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💊解剖学的に示すニューロンが発見される 202111

2021-11-03 01:36:00 | 健康関連

解剖学的に示すニューロンが発見される
   ナゾロジー より 211103  KAIN


 鍼治療とは、炎症に関連した慢性的な痛みや、その他健康上のさまざまな問題を改善させる数千年も続く中国の伝統医療技術です。
 現在はどこ国にも鍼治療の診療所があり、非常に一般的な医療として浸透しているイメージもあります。

 しかし、この治療法には科学的根拠がまるでなく、その治療メカニズムもよくわかっていません。
 ハーバード大学医学部の神経科学の研究チームは、そんな鍼治療において、電気鍼を使った場合に抗炎症反応を引き起こす神経ニューロンを発見したと報告しています。
 果たしてこの発見は、謎多き鍼治療のメカニズムを解明する神経解剖学的な根拠となりうるのでしょうか?

この研究の詳細は、10月13日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。

■目次
ー科学的根拠がない? 鍼治療の謎
ー鍼の効能は科学的に説明できるのか?
ー疑惑の多い鍼治療研究

⚫︎科学的根拠がない? 鍼治療の謎
    Credit: The Elder Scrolls V: Skyrim,Bethesda Softworks LLC
 伝説によると、鍼治療の始まりは紀元前2600年頃、異民族との戦闘中に矢を受けた兵士が偶然発見したと伝えられています。
 その兵士は、矢傷が致命傷になることなく助かりましたが、その矢傷がきっかけで長く患っていた病気も治ったのです。
 真偽は不明ですが、それから数千年に渡り、鍼治療は中国の伝統的な医療として継承されてきました。

 近代では一時期、廃れていた期間もありますが、毛沢東がこれを復権させました。
また、1972年ニクソン訪中の際に、米国人記者ジェイムズ・レストンが現地で受けた鍼治療によって虫垂炎手術後の猛烈な腹痛が改善されたと記事にしたことで、大きく世界に広まりました。

 鍼治療は現在かなり一般にも浸透していて診療所もよく見かけます。
そのため鍼治療とは、医学的に根拠のある神経を刺激して治療する正当な医療行為だと考えている人は多いかもしれません。

 しかし、実際には鍼治療のメカニズムは科学的にはまったくわかっていません。
なぜなら鍼治療自身が大真面目に、その治療方法について、鍼治療は人体に流れる「気」の通路である「経絡」に沿って存在するツボ(経穴)に、鍼を刺すことで生命力のバランスを整えて体のさまざまな異常を取り去ると説明しているからです。
 この説明を真面目に受け取る人は、現代ではかなり少数でしょう。

 また、人体に流れる「気」と呼ばれるものや、経絡と呼ばれるものに該当しそうな器官も、解剖学的に発見されてはいません。
 しかし、多くの人がその確かな治療効果を訴える以上、医学がその意味を見つけ出させていないだけで、鍼には何かがあるのだろう、と考えるのは自然なことに思えます。

 そこで、鍼治療の解剖学的なメカニズムを明らかにしようと研究を続ける科学者も多く存在するのです。
 今回は、ハーバード大学医学部で鍼治療の研究を行うマー・チォウフ(馬秋冨:Qiufu Ma)氏が、電気鍼治療について、その効果のメカニズムの一端を明らかにしたと報告しています。

⚫︎鍼の効能は科学的に説明できるのか?
 マー氏の研究チームは、鍼治療においてもっとも基本的な疑問の1つを明らかにしようとしています。

 それは「ツボと呼ばれる体の部位に意味を与える、神経解剖学的基礎はなんなのか?」ということです。
 それがわかれば鍼治療は正当な医学の1つになれるかもしれませんし、さらにこの治療技術を洗練させることもできるかもしれません。

 今回の研究チームは、2014年にも電気鍼治療に関する研究を発表しており、そこでは迷走神経-副腎軸(副腎に信号を送りドーパミンを放出させる経路)が電気刺激で活性化することで、マウスのサイトカインストームを減少させることができると報告されています。

