、何れも中国よりずっと低いにもかかわらず、である。

■ 在御寒和求鮮的表面証据之下,国人対火鍋的傾情,可能還有以下這几个心理上的原因:

 寒さを御し、材料の鮮度を追求するという表面上の理由で、中国人が火鍋に情熱を傾けるのは、或いは更に以下のいくつかの心理的な原因があるかもしれない。

■ 第一,熱閙,非常地熱閙,非常地“大一統”;前几年従香港伝入的所謂“個人火鍋”,雖然便宜,却終不成気候,原因就在這里。

・気候 qi4hou4 好ましい結果。成功。/成不了気候:ものにならない

 第一、にぎやかさ、非常ににぎやか。「大団円」。数年前、香港から伝わった、いわゆる「ひとり火鍋」は、便利ではあるけれども、ついには流行らなかった。その理由はここにある。

■ 第二,非但人気与火気斉旺,而且時間与快楽俱長。除了満漢全席之外,火鍋無疑是中餐里最能消磨時間的進食方式,尤其是四川的麻辣燙,出于対湯料的信仰,一鍋湯熬得愈久,一桌人吃得越酣,此乃川菜的基本常識。前一陣子有報道説,四川有一个騙子,専門誘騙外籍遊客做東請吃火鍋,上当的老外毎有察覚而欲撤離,該騙徒皆以“火鍋吃得越久越好吃”相阻留。

・熬 ao1 煮る
・酣 han1 気持ちよく存分に飲む。心ゆくまで~する。
・做東 ごちそうする。おごる。
・上当 shang4dang4 わなにはまる。だまされる。
・老外 田舎者

 第二、人々の雰囲気と鍋の火が共に盛んであるだけでなく、時間と快楽も共に長く続く。満漢全席を除いて、火鍋は間違いなく中国料理の中で最も時間を消耗することのできる食事方式である。特に四川の麻辣燙は、スープの材料に対する信仰から出て、鍋のスープを長く煮れば煮るほど、テーブルの人が心行くまで堪能できる、というのが四川料理の基本常識となっている。ちょっと前のニュースで、四川に詐欺師がおり、専ら外地からの旅行客を誘い、だまして火鍋をおごらせようとした。騙された人はそれと気づき、その場から立ち去ったが、くだんの詐欺師一味は「火鍋は時間がたてばたつほどおいしくなる」ため、そこに留まっていたそうである。

■ 毎一次在一家火鍋店圍炉三個小時以上,酒酣耳熱之際,我就会不期然地去想,“醤缸”恐怕是一個過時的東西了,現在,無論如何也該輪到了“涮”。挙目皆“涮”也,亦無物不可赴“涮”,多麼熱閙,多麼無休無止,多麼的無厘頭。

・酒酣耳熱 jiu3han1er3re4 ほろ酔い機嫌
・挙目 ju3mu4 目を上げて(見る)。

 毎回、火鍋屋でコンロを囲むこと3時間以上、ほろ酔い加減になると、私はふと思うことがある。“醤缸”(タレ入れの甕)はおそらく時代遅れのものだ。今はとにかく「しゃぶしゃぶ」をする番だ。眼を上げると、皆「しゃぶしゃぶ」をしている。「しゃぶしゃぶ」できないものは無い。こんなににぎやかで、こんなに絶え間なく、こんなに無秩序である。

■ “醤缸”的統治久矣,子曰:“不得其醤,不食”(《論語・郷党篇》)。然而,終于有這麼一天,火鍋消解了“醤缸”,最起碼,醤料在火鍋席上只占有従属的地位,鍋里鍋外的衆声喧嘩,才是后現代的性格。

・消解 xiao1jie3 (疑いや懸念が)氷解する。消える。
・喧嘩 xuan1hua2 がやがやとやかましい。騒がしい。

 “醤缸”の支配は久しい。子曰く「その醤を得ずんば、食せず」と(《論語・郷党篇》)。しかし、遂にはこんな日が来るだろう。火鍋から“醤缸”が消え、タレは火鍋の席で従属的な地位を占めるだけになる。鍋の中も鍋の外も人々の声ががやがやと喧しい。こうなってこそ次世代的である。

