トランプ氏有罪で「テフロン加工」の異名に傷…落選濃厚?禁錮刑ならどこに収監?(ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース
トランプ氏有罪で「テフロン加工」の異名に傷…落選濃厚?禁錮刑ならどこに収監?
6/5(水) 4:02配信
6/5(水) 4:02配信
ダイヤモンド・オンライン
Photo:Luke Hales/gettyimages
● トランプ氏に有罪評決 その最大の要因は?
5月30日、ニューヨーク州マンハッタン地区の裁判所で米国の歴史上、驚くべきことが起こった。2016年の大統領選挙の前、不倫相手に口止め料を支払ったことを隠すために業務記録を改ざんし、都合の悪い情報を有権者から隠したとして34件の重罪に問われていたトランプ前大統領に有罪評決が下されたのだ。大統領経験者が刑事事件で有罪になるのは初めてだが、なぜこのような評決になったのか。
かつてトランプ氏の顧問弁護士を10年以上務めたマイケル・コーエン氏は検察側の最重要証人として、非常に詳細で説得力のある証言を行った。
コーエン氏は、2016年の大統領選に影響しないように不倫相手に口止め料を支払うようにトランプ氏から指示を受けたこと、それを弁護士費用としてコーエン氏に払い戻す計画についてトランプ氏と直接話し合ったことなどをはっきり述べた。またその時、口止め料を弁護士費用として支払ったように不正に処理されたとされる小切手や請求書が、検察側から陪審員に示された。
コーエン氏は以前、「トランプ氏のためなら銃弾も受ける」と発言し話題になった。実際、トランプ氏のために口止め料を支払ったり(選挙資金法違反)、連邦議会で偽証したり(偽証罪)して有罪となり、禁錮3年の実刑を受けて13カ月半服役した。
だが、その後はトランプ氏と決別し、「私が罪を犯したのはトランプ氏のせいだ」とテレビの政治討論番組やSNS、著書などで、元ボスを激しく批判するようになった。
トランプ氏の弁護団は反対尋問でこの点に焦点をあて、「コーエン氏はトランプ氏に執着し、復讐しようとしている」と批判し、動機や信頼性に疑問を呈した。そして、コーエン氏のポッドキャスト(ネットで配信されるトーク番組)での、「私の家族に対してやったことのお返しに、この男(トランプ氏)にはどん底まで腐ってほしい」という怒りに満ちた発言の音声を法廷内で再生したりした。
これに対し、コーエン氏は終始ゆったりして冷静に対応し、弁護側の挑発に乗って感情的になることはなかった。つまり、「法廷でコーエン氏の怒りを爆発させて信頼性を貶める」という弁護側の戦略は成功しなかった。
裁判では他に検察側の証人として、トランプ氏の元不倫相手のポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏、トランプ氏と結託して同氏の不祥事に関する情報を買い取ってもみ消したとされるタブロイド紙の元発行人のデビッド・ペッカー氏などが説得力のある証言を行った。一方、弁護側は、当初は法廷で証言する意向を示していたトランプ氏が結局、証言台に立つことなく、最終弁論を終えた。
そして7週間に及んだ「口止め料裁判」は結審し、約200人のニューヨーク市民から選ばれた12人の陪審員がトランプ氏に有罪評決を下した。
● 「テフロン加工候補者」の 神通力もいよいよ限界か
今後の大きな焦点は、有罪評決が11月の大統領選にどう影響するかである。
トランプ氏は今回の事件の他にも、2020年大統領選の結果を覆そうと支持者らを煽って連邦議会議事堂を襲撃させた件、政府の機密文書を不適切に持ち出して自宅に保管した件、ジョージア州の大統領選結果を覆そうと選挙管理責任者を脅迫した件の3つの刑事事件で起訴されている。
しかし、トランプ氏は起訴されるたびに、「捜査は不正に仕組まれたものだ」「自分は政治的迫害の犠牲者だ」などとバイデン政権と民主党を激しく非難し、人々の同情を集めて支持率を上げてきた。そのため、同氏の刑事裁判は有権者の投票にほとんど影響しないのではないかと思われていたが、実はそうではないことが最近の世論調査の結果で示されるようになった。
たとえば、ABCニュース/イプソスが5月6日に発表した世論調査では、トランプ氏支持者の20%が「トランプ氏が重罪で有罪判決を受けたら、支持を再考するか(16%)、撤回する(4%)」と回答した。
他にも複数の世論調査が行われているがどれも似たような結果で、「トランプ氏が有罪になれば、投票しない」という有権者が10~20%くらいいることが示されている。
特にトランプ陣営にとって懸念されるのは、アリゾナ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアなどの激戦州7州における有権者の投票行動ではないかと思われる。ブルームバーグ/モーニング・コンサルトが1月31日に発表した世論調査では、激戦州7州の有権者の53%が「トランプ氏が有罪となったら、大統領選で同氏に投票しないだろう」と回答しているのだ。
これら53%の有権者には、共和党予備選でトランプ氏と指名を争ったニッキー・ヘイリー氏に投票した共和党穏健派や無党派層の人たちが多く含まれていると思われる。
