紀元前8世紀付近に「シリウス」に関する何らかのイベントがあった可能性が考えられるのは、その「シリウス」という名称が通常の星と違いアラビア起源ではなくギリシャ起源であること、それは即座にギリシャの「暗黒時代」と呼ばれる「無記録時代」を過ぎて「ポリス」が形成され始める「紀元前8世紀付近」が相当すると思われること、それは古代ギリシャの天文学者である「ヘシオドス」がその記述の中でシリウスをそれまでの「ドッグスター」などから変えて「シリウス」と呼び始めるのが紀元前8世紀以降であること(「ホメロス」などは「シリウス」について「秋の星」(Autumnnstar)あるいは「オリオンの犬」(Orion's dog)とだけ記していますが、「ヘシオドス」は彼の生きた時代より一〇〇年前である「紀元前八世紀」のことを記した時点以降「Serios」(シリウス)つまり「燃える星」という形容をするようになります。)、その「シリウス」は「光り輝く」という意味であり、その時点で「増光」があったことが示唆されること、あるいはバビロンで作られていたカレンダーの起点がその観測データから解析して紀元前8世紀付近と考えられること(カレンダーを作るためのデータベースといえる「日記」が確認されており、その最古の記録が「紀元前六五二年」とされていますが、それをもとに作られた「カレンダー」の起点は「紀元前七四三年」であることが算定されています)、実際にはこの年次の至近の時期にデータの蓄積が開始されたらしいことが推定されています。その時点でそれまで太陽と月と「金星」(Venus)であった主な観測対象が、太陽と月と「シリウス」に変えられたらしいこと、そこで初めて太陽と月の運行の整合を図るために19年に7回という「閏月」がはじめられたこと、その「19年」という期間の起点が「ヘリアカルライジング」つまり「シリウス」と太陽が同時に上る時点にあったこと、つまり「シリウス」の運行を起点としてカレンダーが作られるようになったこと等々、ロビガリアの起源等と合わせて考えると、この紀元前八世紀が「シリウス」と人々にとってエポックメーキングな時代であり、「シリウス」が関心を持たれ、人々の生活に深く関わるようになったタイミングであったことが知られます。
そもそもカレンダーは原初的には農事暦であり、季節の変化に応じて種まきや収穫時期などを予測する必要があったことから作られたとみるべきですが、バビロンのカレンダーでは太陽年つまり季節変化と太陰暦の日数の差に深く関心を示していなかったものとみられます。1太陽年は365日ほどであるのに対して月の運行から算出した1太陰年は354日ほどですから、10日ほど違うこととなり3年もたてば1か月ずれることとなります。このままでは季節と「月(Month)」とが乖離するはずであり、それでは「不便」であるはずですが、もし常夏というような基本的に温暖な気候が年中続いていたとすると、その乖離に注意を深く払わなかったとしても不思議ではないこととなるでしょう。しかし、気候が寒冷化すると季節変化が明確になり、その場合適切な時期を選ばなければ収穫は望めないこととなります。そのような気候の変化と太陽年を基準としたカレンダーの作成は軌を一にするものと思われ、しかもその変化に「シリウス」が関わっていることとなるのですから、必然的にその気候変化の主たる要因は「シリウス」の変化にあると人々が考えていたということにならざるを得ないこととなります。
またこの気候変動(寒冷化)が「マウンダー極小期」(1645年から1715年の間太陽黒点数が著しく減少した期間)のような明らかな太陽活動に起因するものとは異なると考えられるのが、その「シリウス」に対する人々の関心の高さです。例えばその「マウンダー極小期」をはじめ12世紀から18世紀付近まで太陽活動が低下したためと考えられる気候変動が多くありましたが、その当時起きたとみられるのが「天道信仰」です。これは明らかな太陽信仰であり、日輪信仰です。日本では「仏教」も「神道」もあった中で、「天道信仰」がそれらに融合しているようで実際には微妙に「別」に行われていたように見られるわけですが、すでに述べたように「祭る」という行為の対象は「邪悪」をもたらすものであるはずであり、この場合その気候変動の主因として(当然「シリウス」ではなく)「太陽」が最も疑われたことを示すものですが、言い換えると太陽以外に目立った天変地異が見当たらなかったものであり、人々の目はいやおうなく「太陽」に注がれざるを得ないものであったとみられるわけです。これを紀元前8世紀付近に敷衍すると、そこでは人々が「シリウス」に注目して「祭る」行為が行われ始めているわけであり、「シリウス」の観測開始やカレンダーの作成など「シリウス」と「気候変動」を関連付けて考えていると思われるわけですから、この当時の気候変動は「太陽」ではなく「シリウス」がそれまでとは違う状況になったことは明確と思われるわけです。しかし、仮に「シリウス」で「増光」つまり「新星爆発」があったとしてもそれが「気候変動」に結びつくのかというと、その可能性は十分にあると考えられるのです。(さらに続く)