 サイトカインとは細胞から出るタンパク質のことで、細胞間に命令を伝達する役割を持っています。
 これにはさまざまな種類がありますが、細胞の炎症によってサイトカインが血中に分泌されると、体が異常を感知して発熱や倦怠感などを起こします。
 これが重度の全身性炎症によって引き起こされると、一気に大量のサイトカインが放出されるサイトカインストームが発生します。

 新型コロナウイルスに関連した症状は、このサイトカインストームに原因があるとも言われています。
 炎症に伴う重要な問題であるサイトカインストームを、鍼治療の刺激によって軽減できるのだとすれば、これは鍼治療の医学的効用を示す有力な証拠となる可能性があります。

 チームはさらに研究を進め、2020年の研究ではこの電気鍼治療法の効果が、体の領域によって効果が変わることを発見しました。

 この研究では、電気鍼治療をマウスの後肢領域に行った場合は効果的だったが、腹部領域に施した場合は効果がなかったと報告しているのです。

 チームはこの反応の違いが後肢領域特有の感覚ニューロンにあるのではないかと予想し、それこそがツボの正体かもしれないと考えたのです。

 そして、今回、その仮設を調査する一連の実験が実行されたのです。
マウスの腹部と後肢について、調べたところ、彼らは部位によって数の異なる感覚ニューロンを特定することができました。
 このニューロンは腹部の腹筋よりも、後肢の深部筋膜組織に3~4倍多く存在していたのです。

 これが問題の感覚ニューロンではないかと考えた研究チームは、次にこの感覚ニューロンが欠損したマウスを作成し、後肢に電気鍼治療を施してみました。
 すると迷走神経-副腎軸が活性化しない(サイトカインストームを軽減しない)ことがわかったのです。

 つまり発見されたこの感覚ニューロンが、電気鍼治療の効果を示すために重要な役割を果たしていることがわかったのです。
 さらにこのニューロンは、後肢の前部筋肉の方が後部筋肉より多く存在していることもわかりました。

 そこで後肢の前部と後部でそれぞれ電気鍼治療を行ったところ、前部に行ったほうが強い反応を示すことがわかったのです。
 これは電気刺激の効果が、神経線維の分布に基づいて効果的な場所と、効果的でない場所があることを示しています。

 こうした結果は、「ツボの位置の意味や特異性について説明する、最初の具体的な神経解剖学的説明となるだろう」とマー氏は述べています。

 ここからは、鍼をどこに打つのか? どのくらい深く打つのか? どのくらいの強度の刺激が必要なのか? という鍼治療のパラメータを理解することができるのです。

 今回の研究は、マウスに対して行われましたが、ニューロンの基本的な組織構成は、人間を含めた哺乳類全体で進化的に保存されている可能性が高いと研究者は述べています。

 今回の発見は、新型コロナウイルスのような過度な全身炎症を伴う感染症の状態を治療したり、炎症性腸症候群や関節炎など慢性疾患の治療法、さらにがん免疫療法の副作用となる過剰な免疫反応を抑えるために、役立つ可能性もあると、マー氏は述べています。

 ただ、今回の報告は本当に鍼治療の効能を科学的に示している研究なのでしょうか?
実のところ、鍼治療に関連する研究報告には、いろいろと疑問を述べる人たちも多く存在します。

 最後に、この問題について触れておきましょう。

⚫︎疑惑の多い鍼治療研究
 中国の伝統医療として普及している鍼治療ですが、実際そこに本当に効果があるのかについては、長らく疑問の声が上がっていました。
 ある医療について本当に効果があるか明らかにする場合、通常「二重盲検プラセボ対照試験」というものが実施されます。

 これは新薬が開発された際、本当に効果があるかを調べるときにも利用される方法で、「本物の薬で治療する患者」と「偽薬で治療した振りをする患者」にグループを分けて、効果の違いを確認します。

 こうした実験では、研究者自身が効果を証明したいと思ってやるため、結果にバイアスがかかってしまったり、患者に偽薬とバレてしまう恐れがあるため、医者も患者もどっちが本物でどっちが偽物かわからない状態で試験を行います。
 そのため「二重盲検」と呼ぶのです。
こうした試験では、治療にはっきりとした効能がある場合、明確な違いが出ます。

