今回は、北京独特の冬の食べ物として、“凍柿子”、凍り柿を取り上げたいと思います。柿にこういう食べ方があったことを、今回この文を読んで初めて知りました。けれども、今は、まさかこの話のように窓の外に柿を出しておいて凍らすようなことは、北京の街の中では見られないでしょう。
■ 在北方籍的詞曲作家中,顧季(名随)先生很著名的,如果健在,已近百歳,可惜早已去世了。他曾経是我的老師,我聴過他両三門課。顧先生講話極為風趣,嫻于辞令,他愛聴戯,也愛談戯,講課時常愛用戯来打比喩,常説:“我就愛聴余叔岩的戯,又沙唖,又流利,聴了真痛快,像六月里吃氷鎮沙瓤ran2大西瓜,又像数九天吃冰凍柿子一様,真痛快呀 ―― 啊!”説完了最后還作個表情,“啊”一声,引得同学們哈哈大笑。想起来,這已経是四十多年前的事了。顧季夫子作古也多年了,但這旧事却還歴歴如昨。沙瓤ran2大西瓜南北各地都有,并不算稀奇,而這三九天的凍柿子,却実在令人懐想。
・詞曲 ci2qu3 詞と曲の総称。戯曲。
・風趣 feng1qu4 ユーモア。諧謔味。
・嫻 xian2 熟練している。巧みである。/嫻于辞令:応対が上手である
・沙唖 sha1ya3 声がかれる。しわがれる
・沙瓤 sha1ran2 (西瓜などの)さくさくとして歯切れのよい果肉
・作古 zuo4gu3 亡くなる。逝去する
・歴歴如昨 li4li4ru2zuo2 まだ昨日のことのようにありありと眼に浮かぶ
・三九天 真冬の最も寒い時。/冬至から数えて最初の9日間を“一九”、次の9日間を“二九”、その次の9日間を“三九”といい、この27日間をまとめて“三九”と言うこともある。
中国北方出身の戯曲作家の中で、顧季(名随)先生はたいへん有名で、もし健在であれば、既に百歳近くになるが、残念なことにとっくに亡くなられた。先生は嘗て私の師であったことがあり、私は先生の授業を二、三科目聞いたことがある。顧先生の話はたいへんユーモアがあり、話が巧みであった。芝居が好きで、芝居のことを話すのが好きで、講義の時はいつも芝居のことを譬えにするのが好きで、いつもこう言っていた。「私は余叔岩の芝居が好きで、寂びがあるし、流れが良く、聞いていて気持ちが良く、ちょうど六月に冷たく冷やしたサクサクとした西瓜を食べるようだ。また九日数えて凍らした柿を食べるように、本当に気持が良い ―― ああ!」こう言うと、最後にまたうっとりしてみせたので、「ああ!」と一声あげると、クラスの皆は大声をたてて笑った。思い返してみると、これはもう四十年余り前のことだ。顧季夫人が亡くなってからも何年も経つが、まだ昨日のことのようにありありと眼に浮かぶ。サクサクとした西瓜は全国どこにでもあり、珍しくないが、この真冬の凍らせた柿は、本当に懐かしく思い出される。
■ 北京是一个出産柿子的地方,西北山一帯,漫山遍野到処都是柿子樹。
北京は柿の産地の一つで、西北の山地一帯は、そこら中が柿の木だらけである。
■ 《光緒順天府志》記云:柿子赤果実,大者霜后熟,形圓微扁,中有拗,形如蓋,可去皮晒干為餅。出精液,白如霜,名柿霜,味甘,食之能消痰。
・拗 ao4 なめらかでない。くびれる
・柿霜 干し柿の表面に吹く白い粉。漢方薬として、喉の痛みや咳に用いる。
《光緒順天府志》の記載に言う:柿は赤い色の果実で、大きなものは霜が降りてから熟れ、形は丸く多少扁平で、真ん中がくびれていて、形は蓋のようで、皮を剥いて乾せば干し柿になる。精を出せば、霜の如く白くなる。名を柿霜といい、味甘く、これを食べれば痰を消すことができる。