今回の大統領選も2016年や2020年の時と同様に大接戦となっているため、激戦州でのわずかな数千票、数万票の差によって勝者が決まると予想されている。だからこそトランプ氏にとってはわずかな票の取りこぼしも許されないわけだが、この有罪評決はトランプ陣営に大きな打撃となる可能性がある。
トランプ氏は有罪評決を受けた後、裁判所の外でテレビカメラに向かって、「これは仕組まれた恥ずべき裁判だ。本当の評決は大統領選の11月5日に国民によって下されるだろう」と述べた。
しかし、有罪判決を下したのは民主党やバイデン政権でもなければ、“ディープステート”(闇の政府)でもなく、ニューヨークに住む一般市民の中から選ばれた人たち(陪審員)であることを、トランプ氏は認識すべきであろう。
トランプ氏はこれまでどんな不祥事やスキャンダルに見舞われても打撃を受けるどころか、それを武器にして支持率を上げたり、寄付金を増やしたりしてきた。そのため、何があっても傷つかない丈夫なフライパンのコーティング素材に例えて、「テフロン加工候補者」と呼ばれることもあった。しかし、その異名が持つ強力な「神通力」にも限界があることが浮き彫りになってきた。
今後の大きな焦点は、有罪評決が11月の大統領選にどう影響するかである。
トランプ氏は今回の事件の他にも、2020年大統領選の結果を覆そうと支持者らを煽って連邦議会議事堂を襲撃させた件、政府の機密文書を不適切に持ち出して自宅に保管した件、ジョージア州の大統領選結果を覆そうと選挙管理責任者を脅迫した件の3つの刑事事件で起訴されている。
しかし、トランプ氏は起訴されるたびに、「捜査は不正に仕組まれたものだ」「自分は政治的迫害の犠牲者だ」などとバイデン政権と民主党を激しく非難し、人々の同情を集めて支持率を上げてきた。そのため、同氏の刑事裁判は有権者の投票にほとんど影響しないのではないかと思われていたが、実はそうではないことが最近の世論調査の結果で示されるようになった。
たとえば、ABCニュース/イプソスが5月6日に発表した世論調査では、トランプ氏支持者の20%が「トランプ氏が重罪で有罪判決を受けたら、支持を再考するか(16%)、撤回する(4%)」と回答した。
他にも複数の世論調査が行われているがどれも似たような結果で、「トランプ氏が有罪になれば、投票しない」という有権者が10~20%くらいいることが示されている。
特にトランプ陣営にとって懸念されるのは、アリゾナ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアなどの激戦州7州における有権者の投票行動ではないかと思われる。ブルームバーグ/モーニング・コンサルトが1月31日に発表した世論調査では、激戦州7州の有権者の53%が「トランプ氏が有罪となったら、大統領選で同氏に投票しないだろう」と回答しているのだ。
これら53%の有権者には、共和党予備選でトランプ氏と指名を争ったニッキー・ヘイリー氏に投票した共和党穏健派や無党派層の人たちが多く含まれていると思われる。
今回の大統領選も2016年や2020年の時と同様に大接戦となっているため、激戦州でのわずかな数千票、数万票の差によって勝者が決まると予想されている。だからこそトランプ氏にとってはわずかな票の取りこぼしも許されないわけだが、この有罪評決はトランプ陣営に大きな打撃となる可能性がある。
トランプ氏は有罪評決を受けた後、裁判所の外でテレビカメラに向かって、「これは仕組まれた恥ずべき裁判だ。本当の評決は大統領選の11月5日に国民によって下されるだろう」と述べた。
しかし、有罪判決を下したのは民主党やバイデン政権でもなければ、“ディープステート”(闇の政府)でもなく、ニューヨークに住む一般市民の中から選ばれた人たち(陪審員)であることを、トランプ氏は認識すべきであろう。
トランプ氏はこれまでどんな不祥事やスキャンダルに見舞われても打撃を受けるどころか、それを武器にして支持率を上げたり、寄付金を増やしたりしてきた。そのため、何があっても傷つかない丈夫なフライパンのコーティング素材に例えて、「テフロン加工候補者」と呼ばれることもあった。しかし、その異名が持つ強力な「神通力」にも限界があることが浮き彫りになってきた。
● ニューヨークの刑務所に 収監される可能性も
もう1つの注目すべき点は、トランプ氏が刑務所に収監されるかどうかである。
一般的に業務記録改ざん事件で禁錮刑が科せられることは少ないようだが、トランプ氏の場合は、初犯であっても34件の重罪に問われるなど罪状が重いため、禁錮刑の可能性はあるという。
オバマ政権で倫理と政府改革担当の特別顧問などを務めたノーマン・アイゼン弁護士は、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中でこう述べている。
「トランプ氏はありふれた業務記録の改ざんではなく、米国の歴史を変えたかもしれない34件の重罪で起訴されている。自身の選挙に害を与える可能性のある重要な情報を有権者から隠すために口止め料を支払って業務記録を改ざんした可能性がある、と検察側は主張している。(中略) 加えてトランプ氏はこれまでのところ、この事件で主張されている出来事について反省していない。被告人の反省の欠如は量刑判断においてマイナスとなる。これらすべてが示唆しているのは、トランプ氏の禁錮刑は元大統領としては確かではないもののあり得ない話ではないということである」(4月18日)。
