世界3位のポテンシャルを持つ日本の地熱発電 普及が進まない事情とは
EnergyShift編集部 より 211112
世界第3位の資源量2,340万kWを持つ地熱大国、日本。だが、導入量は2021年3月時点で61万kWと、10年間で積み上げた量は9万kWにとどまる。
一方、世界では出力変動が少ない地熱発電の導入が進み、この10年で4割増加した。地熱開発に乗り遅れた日本も2030年度までに地熱を148万kWと倍増させる目標を掲げ、巻き返しを狙っている。
⚫︎小泉進次郎氏が地熱加速を先導
日本も、太陽光発電や風力発電に比べ、天候などに左右されず電力の安定供給が期待される地熱発電の開発に本腰を入れはじめた。
今年4月、小泉進次郎環境相(当時)が「地熱開発を加速させるために、自然公園法や温泉法の運用見直しなどの実施に加え、環境省が自ら率先して行動する」と述べ、「地熱開発加速化プラン」を公表した。プランは、規制緩和などにより、10年以上かかる地熱開発までのリードタイムを2年程度短縮し、最短8年とすることが軸。
国内で有望視される地熱資源のうち、約80%が国立公園などの自然公園内に位置する。環境省これまで「地熱開発は、国立・国定公園の自然環境保全上重要な地域では、原則として認めない」という立場を貫いてきた。
⚫︎小泉進次郎氏が地熱加速を先導
日本も、太陽光発電や風力発電に比べ、天候などに左右されず電力の安定供給が期待される地熱発電の開発に本腰を入れはじめた。
今年4月、小泉進次郎環境相(当時)が「地熱開発を加速させるために、自然公園法や温泉法の運用見直しなどの実施に加え、環境省が自ら率先して行動する」と述べ、「地熱開発加速化プラン」を公表した。プランは、規制緩和などにより、10年以上かかる地熱開発までのリードタイムを2年程度短縮し、最短8年とすることが軸。
国内で有望視される地熱資源のうち、約80%が国立公園などの自然公園内に位置する。環境省これまで「地熱開発は、国立・国定公園の自然環境保全上重要な地域では、原則として認めない」という立場を貫いてきた。
しかし、小泉氏は、「この原則を転換する」と述べるなど,プランでは,2030年までに全国の地熱発電施設数(自然公園区域外含む)を現在の約60施設から倍増させる方針を掲げた。
環境省プランを受け、経済産業省も2030年度までに地熱を148万kWまで倍増させると表明。2022年度予算で自然公園などでの資源量調査に前年度比約73%増となる190億円を要求した。
地熱大国と呼ばれながらも、世界に出遅れた日本でも地熱開発の巻き返しがにわかにはじまっている。
⚫︎世界で盛り上がる地熱発電とは
地熱発電は地中から150度を超す熱水を取り出して、この蒸気でタービンを回し発電する。脱炭素の潮流を受け、世界でも電力の安定供給が可能な地熱開発が盛り上がっている。
環境省プランを受け、経済産業省も2030年度までに地熱を148万kWまで倍増させると表明。2022年度予算で自然公園などでの資源量調査に前年度比約73%増となる190億円を要求した。
地熱大国と呼ばれながらも、世界に出遅れた日本でも地熱開発の巻き返しがにわかにはじまっている。
⚫︎世界で盛り上がる地熱発電とは
地熱発電は地中から150度を超す熱水を取り出して、この蒸気でタービンを回し発電する。脱炭素の潮流を受け、世界でも電力の安定供給が可能な地熱開発が盛り上がっている。
IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によると、2020年末での導入量は1,400万kWを超え、この10年で4割増加した。
地熱発電にはシングルフラッシュ、バイナリー、高温岩体の3種類がある。
一般的な地熱発電として,日本でもっとも多く導入されているのがシングルフラッシュだ。
