
県立近代美術館で12年11月から13年1月までの日程で「ベン・シャーン展」が始まり、さっそく見に行った。(写真はポスター)
ベン・シャーンといっても若い人にはなじみが薄いかもしれない。先にこの美術館で展覧会が開かれたアンドルー・ワイエス同様、20世紀のアメリカを代表する画家の一人。
震えるような繊細な線で戦争、人種差別、迫害、貧困で虐げられた人々の悲しみや怒りを優しく描き続けた。
「線の魔術師」とも呼ばれる。
ユダヤ系リトアニア人で米国へ移住、社会的テーマを中心に制作を続け、1930年代から60年代に活躍、1969年に死亡した。
驚くのは、今回展示された約300点が、他館から借りたものではなく、朝霞市のコレクション「丸沼芸術の森」のものだということだ。
芸術の森コレクションによるこの美術館のベン・シャーン展は、2006年以来二度目。前回より約百点も増え、小品が多いとはいえ、その点数に圧倒される。
11年から12年にかけて、日本の各地で回顧展が開かれるなど、ベン・シャーンへの関心が高まっているようで、平日でもけっこう見に来る人が多いのも驚きだ。
この美術館のアンドルー・ワイエス展も、この芸術の森のコレクションの所蔵品だった。
この芸術の森は長年、若手芸術家の支援を続けており、ベン・シャーンの作品もその参考になるようにと集められた。
ベン・シャーンには、社会問題をテーマにした作品が多い。今回の展示でも、フランスの「ドレフュス事件」、米国の「サッコとヴァンゼッティ事件」といった有名な冤罪事件や、キング牧師を中心とする米国の「公民権運動」、ナチズム反対のためのポスターなどもある。
1954年に日本のマグロ漁船「第五福竜丸」が米国の水爆実験で被爆、無線長だった久保山愛吉さんが死亡した「第五福竜丸」事件も、雑誌のための挿絵原画などが見られる。
ベン・シャーンは「福竜丸(ラッキー・ドラゴン)・シリーズ」として、約10年描き続けたという。
このような社会的事件を題材としたものに限らず、シェークスピアや聖書を題材にしたものなどにも、素晴らしいものがあり、その多才さをうかがわせる。社会派リアリズムの画家という評価にはおさまり切らない幅の広さだ。
初めてベン・シャーンの作品に接したのは、大学の図書館の画集で見た「解放」だった。この展覧会にはない。
第二次世界大戦後のフランス解放のニュースを聞いて1945年に描かれたもので、戦争で吹き飛ばされたアパートと瓦礫を背景に、残っていた回転柱にぶら下がって遊ぶ三人の子どもたちの光景である。
白い風が強く吹きつける中で、顔がはっきり見えるのは一人だけ。だが、ぶら下がっているだけで、その表情は決して解放の喜びではない。
以来、ベン・シャーンといえば、この絵がいつも頭に浮かんでくる。
「解放」は、ニューヨーク近代美術館所蔵で、回顧展の際、放射能汚染を心配して福島県立美術館には貸し出されず、話題になった。
福竜丸事件を対象にしたベン・シャーンが存命なら、「どう対応したかな」とふと思った。
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