 鍼治療の効能に疑問が持たれた際も、こうした「二重盲検プラセボ対照試験」をしようと多くの研究が行われました。
 しかし、偽薬と異なり鍼治療は、実際患者に鍼を刺さなければならないため、偽薬にあたる治療を用意することが非常に難しいのです。

 そこで、研究者たちは、鍼を鍼治療が主張する「経絡のツボに届かないくらい浅く刺す」、あるいは「ツボからズレた位置に刺す」という方法でプラセボ対照を実施しました。
 鍼治療の理論に従うならば、鍼の位置が浅くても、ツボからズレていても効果は出ないはずです。

 しかし、この実験を行うためには鍼師の協力を得なければ実現できません。
このため、厳密に「二重盲検」を実施することが難しく、多くの研究があちこちで報告されましたが、かなりずさんな研究報告もあり、鍼治療効能の有効性についてはまったくマチマチな結果になってしまったのです。

 つまり鍼治療のプラセボ対照試験による有意差は、科学的に示せていないのです。
こうした状況に対して、2003年にWHOは数多く報告されている鍼治療のプラセボ対照試験研究を評価した総括レポートを作成し発表しました。
『鍼-対照臨床実験に関するレビューと分析』という報告書では、293もの研究論文のデータを検討し、91の症例に対して鍼治療は効果が証明されたと結論付けられています。

 しかし、このレポートでは、かなりいい加減な研究報告もレビューに含めていて、本当に鍼治療の有効性が示せているのかについて疑問が持たれています。
 特に報告書をまとめた責任者が、鍼治療を支持している北京大学統合医療研究所の謝竹藩(シェ・ジューファン)医師という、鍼治療に対して利害関係を持つ人物だったことも問題とされました。

 WHOと中国のつながりについては、この辺りでもすでに疑惑が持たれていたのです。

 そんなわけで、鍼治療が本当に医療として意味があるのか? エセ科学なのではないか? という疑問は長らく医学研究者の間でも持たれていて、未だに解消はされていません。

 今回の報告された研究についても、「そもそも『二重盲検プラセボ対照試験』で有意差が示せていないのに、メカニズムを探る研究に意味があるのか?」 とか、「鍼治療じゃなくてただの電気刺激に対する報告ではないのか?」という疑問の声が海外掲示板redditでは囁かれています。

 今回の研究が、重大な発見であったことは事実ですが、研究者の主張する通りに鍼治療のメカニズムが一端でも解明されたかについては、少し疑問が残るかもしれません。



■参考文献
Exploring the Science of Acupuncture https://hms.harvard.edu/news/exploring-science-acupuncture 代替医療解剖 (新潮文庫) https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01N2WEPWB/ref=as_li_tl?ie=UTF8&tag=nazology-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B01N2WEPWB&linkId=f554d0af8b17fe56d869e606346f5719
⚫︎元論文
A neuroanatomical basis for electroacupuncture to drive the vagal–adrenal axis https://www.nature.com/articles/s41586-021-04001-4
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⚠️ 「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか    202111

2021-11-03 01:21:00 | なるほど  ふぅ〜ん

「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか
   ITmedia onlain より 211103   窪田順生


 技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢が再び繰り返されてしまうのだろうか。

 最近、さまざまなメディアや専門家の間で、「日本のアニメ産業が海外で負けてしまうのでは」という脅威論が唱えられることが多くなってきた。

 ご存じのように、アニメといえば日本のお家芸。ジブリにワンピース、進撃の巨人、最近では鬼滅の刃に呪術廻戦など、海外でも人気のアニメ作品は例を挙げればキリがない。が、そんな「世界一のアニメ大国」の座を、中国や韓国が脅かしつつあるというのだ。


⚫︎日本のアニメ産業はどうなる?
 根拠として指摘されるのは、近年、日本でアニメ制作を学んだ中国・韓国のクリエイターが帰国後、高いクオリティーの作品をつくっていることがある。
 また、世界に名だたる低賃金労働国家ニッポンの中でも、アニメ制作現場の過酷な労働環境は群を抜いており、ブラック労働に嫌気がさした技術者たちの「海外流出」が始まっていることも大きい。