深さ数キロメートルにある火山帯に地下水が染み込んでいくと、地下水はマグマ溜まりで高温に熱され、この熱水を取り出し、蒸気でタービンを回して発電するのが、シングルフラッシュ方式である。もっともシンプルな方式として、日本最大の地熱発電所、九州電力の八丁原地熱発電所(出力5万5,000kW×2)も同方式を採用している。
また、国内で23年ぶりとなる大規模地熱として2019年に稼働したJパワーの山葵沢地熱発電所(出力4万6,199kW)もある。
だが、シングルフラッシュには課題もある。それがスケールと呼ばれる熱水を輸送するパイプに沈着する物質だ。地下水には二酸化ケイ素や炭酸カルシウムなどが含まれており、これら物質がパイプに沈着し続けると目詰まりを起こし、熱水輸送を低下させてしまう。スケールによって輸送量が著しく低下すると、新たな生産井を掘削しなければならない。
⚫︎温泉熱を利用したバイナリー発電
2つ目が100度前後の温泉熱を利用し発電するバイナリー発電。ただ100度では温度が低くタービンを回せないため、非常に気化しやすい代替フロンなどの熱媒を使うことで、蒸気をつくり、タービンを回すしくみとなっている。
地熱発電にはシングルフラッシュ、バイナリー、高温岩体の3種類がある。
一般的な地熱発電として,日本でもっとも多く導入されているのがシングルフラッシュだ。
深さ数キロメートルにある火山帯に地下水が染み込んでいくと、地下水はマグマ溜まりで高温に熱され、この熱水を取り出し、蒸気でタービンを回して発電するのが、シングルフラッシュ方式である。もっともシンプルな方式として、日本最大の地熱発電所、九州電力の八丁原地熱発電所(出力5万5,000kW×2)も同方式を採用している。
また、国内で23年ぶりとなる大規模地熱として2019年に稼働したJパワーの山葵沢地熱発電所(出力4万6,199kW)もある。
だが、シングルフラッシュには課題もある。それがスケールと呼ばれる熱水を輸送するパイプに沈着する物質だ。地下水には二酸化ケイ素や炭酸カルシウムなどが含まれており、これら物質がパイプに沈着し続けると目詰まりを起こし、熱水輸送を低下させてしまう。スケールによって輸送量が著しく低下すると、新たな生産井を掘削しなければならない。
⚫︎温泉熱を利用したバイナリー発電
2つ目が100度前後の温泉熱を利用し発電するバイナリー発電。ただ100度では温度が低くタービンを回せないため、非常に気化しやすい代替フロンなどの熱媒を使うことで、蒸気をつくり、タービンを回すしくみとなっている。
ただし、代替フロンも温室効果ガスの1種であるため、回収・冷却して液体に戻し、再び温泉熱で気化するという循環システムが導入されている。蒸発、冷却と2つの熱サイクルがあることから、バイナリー発電と呼ばれている。
比較的、小規模地熱が多いバイナリーだが、北海道函館市で6,500kWの地熱開発がオリックスによって進められている。
⚫︎海外では地熱スタートアップが登場
3つ目の方式が高温岩体発電。地熱は、地下に熱水がなければ発電できない、だが、熱はある。だったら、地中深くに水を送り込み、高温の蒸気にして取り出し、発電するのがこの高温岩体発電である。
比較的、小規模地熱が多いバイナリーだが、北海道函館市で6,500kWの地熱開発がオリックスによって進められている。
⚫︎海外では地熱スタートアップが登場
3つ目の方式が高温岩体発電。地熱は、地下に熱水がなければ発電できない、だが、熱はある。だったら、地中深くに水を送り込み、高温の蒸気にして取り出し、発電するのがこの高温岩体発電である。
日本でも研究されてきたが長期安定性やコスト面で課題があり、研究が途絶えてしまった。ところが、北米では高温岩体方式を使ったスタートアップが登場している。
カナダのスタートアップ、Eavor Technologiesは、ループしたパイプを地上から地下約3,500メートルに設置し、パイプの中に水を循環させ、地中熱で加熱し、発生した蒸気でタービンを回して発電するという新たな技術を開発した。熱水は冷却され再び地下に送られる。
