(「河北新報」令和5年5月3日付記事より引用)
障害者支援や看護学の大学教授らでつくる研究班が、国の科学研究費で知的障害者にも分かりやすい母子健康手帳や育児支援冊子の作成を進めている。知的障害者の出産・子育てを巡っては、北海道のグループホームで入居者が不妊手術や処置を受けていた問題が昨年、明らかになり、育児を支援する仕組みが整っていないことが背景に指摘されている。研究班は母子手帳については来年、自治体の窓口などで通常の手帳と合わせて当事者に配られるようにしたい考えだ。
研究班は、びわこ学院大の藤澤和子教授(特別支援教育)と、西南女学院大の杉浦絹子教授(看護学)の2人。2021年度から事業に取り組んでいる。
通常の母子手帳は内容や項目を国が定めており、「分かりやすい版」は副読本として使ってもらう想定。研究班の調査では、通常版は知的障害者には理解が難し
い用語が多くあった。平易な言葉に置き換えたり、視覚的に分かりやすいようイラストを挿入したりする考えだ。
24年から希望する自治体に送るほか、インターネットでダウンロードできるようにする予定。母子保健や福祉の専門職を対象に活用方法も示す。
このほか、知的障害がある親向けに「母乳育児」「赤ちゃんの泣きと眠り」に関する分かりやすい冊子も作り、今年中の配布を目指す。
両教授は20年には、当事者夫婦を対象に「赤ちゃんを産んだ後の避妊」に関する解説漫画を発行。知的障害がある妊産婦への対応をまとめた保健医療職向
けハンドブックも製作した。
両教授は「知的障害やボーダーの人が妊娠・出産する例は既にあり、現場ではニーズがあるのに、対応が追い付いていない。当事者が自らの意思で主体的に子どもを産み育てることを支援したい」としている。
点字や外国語版あるのに…
「社会全体考え至らず」
母子健康手帳を巡っては、日本に住む外国人には外国語版が、視覚障害者には点字版が用意されているが、知的障害者向けの「分かりやすい版」はない。障害者差別解消法で国や自治体など公的機関には「合理的配慮」の提供が義務付けられているにもかかわらず、妊娠・出産の基本的な支援ツールである母子手帳でも、知的障害者は視野の外に置かれている形だ。
母子手帳の外国語版は、2019年度に厚生労働省が調査研究事業の一環で10カ国語分を作成。点字版は旧厚生省が1993年に自治体に配布したほか、民間団体も発行している。
国や自治体の情報提供で、知的障害者への配慮としては、漢字にルビを振ったり難しい単語を平易な言葉に置き換えたりした分かりやすい版を作る取り組みが一部で行われている。ただ、障害福祉などの分野に限られているのが実情だ。
厚労省は時代に合わせて母子手帳の内容を見直すため、昨年、有識者検討会を設置。検討会の報告書では「多言語版、低出生体重児向けの成長曲線の充実など、多様性に配慮した分かりやすい情報提供」との文言が盛り込まれたが、知的障害がある親に関する直接の言及はなかった。
母子保健は4月に所管がこども家庭庁に移ったが、分かりやすい版の作成を進める大学教授らの研究班が使っている科学研究費は文部科学省の所管。同庁の担当者は取り組みを把握しておらず、「活用するかどうかは今後、検討する」という。
知的障害者やその親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「知的障害がある人が子どもを持つということに、社会全体として考えが至っていない。母子手帳に限らず、育児支援に関する情報が知的障害の親にも届くよう求めていきたい」と話している。
障害者支援や看護学の大学教授らでつくる研究班が、国の科学研究費で知的障害者にも分かりやすい母子健康手帳や育児支援冊子の作成を進めている。知的障害者の出産・子育てを巡っては、北海道のグループホームで入居者が不妊手術や処置を受けていた問題が昨年、明らかになり、育児を支援する仕組みが整っていないことが背景に指摘されている。研究班は母子手帳については来年、自治体の窓口などで通常の手帳と合わせて当事者に配られるようにしたい考えだ。
研究班は、びわこ学院大の藤澤和子教授(特別支援教育)と、西南女学院大の杉浦絹子教授(看護学)の2人。2021年度から事業に取り組んでいる。
通常の母子手帳は内容や項目を国が定めており、「分かりやすい版」は副読本として使ってもらう想定。研究班の調査では、通常版は知的障害者には理解が難し
い用語が多くあった。平易な言葉に置き換えたり、視覚的に分かりやすいようイラストを挿入したりする考えだ。
24年から希望する自治体に送るほか、インターネットでダウンロードできるようにする予定。母子保健や福祉の専門職を対象に活用方法も示す。
このほか、知的障害がある親向けに「母乳育児」「赤ちゃんの泣きと眠り」に関する分かりやすい冊子も作り、今年中の配布を目指す。
両教授は20年には、当事者夫婦を対象に「赤ちゃんを産んだ後の避妊」に関する解説漫画を発行。知的障害がある妊産婦への対応をまとめた保健医療職向
けハンドブックも製作した。
両教授は「知的障害やボーダーの人が妊娠・出産する例は既にあり、現場ではニーズがあるのに、対応が追い付いていない。当事者が自らの意思で主体的に子どもを産み育てることを支援したい」としている。
点字や外国語版あるのに…
「社会全体考え至らず」
母子健康手帳を巡っては、日本に住む外国人には外国語版が、視覚障害者には点字版が用意されているが、知的障害者向けの「分かりやすい版」はない。障害者差別解消法で国や自治体など公的機関には「合理的配慮」の提供が義務付けられているにもかかわらず、妊娠・出産の基本的な支援ツールである母子手帳でも、知的障害者は視野の外に置かれている形だ。
母子手帳の外国語版は、2019年度に厚生労働省が調査研究事業の一環で10カ国語分を作成。点字版は旧厚生省が1993年に自治体に配布したほか、民間団体も発行している。
国や自治体の情報提供で、知的障害者への配慮としては、漢字にルビを振ったり難しい単語を平易な言葉に置き換えたりした分かりやすい版を作る取り組みが一部で行われている。ただ、障害福祉などの分野に限られているのが実情だ。
厚労省は時代に合わせて母子手帳の内容を見直すため、昨年、有識者検討会を設置。検討会の報告書では「多言語版、低出生体重児向けの成長曲線の充実など、多様性に配慮した分かりやすい情報提供」との文言が盛り込まれたが、知的障害がある親に関する直接の言及はなかった。
母子保健は4月に所管がこども家庭庁に移ったが、分かりやすい版の作成を進める大学教授らの研究班が使っている科学研究費は文部科学省の所管。同庁の担当者は取り組みを把握しておらず、「活用するかどうかは今後、検討する」という。
知的障害者やその親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「知的障害がある人が子どもを持つということに、社会全体として考えが至っていない。母子手帳に限らず、育児支援に関する情報が知的障害の親にも届くよう求めていきたい」と話している。