 このようなエピソードにデジャブを感じないか。そう、「日本の技術は世界一ィィ」とイキっていた家電、半導体などが、いつの間にやら自分たちよりも「下」に見ていた、中国や韓国のメーカーに追い抜かれてしまった、という負けパターンと酷似しているのだ。

 もちろん、このような指摘は的外れだという意見もある。アニメのビジネスで大切なのは「国」ではなく、「ブランド」であり、海外の人気アニメランキングを見ても、日本のマンガ原作の作品が圧倒的な人気を誇っている。

 中国や韓国もそれを模倣している段階なので、売り上げや市場規模を追い抜かされても、日本アニメの競争力・価値は揺らぐことがないというのだ。著作権ビジネスやコンテンツパワーの観点からも、日本が負けることはない、とおっしゃる専門家も少なくない。

 「なるほどなあ」と納得する部分もあるが、個人的にはこのような意見が出てくる時点で逆に、ちょっと危ないものを感じている。

 これまでの「負けた産業」を見ていくと、中国や韓国が右肩あがりで成長している事実を真摯(しんし)に受け入れず、「日本は負けない」「日本の優位性は揺らがない」と叫び続けながら衰退していく、というパターンが圧倒的に多いからだ。

⚫︎後から来たのに追い越された 例えば分かりやすいのが、白物家電だ。

 2000年代前半、ハイアールなど中国の白物家電メーカーが海外進出を始めた当初、日本人の多くは「どうせ故障が多いんでしょ?」と鼻で笑っていた。専門家の間でも「日本の家電メーカーの地位は揺るがない」という見方が広まっていたので、これといった対策に動くことはなかった。

 当時はまだブランドは中国や韓国であっても、それらの家電の基幹部品は日本メーカーのものを使っていることも多かったからだ。要するに、肝心の技術の部分はしっかりと握っているので、「メイド・イン・ジャパン」の競争力・価値は下がらないと安心していたのである。

 だが、この甘っちょろい考えが間違っていた。「日本メーカーが危ないというのは的外れだ」と専門家が声高に主張している間に、中国メーカーはメキメキと成長して、日本メーカーを買収できるようになってしまったのだ。

⚫︎日本のお家芸だった家電が苦戦することに
 12年には、パナソニックがハイアールに三洋電機の洗濯機・冷蔵庫事業を売却。16年には、東芝が白物家電事業をマイディア(中国)に売却、ハイアールがゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業を買収した。また18年には、東芝がテレビなど映像事業をハイセン(中国)に売却した。

 このような数々の買収を経ていけば当然、中国の技術力も上がっていく。「日本の優位性は揺るがない」と胸を張っていた時代から10年も経たず、「日本の白物家電は世界一」というのは思い出話になってしまった。

 この構造は、日本のコンテンツビジネスにも当てはまる。実は日本映画は1960年代前半くらいまで現在のアニメと同じようなポジションだった。「制作本数をみても邦画は年間443本で世界一を示している」(読売新聞 1958年3月28日)と他国を「下」に見ていた。

 実際、小津安二郎や黒澤明などの作品は、世界の映画人を魅了した。西部劇映画『荒野の7人』は『7人の侍』をリメイクしたもので、『スター・ウォーズ』も、黒澤明の『隠し砦の三悪人』からヒントを得た。宮崎駿氏や庵野秀明氏が、世界のアニメ製作者からリスペクトされ、作品や技法が模倣されるという今と同じ現象が、50年以上前の日本映画でも起きていたのである。

 では、今も日本映画の優位性は揺らいでないのかというと残念ながらゴリゴリに揺らいでいる。制作費は海外の10分の1以下でマネタイズも難しい。是枝裕和監督のような世界で活躍する映画人が、「このままでは日本の映画は本当に終わってしまう」と危機感をあらわにしている。

 そんな衰退する日本映画と対照的に、勢いがあるのが長らく「下」に見ていた韓国だ。アジア初のアカデミー賞は韓国作品だ。ネットフリックスで記録的なヒットをした『イカゲーム』をはじめとして、韓国ドラマは世界市場で売れるコンテンツに成長した。

