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埼玉県人初のノーベル賞 梶田隆章さん 東松山市

2015年10月08日 07時45分00秒 | 科学

15年10月6日、NHKの夜7時のニュースでノーベル物理学賞に、「ニュートリノに質量がある」と発見した日本人学者が選ばれたとの第一報を初めて聞いたとき、その学者がこんなに埼玉県に関係が深い人だとはつゆ思わなかった。

理数科系にからきし弱く、高校時代も物理を選択しなかったほどだから、ニュートリノのことも耳にしたことはあっても、何のことかまるで分かっていなかった。その学者の名を聞くのももちろん初めてだった。

東京大学宇宙放射線研究所長の梶田隆章さん(56)。(写真は東松山市ホームページから) 受賞者には高齢の人が多いが、この人は現役である。

梶田さんは1959年、東松山市野本の農家の3人兄妹の長男として生まれた。生家には父親の正男さん(78)、母親の朋子さん(81)も健在だ。2人は農業に次いでオートバイの部品を作る町工場を始めた。

梶田さんは、市立野本小、南中から県立川越高校、埼玉大学理学部物理学科卒と埼玉県で生まれ、小、中、高、大学を県内で学んだ生粋の埼玉っ子である。

文武両道の人で、川越高では3年間、弓道に打ち込んだ。埼大時代には弓道部の副将を務め、関東学生弓道選手権で優勝し、全国大会にも出場した。

梶田さんは、高校2年生で物理を学び始めると興味を持ち、東京大学大学院理学系研究科博士課程では、1987年に超新星爆発で飛んできたニュートリノを初めて観測に成功した功績で、02年にノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊教授の教えを受け、教授の研究を引き継いだ。

東大教授を経て、08年東大宇宙線研究所長になった。

妻の美智子さん(56)は、越谷市の生まれで、県立春日部女子高の出身。埼大の同級生。同じ弓道部の女子の副将を務めていた縁で知り合い、梶田さんが大学院時代、26歳で川越氷川神社で挙式した。越谷市は、市のホームページの冒頭に「梶田さんは越谷市民」と受賞を祝っている。

研究に打ち込むため1995年、岐阜県飛騨市神岡町の神岡鉱山跡を活用した宇宙素粒子観測装置のある研究施設「スーパーカミオカンデ」に近い富山市長附(つき)に妻子(1男、1女)とともに移住した。

今では子供2人は進学で富山を離れ、梶田さんも宇宙線研究所が千葉県柏市にあるため単身赴任している。住民票は美智子さんの実家のある越谷市にあるので、市はホームページの冒頭に「梶田さんは越谷市民」と伝え、受賞を祝って、名誉市民の称号を贈った。

ニュートリノは、「中性(ニュートラル)の素粒子」という意味。電気的にプラスでもマイナスでもないことからこう呼ばれる。

素粒子は、これ以上は小さく分けることができない極小の粒子で、3種類の型のニュートリノがある。太陽や地球の大気などで生まれ、地球には1平方cmあたり、毎秒660億個も降り注いでいる。

他の物質とほとんど反応せず、厚い鉛板や身体も地球も何でも素通りしてしまうため観測が難しい。そのかすかな信号をとらえるための観測装置がスーパーカミオカンデだ。

厚い岩盤に囲まれた地下1000mに設置した3000tの水を入れた水槽に感知センサーをとりつけたものである。

名古屋大学の坂田昌一さんら日本の研究者3人が1962年、「ニュートリノに質量があれば、ニュートリノ振動(飛行中に周期的に別の型に変わる)が起きる」というニュートリノ振動理論を提唱した。

それを梶田さんらがスーパーカミオカンデでの観測で裏付けたのだ。スーパーカミオカンデ上空でできた大気ニュートリノ(宇宙から降り注ぐ宇宙線が大気と衝突してできる)を、地球を貫通してきた大気ニュートリノと比べたら、飛行中に別の型に変身する証拠がつかめたのだ。

観測は100人を超えるチームが共同研究していく大プロジェクトだった。

1998年6月、岐阜県高山市で開かれた素粒子物理学の国際会議で、東大助教授時代の梶田さんは「ニュートリノ振動の証拠をとらえました。ニュートリノには質量がある」と発表した。

翌日には当時のクリントン米大統領が演説で取り上げたほどの衝撃を世界に与えたのだった。

上田清司県知事は、梶田さんを「隅から隅まで埼玉県」と評した。県は梶田さんとノーベル生理学・医学賞に決まった北里大学特別名誉教授の大村智さん(80)の二人に県民栄誉賞を贈る。

大村さんは、北本市の総合病院「北里大学メディカルセンター」設立に深くかかわり、地域医療の発展に大きく貢献したほか、さいたま市岩槻区の開智学園開智中学・高校の名誉学園長を務めている。

東松山市は梶田さんに東松山名誉市民の称号を贈った。さいたま市は二人にさいたま市民栄誉賞、県は二人に県民栄誉賞を贈った。


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