実際にアイゼン氏が業務記録改ざん事件の裁判に関する最新データを分析調査したところ、裁判所が量刑を言い渡した事件のおよそ10件に1件の割合で禁錮刑が科せられているという。
トランプ氏の量刑判決は7月11日に言い渡されることになっているが、担当のフアン・マーチャン判事はこれまで、「トランプ氏が大統領選に立候補し、次の大統領になる可能性は十分にあることは承知している。そのため、禁錮刑は最後の手段にしたい」と話す一方で、「それが適切であれば、禁錮刑も検討する」とも述べている。
トランプ氏はこの事件に対する反省の態度をまったく見せていないどころか、裁判の証人や検察官、裁判所の職員らを攻撃し、担当のマーチャン判事やブラッグ検事への批判も繰り返している。量刑判断の審理には、これらの点も考慮されるということである。
それではトランプ氏が禁錮刑を言い渡されるとしたら、どこの刑務所にどのくらいの期間収監されることになるのか。
アイゼン氏によれば、最も可能性の高いのは6カ月だが、場合によっては最長4年の刑に処せられる可能性はあるという。そして1年以内であれば、ニューヨークのマンハッタン東海岸のイーストリバーのライカーズ島にある短期禁錮刑受刑者用の刑務所に収監されるだろうという。
米国の憲法は刑事事件の重犯罪者が大統領選に立候補することを禁じていないので、トランプ氏はこのまま選挙戦を続け、当選して大統領に就任することもできる。しかし、刑務所の中から大統領の職務を遂行するのは、現実的に考えて、さまざまな問題や不都合が生じることが予想される。法律専門家によれば、その場合は一定の期間、毎週末だけ服役することも可能ではないかという。
いずれにしても、大統領選に立候補しているトランプ氏が刑事事件で有罪評決を受けたことで、米国の司法制度や政治システムはこれまで経験したことのない未知の領域に突入する可能性が出てきたのである。
(ジャーナリスト 矢部 武)
もう1つの注目すべき点は、トランプ氏が刑務所に収監されるかどうかである。
一般的に業務記録改ざん事件で禁錮刑が科せられることは少ないようだが、トランプ氏の場合は、初犯であっても34件の重罪に問われるなど罪状が重いため、禁錮刑の可能性はあるという。
オバマ政権で倫理と政府改革担当の特別顧問などを務めたノーマン・アイゼン弁護士は、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中でこう述べている。
「トランプ氏はありふれた業務記録の改ざんではなく、米国の歴史を変えたかもしれない34件の重罪で起訴されている。自身の選挙に害を与える可能性のある重要な情報を有権者から隠すために口止め料を支払って業務記録を改ざんした可能性がある、と検察側は主張している。(中略) 加えてトランプ氏はこれまでのところ、この事件で主張されている出来事について反省していない。被告人の反省の欠如は量刑判断においてマイナスとなる。これらすべてが示唆しているのは、トランプ氏の禁錮刑は元大統領としては確かではないもののあり得ない話ではないということである」(4月18日)。
実際にアイゼン氏が業務記録改ざん事件の裁判に関する最新データを分析調査したところ、裁判所が量刑を言い渡した事件のおよそ10件に1件の割合で禁錮刑が科せられているという。
トランプ氏の量刑判決は7月11日に言い渡されることになっているが、担当のフアン・マーチャン判事はこれまで、「トランプ氏が大統領選に立候補し、次の大統領になる可能性は十分にあることは承知している。そのため、禁錮刑は最後の手段にしたい」と話す一方で、「それが適切であれば、禁錮刑も検討する」とも述べている。
トランプ氏はこの事件に対する反省の態度をまったく見せていないどころか、裁判の証人や検察官、裁判所の職員らを攻撃し、担当のマーチャン判事やブラッグ検事への批判も繰り返している。量刑判断の審理には、これらの点も考慮されるということである。
それではトランプ氏が禁錮刑を言い渡されるとしたら、どこの刑務所にどのくらいの期間収監されることになるのか。
アイゼン氏によれば、最も可能性の高いのは6カ月だが、場合によっては最長4年の刑に処せられる可能性はあるという。そして1年以内であれば、ニューヨークのマンハッタン東海岸のイーストリバーのライカーズ島にある短期禁錮刑受刑者用の刑務所に収監されるだろうという。
米国の憲法は刑事事件の重犯罪者が大統領選に立候補することを禁じていないので、トランプ氏はこのまま選挙戦を続け、当選して大統領に就任することもできる。しかし、刑務所の中から大統領の職務を遂行するのは、現実的に考えて、さまざまな問題や不都合が生じることが予想される。法律専門家によれば、その場合は一定の期間、毎週末だけ服役することも可能ではないかという。
いずれにしても、大統領選に立候補しているトランプ氏が刑事事件で有罪評決を受けたことで、米国の司法制度や政治システムはこれまで経験したことのない未知の領域に突入する可能性が出てきたのである。
(ジャーナリスト 矢部 武)