 90年代まで、軍事政権でエンタメ産業が発展していなかった韓国では、民主化後は日本や米国のエンタメを徹底的に研究して、国をあげてエンタメ輸出に力を注いだ。つまり、こちらも白物家電と同じで、「後から来たのに追い越された」のだ。

⚫︎中国マネーが映画産業に
 そう考えてみると、同じことがアニメでも起きる可能性は高い。

 確かに、今は多くの「人気マンガ作品」を持っている日本の優位性は揺るがない。が、もしそれらの版権を持つ出版社などが、中国資本によって買収されるようになったらどうか。

 三洋電機、東芝、シャープの買収が、中国メーカーの技術力向上につながったように、中国から『ワンピース』や『進撃の巨人』のような世界的ヒットのマンガが出てくるかもしれない。そうなれば、世界で売れる中国産アニメがたくさん出てくるはずなので、日本アニメの優位性だという「世界で売れるマンガ原作がたくさんある」もガラガラと音をたてて崩れる。白物家電や日本映画と同じ敗戦パターンだ。

⚫︎日本のアニメに未来は?
 「考えすぎだ」と思うかもしれないが、実は既に中国ではこのような買収をしていく流れで、「国産コンテンツ」のレベルをあげている先進事例がある。映画だ。

 例えば、アリババは15年に『ミッションインポッシブル/ローグ・ネイション』に投資したことを皮切りに、16年には、スティーブン・スピルバーグ監督の映画会社アンブリン・ピクチャーズとの間に、共同制作、共同出資契約を結んでいる。

 また、不動産大手の大連万達(ワンダ)グループは、12年にAMCエンターテインメントを買収し、世界最大規模の映画館チェーンを抱える存在になった。16年には、『ダークナイト』『GODZILA ゴジラ』などを製作している米レジェンダリー・エンターテインメントを買収した。
 このように世界の映画産業には、中国マネーがジャブジャブ入っているのだ。

⚫︎中国映画のレベルが上がっている
 という話を聞くと、「ハリウッド作品に中国人女優を主役にゴリ押ししたり、中国を悪役に描かないようにするだけでしょ」という感想を抱く人が多いかもしれない。
 確かに、中国資本の入った映画『トップガン』では、前作で主役のフライトジャケットにあった日本と台湾の国旗が消えていた、なんて話があるように、「映画のプロパガンダ利用」という問題もあるが、実はこれらの買収で中国映画のレベルも上がっているのだ。

 例えば、これまで中国でヒットする作品は海外の大作映画だった。ジェトロの「中国映画/テレビ市場調査」という資料によれば、17年の興行収入トップ10のうち国産映画は4本のみで、あとはハリウッドなどの海外映画だ。

⚫︎コミック販売額は伸びているが……(出典:出版科学研究所)
 しかし、20年にはトップ10のすべてが中国国産映画になっている。もちろん、これには新型コロナの影響もあるだろうが、中国映画への「評価」が上がってきたことも無関係ではない。

 『中国の人々は今、理性的に映画を選ぶようになっており、「ハリウッド映画」というだけの理由でそれをリスペクトすることはなくなり、おもしろい国産映画に対しても、より高く評価するようになっている』(人民網日本語版 2021年01月05日)

 なぜ評価されるのか。一つには、「国潮」という国産ブームがある。「爆買」に象徴されるように、中国ではかつて「日本の化粧品は品質が高い」と大人気だったが、現在は中国の化粧品メーカーが人気となっている。愛国心の高まりから、「国産」が支持されているのだ。

 当然、これは映画にも当てはまる。20年、中国でもっともヒットした、『エイト・ハンドレッドー戦場の英雄たちー』という映画は、日中戦争が舞台で日本軍が悪者なので、どういう内容かは見なくても分かるだろう。

 ただ、この映画がヒットしたのは「中国人の愛国心を刺激したから」という単純な話ではない。総製作費が日本円で80億円なので、ハリウッドのエンタメ大作と同じレベルだ。ちなみに、メジャーな邦画の平均制作費が3.5億円である。実際、カネにモノを言わせて、『X-MEN』『ロード・オブ・ザ・リング』のVFXスーパーバイザー、ティム・クロスビーが参加している。

