さいたま市と川口市の間にあるJR京浜東北線沿いの小さな市。蕨市はさいたま市の隣にあるのに、これまでまともに訪ねたことはなかった。10年11月3日の文化の日、宿場まつりが開かれるというので、秋晴れにも誘われて、ママチャリに飛び乗った。
なぜ宿場まつりなのか。人口約7万2千人の蕨市は、東京のベッドタウン。全国の市で面積が一番小さく(約5㌶)、人口約7万2千人の密度が一番高い(1㌶に約1万4千人)ところとして知られる。
国土交通省国土地理院が15年3月6日、発表した新しい方法を用いた計測結果では、面積は5.11平方kmと以前より0.11平方km広がった。
蕨は、江戸時代には中山道の板橋の次、荒川を越えた二番目の宿場として、その規模は浦和宿や大宮宿より大きい「中山道武州蕨宿」だった。
江戸防御のため荒川に橋を造らせなかたので、川止めに備えて宿場の規模が大きくなったのだ。
まつりの場所は、国道17号線に並行している1km足らずの中山道本町通り。この通り沿いには、古い家屋や蔵も残り、本陣跡や市立歴史民俗資料館、庭園のあるその分館などもある。余りに堂々とした本堂に圧倒される、中世以前からの古刹「三学院」(金亀山=こんきさん=極楽寺)にも近く、市役所や蕨城跡もすぐそば。
蕨駅が徒歩で約10分とちょっと遠いのが気になるが、明治の初め中山道沿いに鉄道敷設計画があったのに、「コメがとれなくなる」などの理由で反対したので、駅から遠くなり、駅前に賑わいを奪われた。全国でよく聞く話である。
この通りの商店街「中仙道蕨宿商店街」では、「中山道」に「人偏」をつけて、「中仙道」とつづり、人の賑わいと取り戻そうといろいろ趣向を凝らしている。山の中の道ではなく、人で賑わう道へといいう意気込みだろう。この宿場まつりも「中仙道武州蕨宿」のまつりなのだった。第27回を迎えた。
この日は、イベントが盛り沢山で、両側に屋台や衣類などのリサイクルショップがずらりと並び、大変な人出。市の人口の倍近い13万8000人と過去最大だったと観光協会は言っている。
目玉は、新企画の龍馬仮装パレード、織姫道中パレードやサンバのパレード。舞台上の演し物やアトラクションに、最後には一枚100円で景品が当たるビンゴ大会もあった。とても全部は見られないほどで、小さな市がすべてのアイデアをぶち込んだ感じだ。
織姫道中には説明が必要だろう。このまちは明治、大正時代、全国有数の織物の町だった。幕末の開港直後、「蕨の綿織物業の祖」といわれる高橋新五郎が、横浜で英国製綿糸を買いつけて織った「双子織」が大変な評判になって、昭和30年(1955年)代まで続いた。新五郎は市内の塚越稲荷社に「機(はた)神」として祭られている。
昔をしのんで毎年8月に西口駅前通りで「わらび機(はた)まつり」が行われ、ミス織姫が選ばれる。宿場まつりでもミス織姫は車に乗って登場する。(写真) 宿場まつりではミス宿場小町も選ばれる。
個人的に面白かったのは、1981(昭和56)年、「なぜか知らねどここは埼玉・・・どこもかしこもここは埼玉・・・」という「なぜか埼玉」という珍妙な歌を発表した、自称”芸能人“「さいた・まんぞう」の歌と漫談を見たことだった。
本当は岡山出身で、1ヶ月後には62歳になるそう。「頭髪以外、異常なし」「誰も知らない埼玉の生んだ“大スター”」だ。「なぜか知らねどここは蕨・・・」と聴衆を喜ばせた。
この人のことは、このブログ・シリーズで前に書いたことはあるものの、本人を見るのは初めてで、来た甲斐があった。JTBでは、「埼玉体験旅くらぶ」の中で、11月23日に「さいたまんぞうがナビゲートする“なぜか埼玉”ぐるり旅」を日帰りでやる予定で、募集中とのパンフレットをもらった。
面積、人口密度のほかに日本一はまだある。1946年11月22日、敗戦で沈んだ町を盛り上げようと、当時の青年団長で後の蕨市長、県会議長の高橋庄一郎氏が青年祭を企画、「成年式」を祝ったのが、日本の「成人式」の始まり。その2年後に「成人式」が制定された。他の市町村と違って、蕨市では当時のまま「成年式」を祝う。
その成年式発祥の地の女性像が蕨城跡の公園に立っている。その近くに蕨市出身の岡田義夫氏(紡績の専門家)が訳した「青春とは人生のある期間を言うのではない。心の様相を言うのだ」で始まる米国の詩人サミュエル・ウルマンの「『青春』の碑」があるのもおもしろい。
ついでながら、「敬老の日」は1947年9月15日、兵庫県野間谷村(現・多可町)で始まった。
もう一つ、日本一収穫が早いという極早生種のリンゴ「わらび」もある。6月下旬には実をつける。小ぶりで強い酸味が特徴という。
日本一というわけではないが、海外にもファンが多く、日本でも見直されている幕末から明治初期の異色の絵師、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の曾孫が設立した私設の「河鍋暁斎記念美術館」も南町4丁目にある。
蕨宿商店街では代表作の浮世絵「文(ふみ)読む美人」などの複製を店内に展示している。小さいながら面白いまちである。
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