地下水を使わないため、スケール問題を回避できると注目を集めており、Eavorには石油メジャーの英BPや米シェブロンが投資をしている。
⚫︎水ではなく別の熱媒を使う方式もある。
アメリカのGreenFire Energyの技術は超臨界CO2などの熱媒を地中に送り込み熱を取り出したうえで、蒸気をつくり発電するというもの。GreenFireにはJパワーが投資をしている。
同じくアメリカのFervo Energyも次世代地熱として注目を集めている。Fervoも水を使用しない高温岩体方式の開発を進めており、ビル・ゲイツのBreakthrough Energy Venturesなどから資金提供を受け、Googleと提携し、ネバダ州全域のデータセンターに電力を供給する計画だ。
高温岩体方式は1970年代にアメリカで実験がはじまり、日本でも検証されたが地下深くの岩盤層に人工的に水を循環させる貯留層をつくることが難しく、研究は途絶えた。
カナダのスタートアップ、Eavor Technologiesは、ループしたパイプを地上から地下約3,500メートルに設置し、パイプの中に水を循環させ、地中熱で加熱し、発生した蒸気でタービンを回して発電するという新たな技術を開発した。熱水は冷却され再び地下に送られる。
地下水を使わないため、スケール問題を回避できると注目を集めており、Eavorには石油メジャーの英BPや米シェブロンが投資をしている。
⚫︎水ではなく別の熱媒を使う方式もある。
アメリカのGreenFire Energyの技術は超臨界CO2などの熱媒を地中に送り込み熱を取り出したうえで、蒸気をつくり発電するというもの。GreenFireにはJパワーが投資をしている。
同じくアメリカのFervo Energyも次世代地熱として注目を集めている。Fervoも水を使用しない高温岩体方式の開発を進めており、ビル・ゲイツのBreakthrough Energy Venturesなどから資金提供を受け、Googleと提携し、ネバダ州全域のデータセンターに電力を供給する計画だ。
高温岩体方式は1970年代にアメリカで実験がはじまり、日本でも検証されたが地下深くの岩盤層に人工的に水を循環させる貯留層をつくることが難しく、研究は途絶えた。
しかし、日本とは対照的に、アメリカのスタートアップは次世代地熱として開発を進めており、石油メジャーやビル・ゲイツなどから多額の資金調達に成功している。気がつくと、アメリカが地熱技術を席巻するのではないか。そんな危機感さえ漂っている。
⚫︎日本も地熱開発に本腰 電源構成の1%をまかなう計画
地熱大国と呼ばれた日本は、地熱発電技術で世界をリードしている。
特にシングルフラッシュ方式では、富士電機や東芝、三菱重工の3社で7割近くのシェアをもつ。富士電機は2019年に稼働したインドネシアのムアララボ発電所(出力8万5,000kW)に蒸気タービンなど主要機器を供給するなど、地熱資源量世界第2位のインドネシアにおける蒸気タービンシェアは50%、受注量は世界トップシェアだ。
⚫︎日本も地熱開発に本腰 電源構成の1%をまかなう計画
地熱大国と呼ばれた日本は、地熱発電技術で世界をリードしている。
特にシングルフラッシュ方式では、富士電機や東芝、三菱重工の3社で7割近くのシェアをもつ。富士電機は2019年に稼働したインドネシアのムアララボ発電所(出力8万5,000kW)に蒸気タービンなど主要機器を供給するなど、地熱資源量世界第2位のインドネシアにおける蒸気タービンシェアは50%、受注量は世界トップシェアだ。
さらに富士電機や三菱重工などは、バイナリー方式でのシェア拡大も目指している。
⚫︎日本政府も、地熱開発に本腰を入れはじめた。
今年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画において、2030年度までに地熱を倍増させ、発電量を2019年度の0.3%から1%に引き上げる目標を掲げた。