* 確かに、スープに味がついていなければ、タレは重要ですが、鴛鴦火鍋のようにスープに十分味のついているものでは、タレはそれほど意味がありません。沈宏非がここで言っているのは、そういうことなのでしょうか。

■ 也有一些人極端地厭悪火鍋,例如以精食著称的袁枚。

 しかし一部では、極端に火鍋を嫌っている人もいる。例えば、精緻な食で有名な袁枚である。

■ 《随園食単》有“戒火鍋”一節:“冬日宴客,慣用火鍋,対客喧騰,已属可厭;且各菜之味,有一定火候,宜文宜武,宜撤宜添,瞬息難差。今一例以火逼之,其味尚可問哉?近人用焼酒代炭,以為得計,而不知物経多滚gun3総能変味。或問:菜冷奈何?曰:以起鍋滚gun3熱之菜 ,不使客登時食尽,而尚能留之以至于冷,則其味之悪劣可知矣。”

・喧騰 xuan1teng2 騒ぎで沸き返っている
・得計 de2ji4 計画がうまくいく。思い通りになる。

 《随園食単》に「火鍋を戒める」という一節がある。「冬の宴客は、火鍋をよく使うが、客に対しわあわあと沸きかえり、既に忌まわしいものである。且つ各々の料理には、一定の火加減があり、とろ火が良いもの、強火が良いもの、減らすのが良いもの、加えるのが良いもの、瞬時にはその違いがわからない。今、試みに火で以てこれを強いれば、その味を尚問うことができるだろうか?最近の人はアルコールを燃やすことで炭に代え、思い通りになると思っている。然るに食物が何度も煮立たせると必ず味が変質してしまうことを知らない。或いは問う、料理が冷めてしまったらどうなる?曰く最初に鍋が煮立ち、熱くなった料理を、客がその時食べ尽くさず、中に残って冷めてしまったものは、その味の劣悪であることを知るべきである。」

■ 就烹飪及待客之道的基本原則而言,袁枚的説法,字字到位,句句中肯。站在食客的立場,対于火鍋,我却是一則以喜,一則以悲,所喜所悲,皆因熱閙而起。

 料理を作ることと接客の方法の基本原則から言えば、袁枚のことばは一字一句もっともである。食客の立場に立てば、火鍋に対し、私はうれしくもあり、悲しくもあり、悲喜こもごもは皆そのにぎやかさから起こる。

■ 熱閙或喧嘩的種種場面,不独火鍋。問題在于,不管哪一路的火鍋,総是離不開醤料,醤油、姜絲、辣椒、沙茶醤之類,只是最基本的,此外尚有数不清的醤料小碟,星羅棋布地擺満了餐桌。而吃火鍋的手持器具,起碼在両種以上,動作幅度和頻度極大,那所涮之物,随波逐流,随時有溺水失踪的危険,在転瞬間消逝了踪影。在深不見底的老湯里打撈垂釣,難度不亜于在巴倫支海底搜索失踪的俄羅斯潜艇。与此同時,還得不時調節火力,控制火候,三頭六臂,七手八脚,只是把厨房搬上了飯桌,局面之混乱,始終処于失控的辺縁。

・星羅棋布 xing1luo2qi2bu4  [成語](星や碁石のように)多く広く分布している
・打撈 da3lao1 (沈没した船や水死体を)引き上げる
・垂釣 chui2diao4 釣り針を垂れる。魚を釣る
・三頭六臂 [成語]三つの頭と六つの腕。非常に優れた能力を持っているたとえ。三面六臂。
・七手八脚 [成語]だれもかれもが一度に手を出す。寄ってたかって何かをする
・辺縁 bian1yuan2 すれすれ。きわどい状態。