 ただ、カネを注ぎ込んでも大スベリすることもあるのが映画ビジネスの恐ろしいところだが、この作品はちゃんと結果を出している。全世界で4億6100万ドル以上の成績を残して、20年の世界の興行収入ランキングで1位になっているのだ。

⚫︎中国アニメが日本を追い抜かす日
 今年も中国では、朝鮮戦争を題材にした『長津湖』が大人気であるが、一方、中国の人気女性コメディアンが監督した『こんにちは、お母さん』という作品もヒットしている。このような幅広い作品を量産して、評価も受けるようになってきたということは、海外の映画会社を買収していくうちに、国産のコンテンツ制作能力も上がってきた可能性があるのだ。

中国アニメのレベルが上がっている
 さて、そこで話を「アニメ」に戻そう。今の中国アニメはレベルが上がってきて市場も成長しているとはいえ、まだまだ世界で人気とは言えない。一方、日本のアニメは市場も縮小してきたが、世界的に高い評価を受けている作品が多数ある。技術もある。名声のあるクリエイターも多数いる。そのような意味では、中国に負ける要素はない。

 が、そこでもし中国が国策としてアニメ産業を発展させていくため、日本の出版社や漫画原作者、アニメ制作会社に触手を伸ばしてきたらどうか。

 映画産業を発展させるため、中国は地政学的にバチバチやっている米国の映画会社まで買収している。これだけ近くて、経済的にもかなり依存している日本で、同じことをやらない理由が見当たらない。

 そうなれば、これまでお話をしてきたようなメカニズムで、中国のアニメ産業は一気に発展していくだろう。ジブリ作品が足元に及ばないような巨額の資金が投じられ、大作がつくられ市場が活性化する。人材も多く集まるので、若いクリエイターの中から、「中国の宮崎駿」や「中国の庵野秀明」が登場してもおかしくない。

 つまり、これまでは「下」に見ていた中国アニメが、日本のアニメに肩を並べる、いや、追い抜かす時代が来るかもしれないのだ。

⚫︎追い抜かす時代が来るかも
 「ジャパニメーション」という言葉を世界に広めた『機動戦士ガンダム』がハリウッドで映像化される。これまでの『ドラゴンボール』などの実写化失敗から「やめてくれ」という声も多いが、日本が誇るアニメ『ガンダム』の再評価につながると好意的に受け取る方も少なくない。

 が、実はこの作品を手がけているのは、先ほど触れたレジェンダリー・エンターテインメント、中国資本の入った映画会社だ。

 本来、日本のキラーコンテンツなのだから、日本人の手で実写化して、日本人の手で世界で売っていくべきだ。ナショナリズムの観点ではなく、そのように自国で産業化しないと、「次」が続かないのだ。

 帝国データバンクによれば、日本のアニメ制作会社300社の6割は従業員20人以下で、3割が売上高が「1億円未満」だ。中小零細企業だらけで、低賃金労働者が命を削って高いクオリティーを支えている。


⚫︎日本のアニメ制作会社の約6割は従業員20人以下(出典:帝国データバンク)
 本来、世界に売るコンテンツの要なのだから、国策としてこれらの小さな会社を統合・再編して、巨大なアニメ制作企業をつくらないといけない。企業規模が大きくなれば投資も呼び込めるし、賃金も上がる。輸出も促進される。韓国ドラマを世界に売るスタジオドラゴンがまさしくそれだ。

 「日本のアニメは世界に人気」と言いながら、実際に潤っているのは版権ビジネスをしている人たちだけだ。「作り手」にはなかなかその恩恵がない。だからこそ、コンテンツを海外企業に売ってもうけるスタイルではなく、自国内でもしっかりと産業化をする仕組みが必要なのだ。

 白物家電、半導体、造船、鉄鋼、そして邦画……「日本ブランドは揺るがない」「日本の技術は世界一」と叫びながら、次々と追い抜かされた産業と同じにおいが「アニメ」からも漂うと思うのは、気のせいか。



◆窪田順生氏のプロフィール:
 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。

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