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映画『東京家族』について

映画 『東京家族』 (その28)  音楽(3)  「平均律」について

2013年06月26日 | 映画『東京家族』
 この稿を書くために、『音律と音階の科学』(講談社ブルーバックス 2007.9.20 第1刷発行)という本を、インターネットで買った。
 それが配送されて来て、著者の小方厚氏の経歴をみて驚いた。


 
 小方厚  一九四一年東京生れ。名古屋大学プラズマ研究所(現・核融合科学研究所)、日本原子力研究所(現・日本原子力開発機構)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、広島大学を経て、KEK名誉教授。(以下略)




 核融合科学研究所も、J-PARCを含めたKEKも、私が現在、個人的に全面対決している機関だからである(笑)。
 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉があるが、坊主は坊主、袈裟は袈裟である。この本は「音楽の科学」について、とてもわかりやすく説明されている。
 特に、知らなかった事を教えてくれる本は素晴らしい。
 ヘルムホルツの音楽論!『On the Sensation of Tone』 H.Helmholtz(英訳)や、ウィリアム・セサレスという教授の、「オクターブを区切りとしない音律」の本(『Tuning, Timbre, Spectrum, Scale』W.A.Sethares)は、ぜひ読んでみたい。



 さて、この稿では、小方氏のこの本を参考にして、前回ふれた「平均律」について、整理し直してみたい。



 
 私は以前、ギターをすこし弾いていたことがある。
 最初の関門は、弦のチューニング(調律)だ。
 教習本には、音叉の音と、ギターの第5弦の開放弦の音は、同じ「A」音であるから、まずそのふたつを合わせてから、それを基準にして、他の弦を決められた音程に調律していく、と書いてあった。
 しかし、私はどうしても、音叉の音とギターの第5弦は、同じ音とは思えなかった。

 音叉の音は、440Hzである。
 Hzとはヘルツと読み、周波数の単位である。周波数とは振動数であり、両者ともfrequency である。振動数とは“時間的な周期現象の各状態について同じ状態が毎秒繰り返される回数をいう.” 『岩波理化学辞典 第5版』
 ちなみに、“波, 電気振動などの場合は周波数ともいう.” 『同上』
 
 ということは、音は空気の振動であるから、440Hzの音叉の音は、音が空気を1秒間に440回波打つというイメージでいいと思う。
 で、この音とギターの第5弦が同じ音だというのである。ギターの第5弦は、なにを隠そう110Hzなのである(笑)。
 この「オクターブは同じ音」という人間の心理については、もしかしたらセサレス教授の本に書いてあるかもしれないので、今から読むのが楽しみである。
 しかし私は、ギターの調弦をしなければならない。どうしたか? それは歌ったのである(笑)。
 音叉の音は高くて、通常の私の声では出ない。そこで無理に裏声で音叉音と同音を出そうとせずに、普通に出る声で同じ音を探っていくと、220Hzの「A」がみつかった。それは、ギターの第3弦の2フレットの音である。音叉の音を聴きながら220Hzの「A」をさらに1オクターブ自然に下げると、目的の110Hzの「A」、第5弦の開放弦の音が得られる。
 ここまで来れば、各弦を、それぞれの音程に合わせればいいだけである。

 
 しばらく練習しているうちに、アランフェス協奏曲が弾けるようになった。

 というのはもちろん大嘘で、コード(和音)を掻き鳴らしながら、吉田拓郎を歌っていたぐらいである(笑)。



 それはさておき、1オクターブとは、振動数が半分(または倍)という意味である。
 
 440÷2=220
 220÷2=110


 では、1オクターブをどうやって12音に「平均律」では分割するのであろうか?


 “平均律とは、オクターブを 1:2 の純正振動数比にとり、それを12の等しい半音に分割することを基とする。” 『バッハ平均律クラヴィーアⅠ』 市田儀一郎

 “まずこの『平均律』という名前なんですけれども、これは要するにオクターブを平均に12等分した調律のしかたなんで,” 『バッハ平均律の研究1』矢代秋雄/小林仁 (小林氏の発言)

 “オクターブを12の等しい半音に分割するこの方法は,” 『事典世界音楽の本』高松晃子氏の記事



 手元にある本から、関係箇所を引いてみた。いずれの記事も、平均律とは1オクターブを「等しく」12に分ける事だとある。

 では、こういう事だろうか?
 220Hzと440Hzの差は、220Hzである。
 220÷12=18.3333…
 だから、A音は220Hz、A♯は約238.3333、B音は約256.6666 ~

 これは違うのである。ここで言う「等しい」とは、等差ではなくて、等比のことだ。
 小方氏の著書の優れたところは、ここでマリンバの写真を出して説明するような所だ。
 押入れにマイマリンバがある方は、出して確認してほしい(笑)。
 ネットで検索されても結構である。マリンバは、外から共鳴管が見える構造になっているが、その並び方は直線ではなく、曲線を描いている。これが、12音の並び方が等差数列でなく、等比数列である事の、目に見える例だ。

 A音を220Hzとすると、実際のA♯は約233.0819Hzであり、その半音上のB音は約246.9417Hzである。
 この数字はどこから来たのか?
 
 233.0819÷220.0000=1.0595

 246.9417÷233.0819=1.0595


 これが等「比」数列の意味であるが、これがどこから来たのかについて、おもしろい説が、前出の『事典世界音楽の本』の、杜こなて氏の記事にあった。(「4.1.1.1 調性音楽の解体」)
 
 “明代の西暦1596年, 朱載堉によって平均律を産み出す数字(1.0594631…)が世に出されたとき, 中国には既に複利の感覚が存在していた. 西アジアからオーケストラの楽器のあらかたを導入したヨーロッパは, 音律を中国から移入し, 近代を通して独自な洗練を発達させていく. 近代西洋音楽自体もまた, 世界音楽の息吹によって作り上げられた文化遺産にほかならない.”

 と、断言されている。論旨は、文明の大転換の「科学革命」→ ニュートン,ライプニッツ→ ライプニッツといえば微積分や複利計算→ ライプニッツは中国学者でもあった→ 中国人は(利に聡いから)複利感覚が既に存在していた→ ライプニッツの業績は中国からきた?→ そして引用箇所へ繋がる。

 断言しているので、定説なのであろうか? 巻末にそれらしい参考文献が一冊あるが、この問題には私はあまり興味が湧かない。
 複利、西洋、で連想されるのは、私にとってはやはり、ユダヤ人である。これは西洋史的にも非常に微妙な問題であるが、すこしづつ考えていこうと思う。




 今日は最後に、「平均律」を表にしてみた。数字は220Hzを基準の始点にした1オクターブである。それ以降の数字は全て約を省略した。なぜなら、1.0594631…が無限小数だからである。



         


 A        220.0000Hz
 A♯=B♭    233.0819 
 B        246.9417
 C        261.6256
 C♯=D♭    277.1827
 D        293.6648
 D♯=E♭    311.1270
 E        329.6276
 F        349.2283
 F♯=G♭    369.9945
 G        391.9955
 G♯=A♭    415.3048
 
 A        440.0001




 
 


 
 

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