 にぎやかさや、がやがやとうるさい各種場面は、ひとり火鍋に限らない。問題は、どんな火鍋にせよ、タレから離れることができない。それは醤油、生姜の細切り、唐辛子、サテソース(南方でよく使われるピーナッツ・ベースの調味料)の類が、最も基本的なものに過ぎず、この他、数え切れないタレの小皿があり、綺羅星の如くテーブル一杯並べられている。一方、火鍋を食べる時の手に持つ器具は、最低二種類以上、動作の幅と頻度は極大で、湯にくぐらせる物は、スープの波に随い流れていってしまい、常に溺水・失踪の危険があり、あっという間に跡形も無く消えてしまう。深く底の見えない長く煮込んだスープの中から引き上げたり吊り上げたりするのは、ベーリング海の海底で、失踪したロシアの潜水艦を捜索するのと、その難度は劣らない。これと同時に、常に火力を調整し、火加減をコントロールし、三面六臂、寄ってたかって、まさに厨房をテーブルに持ってきたようなもので、局面の混乱、終始制御不能に陥るぎりぎりの状態におかれている。

* なるほど。確かに各種具材、各種調味料、道具類が所狭しと並べられた情景が目に浮かびます。さしもの、日本なら、ここで鍋奉行が登場し、肉の煮えすぎとかに、注意を飛ばすところでしょうか。

■ 聞鼙pi2鼓而思良将。毎当這種悲喜交集的時刻,我就渇望能有一个鉄腕人物従天而降,力挽狂瀾,牢牢地把握火鍋的大方向。

・聞鼙pi2鼓而思良将 《礼記》出典のことば。“鼙鼓”pi2gu3というのは軍中で使われる大小の太鼓のことで、古代には出陣や各種の指示を伝えるのに使われた。王政にある者は、戦陣の太鼓の音を聞くや、直ちに自分の配下でそれぞれの局面でふさわしい武将の名前が思い浮かぶという意味。

・力挽狂瀾 li4yi4kuang2lan2 “挽”:挽回する。“狂瀾”:猛烈な波浪。危険な局面を全力で挽回しようとすること

 軍鼓を聞いて良将を思う。こういう悲喜こもごもの時に当たるたび、私は鉄腕を持つ人物が天から降りてきて、劣勢を力ずくで挽回し、しっかりと火鍋の大方向を把握してくれないか、と願う。

* これは明らかに、沈宏非は鍋奉行の出現を熱望されています。中国では鍋の時にあれこれ口を挟む人はいないのでしょうか。

■ 前年冬天的一个雪夜,我和一伙人在東四的“忙蜂”喝到昏天地,又被裹脅至東直門謀“麻辣燙”。恍惚間,但覚座中一女指揮若定,使卓面上自始至終秩序井然。口腔麻痺,声音漸遠,心中惟存一念:我的下半生,就交給你来安排吧。

・昏天地 [成語]意識がぼうっとするさま
・裹脅 guo3xie2 (悪事を働くよう)脅迫する
・井然 jing3ran2 整然としている。きちんとしている。

 去年の冬のある雪の夜、私と何人かの仲間は東四の「忙蜂」で意識朦朧となるまで飲み、また脅かされて東直門の某「麻辣燙」に連れて行かれた。意識はぼんやりしていたが、座中のひとりの女性がきっちり取り仕切り、テーブルの上は終始秩序立っているのがわかった。口は麻痺し、声は次第に遠のいて行ったが、心の中でただひとつ思ったことは、私の後半生をあなたに任し采配してほしい、ということだった。

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 沈宏非も最後は酔い潰れてしまいましたが、鍋というのは寒い季節に人の心を豊かにし、団欒を進めてくれるものです。中国人だけでなく、日本人も、韓国人も、皆この点では共通の文化を持っていると言えるでしょう。


【原文】 沈宏非 《食相報告》四川人民出版社 2003年

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