■ 柿子的種類很多,如硬柿、蓋柿、火柿、青柿、方柿等等,全国各地都有出産,其中北京出産的最多的是蓋柿,就是所説的中有拗,形如蓋的,其次出産一些小火柿,俗名牛眼睛柿。北京西山一帯出産柿子的山村,也晒柿餅,但数量不多,因離城近,大都運到城里来売了。柿餅是河南、陝西一帯的特産,柿霜糖是柿子的精華,晒柿餅時的重要副産品,性極涼,是治小孩口瘡、咽喉炎等症的特効薬。吃也很好吃,又甜又涼,入口即化,也是河南的名産。而這種最普通的東西,現在不知怎麼也少見了。
・柿餅 干し柿
・口瘡 kou3chuang1 口内炎
・柿霜糖 “柿霜”と同じ意。上記説明参照
柿は種類がたいへん多く、硬柿、蓋柿、火柿、青柿、方柿などがあり、全国各地で取れるが、そのうち北京で生産の最も多いのが“蓋柿”で、字の如く真ん中がくびれて、形が蓋のようである。その次に生産が多いのが小ぶりな火柿で、俗名を“牛眼睛柿”(牛の眼の形の柿)という。北京の西山一帯で柿を生産する山村では、干し柿も作るが、数量は多くない。なぜなら都市に近いので、大部分は町に持って行って売ってしまうからである。干し柿は河南、陝西一帯の特産で、“柿霜糖”は柿の精華で、干し柿を晒す時の重要な副産物である。その性質は極めて“涼”(漢方で言う“熱”の反対)であり、子供の口内炎、喉の炎症などの特効薬である。食べてもたいへん美味しく、甘くかつ冷たく、口に入れると融け、河南の名産である。このような極めて普通のものが、今はどうした訳かあまり見かけなくなってしまった。
■ 在北京吃柿子,最好是冬季数九天吃凍柿子。北京冬天室中生火炉,天气越冷,炉子弄得越旺,也越干燥,人們反而想吃一点水分多的,涼陰陰的東西。人們把買来的柿子,放在室外窓台上凍,等到凍得像个氷坨子的時候,就可吃了。飯后大家囲炉聊天時,把這凍柿子拿来,洗干浄,放在一盆冷水中消一消,等到全部変軟便可吃了。這時柿子的内部組織,経過一凍一融,已経全部変成流体,用嘴向柿子皮上軽軽一吸,便可把氷涼的柿子乳汁吸到口中,那真是又涼又甜,遠勝過吃雪糕,難怪北京売柿子的都呟喝: “喝了蜜的,大柿子!” 喝了蜜 ―― 該是多麼甜呢?
・坨子 tuo2zi 塊になったもの
・呟喝 yao1he 大声で叫ぶ。物売りが呼び売りする時に用いる。
北京で柿を食べるなら、一番良いのは冬に九日待って凍らせた柿を食べるべきである。北京では冬、部屋の中でストーブを焚く。天気が寒くなるにつれ、ストーブの火は益々盛んに燃やされ、中は益々乾燥するので、人々は却って水分の多い、ひんやりしたものが食べたくなる。人々は買ってきた柿を、室外の窓の台の上に置いて凍らせ、それが凍って氷の塊のようになったら、食べごろである。食後、皆がストーブを囲んでおしゃべりをしている時、この凍らせた柿を持ってきて、きれいに洗い、冷たい水を入れた鉢の中に入れて融かしてやる。完全に柔らかくなったら食べごろである。この時、柿の内部組織は、一度凍らせてから融かされたので、もう全体が流体に変わってしまい、口で柿の皮の上から軽く吸えば、冷たい柿の汁を口に吸い込むことができる。それは本当に冷たくて甘くて、アイスクリームよりずっと美味しい。道理で北京の柿売りは、こう呼びよせるはずだ。「飲んだら甘い、大きな柿だよ!」飲んだら甘い ―― どれだけ甘くないといけないのだろう?
【出典】雲郷《雲郷話食》河北教育出版社 2004年11月
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