あらちゃんを追い求めてる平和かな
こんな川柳が、11年10月20日の朝日川柳に掲載された。投句者は愛媛県の人だから、荒川にちなんだ愛らしいゴマフアザラシのあらちゃんも、一躍全国的な人気者になったようだ。
物見高さだけが身上なので、掲載前日の19日に自転車で現場を訪ねた。
ちょうど正午のニュース時で、テレビ朝日の中継車が停まっていた。アナウンサーが「一番乗りの方は朝5時から。今は200人ばかり。あらちゃんが頭を出してくれないので、私にカメラが向けられている有様です」と、実況中継しているのを聞いて、笑いを抑えることができなかった。
各紙の埼玉県版には、微に入り、細にわたり、あらちゃんの動静が報道されている。
その前日の18日には、あらちゃんにあやかって、知名度を上げたい志木市は、「志木あらちゃん」と名づけ、特別住民票を交付することにして、朝11時から交付式が行われた。
住所は「志木市宗岡 秋ヶ瀬取水堰」と記載され、小さな住民票が堰に近い右岸(川の流れの右側)の川べりに立てられている。
担当の女性職員を任命、ツイッターで市政情報と共に発信するほどの熱の入れようだ。
この取水堰は、河口から35km。水資源機構が管理していて、荒川の水を取水・浄水して、東京都西部に送るのが目的だ。春先に遡上する稚鮎などの魚には魚道が造られているものの、アザラシのような大きい動物には行き止まり。
川がせきとめられる堰のすぐ下流は、スズキ、ボラ、フナ、ナマズなどが釣れる釣り場だ。いつからあらちゃんが来ているのか、不明ながら、アザラシ目撃のうわさが流れ始めたのはざっと2週間前。その頃から釣果が悪くなったという。アザラシの絶好の餌場だったのだろう。
11日からフィーバーが始まった。子供連れの母親はもちろん、自転車の老人男性が目立つ。家族で弁当を開いている人もいる。臨時駐車場には、埼玉ナンバー以外の車も混じる。
12日からいなくなり、6日ぶり17日に再び姿を見せた。志木市の長沼明市長(56)も堰を訪れた。
この周辺にアザラシが姿を見せたのは初めてではない。03~04年に堰の約1km流のボート係留場にちょっとだけ違うアゴヒゲアザラシの「タマちゃん」が現れ、一時住みついて人気者になった。
その時もレジャーボートの上で日向ぼっこしている「タマちゃん」を見に来て目撃したから、「あれから8年も経つか」と感慨が深い。
名前のとおり、多摩川から上ってきたものだった。今度は多摩川抜きの純荒川系。志木市がむきになるのも無理はない。対岸のさいたま市もそわそわしている。
志木市では「あらちゃんメンチ」が、さいたま市のホテルでは「ゴマあらちゃんパン」が売り出された。志木市商店会はその名をとったキャラクターデザインを創り、PRに使用することになった。
テレビ番組が取り上げた時間をCMスポット料に換算すると、75億円の広告効果があったと、との試算もある。
埼玉県宮代町の東武動物公園にも飼育されているし、決して珍しいものではないのに、なぜこんなに人気があるのか。自然の環境の中で、悠然と一人暮らしを楽しむかわいらしい姿が人の心を打つのだろう。
この公園によると、大きさから雌で、年齢5~7歳と見られるとのこと。
あらちゃんは気まぐれだ。次に現れたのは9日後の27日だった。11月2日にも姿を見せたという。出たり入ったり、まるで寅さんのようだ。両市とも住み着いて長期滞在をお願いしたい。だが考えれば、それもあらちゃんの勝手なのだ。
11月24日を最後に姿を消した。10月と11月に姿を見せたのは計15日だった。
埼玉県では一匹狼だから大の人気者なのに、ゴマフアザラシの越冬地・北海道稚内市の抜海(ばっかい)漁港では、厄介者だ。千頭前後いて、定置網のサケの頭部などの一部を食い散らすは、タコつぼから出た足も食いちぎる。
「稚魚や幼魚を好むため、水産資源が減る可能性もある」と指摘する学者もいる。北海道全域のアザラシ被害は約3億円と推定されるという(毎日新聞)。
「所変われば受け取り方は違う」のである。
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