日本地熱協会によると、現在、資源調査中の案件は83ヶ所あり、そのうち15ヶ所、合計出力12万7,000kWが開発中だが、148万kWという目標にはほど遠い状況だ。実現に向けては、地熱の新規地点開発が欠かせない。
経産省は環境省と連携し、2021年度から国立公園などの資源調査を本格化させつつある。地点調査に関しては、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が実施し、2022年度までに30ヶ所調査する予定だ。
日本地熱協会は「JOGMECによる先導的調査など必要な方策が実現すれば、2030年ごろには140万kWの導入が見込まれる」と述べるが、あくまで方策が実現できればの話だ。
⚫︎ポテンシャルが高い地熱発電が日本で普及が進まない理由・・・
地熱はFIT制度にそぐわない、新たな支援政策が必要
地熱拡大に向けた課題のひとつが開発リスクだ。
地熱は常に資源がないなどの掘削失敗リスクを伴う。JOGMECによると、初期調査段階でも数百メートルから2,000メートル程度の坑井掘削を行う必要があり、掘削コストは数千万円から数億円にのぼる。
⚫︎ポテンシャルが高い地熱発電が日本で普及が進まない理由・・・
地熱はFIT制度にそぐわない、新たな支援政策が必要
地熱拡大に向けた課題のひとつが開発リスクだ。
地熱は常に資源がないなどの掘削失敗リスクを伴う。JOGMECによると、初期調査段階でも数百メートルから2,000メートル程度の坑井掘削を行う必要があり、掘削コストは数千万円から数億円にのぼる。
また、開発の初期段階における掘削成功率は3割程度にとどまる。掘削失敗が重なると、資源があっても事業化できない事態にも陥る。開発リスクを低減させるためにも、JOGMECが担う資源調査は重要度が増している。
開発リードタイムの短縮も不可欠だ。日本地熱協会は、規制関係は内閣府規制改革タスクフォースにおける議論に沿って、関係省庁で対応が進むが、実効性があるものになるかどうかは、注視が必要だという。
また、地熱は山間部が多く、立地条件上厳しいため、国の助成拡大も欠かせない。
10月29日に開かれた調達価格等算定委員会では、「地熱発電は掘ってみないとわからないというところがあり、投資リスクが非常に大きい。ある意味、博打だ」といった意見があがった。
松村敏弘東京大学社会科学研究所教授は、「地熱は固定価格買い取り制度(FIT)の支援だけでは限界なのではないか。FITは開発が成功したときに、収益を底上げすることは可能だが、開発が失敗したら収益はゼロ。
開発リードタイムの短縮も不可欠だ。日本地熱協会は、規制関係は内閣府規制改革タスクフォースにおける議論に沿って、関係省庁で対応が進むが、実効性があるものになるかどうかは、注視が必要だという。
また、地熱は山間部が多く、立地条件上厳しいため、国の助成拡大も欠かせない。
10月29日に開かれた調達価格等算定委員会では、「地熱発電は掘ってみないとわからないというところがあり、投資リスクが非常に大きい。ある意味、博打だ」といった意見があがった。
松村敏弘東京大学社会科学研究所教授は、「地熱は固定価格買い取り制度(FIT)の支援だけでは限界なのではないか。FITは開発が成功したときに、収益を底上げすることは可能だが、開発が失敗したら収益はゼロ。
つまり、リスクを減らすことができない制度だ。FIT以外の支援政策に移行する局面を迎えたのではないか」と発言した。
地熱は天候や昼夜を問わず、発電できる重要な電源だ。しかも、日本は世界第3位の資源国でもある。だが、過去10年の状況が示すとおり、開発リスクの低減に向けた新たな支援がなければ、2030年度目標の達成は危うい。
地熱は天候や昼夜を問わず、発電できる重要な電源だ。しかも、日本は世界第3位の資源国でもある。だが、過去10年の状況が示すとおり、開発リスクの低減に向けた新たな支援がなければ、2030年度目標の達成は危うい。
日本の地熱の勝負はあと9年で決まるのかもしれない。
(Research:本橋恵一)