新古今和歌集の部屋

短歌集 春風

春 風
        短歌

東京一年目の新春(2002年)から、3年間。

 
新春の多摩川渡る
    風軽く
カモメとともに飛び去るランナー


 大学病院
テキパキと処理されてゆく
診察の
システムといふ不安の中で


 即興歌
夏の夜の
頭上の花火仰ぎ見て
 恋の行方を
君にか問ふや

  相聞歌
過ぎし日の
    もとの桜を
        選びては
   月日を越えて
     恋ゆる思ひ出

  相聞歌
雅なる
 山吹の咲く
      万華鏡
 永久にあれと
  ことばきざみて


 突然頭の中に浮かんだ歌
背に一つホクロのあるをいとほしく
    抱きしめる度
  広き背中に


 岡山の出張時にコーヒーを入れてくれたひとの名も聞かず
甘き香のぶどうのごとく微かにて
   名も聞かずこそ口惜しきかな


 夜外へ出るとおぼろな満月にて
雲に消ゆおぼろ月夜のかすかにて
   名も聞かずこそ口惜しきかな


 おぼろ月を望み果たせぬ恋に
月光(ぐわっくわう)を待ち焦がれても
     おぼろにて
        望む心ぞ罪となるらん


月光を待ち望みても
        おぼろにて
      影さえ見えぬ春の望月


 靖国神社に参詣して平和を想ひ
安らかに
靖国の森
国の守
水浴ぶすずめおどる木漏れ日


 福岡の手術したひとへ
東京の窓より見ゆる夏景色ひと雨降りて
風立ちぬいざ


 スナックに十年勤めた友人に送る
ひととせを積み重ねつつ
生きてきた
出会ひの中に我も育ちぬ


 久しぶりの佐賀でカチガラスの飛ぶを見て
善きことも
 悪きことをも懐かしき
   佐賀のカラスの変わらぬを見ん


人の世の醜き中に
  我もゐて
ただ流されて生きろといふ


 昔のアパートを訪ねて
昔住むアパートの二階
      ともし付く
 楽しき思い出
         今人のもの


人の来ぬ山辺の道を一人行く
 路傍に咲くや
    撫子の花


 友人の訃報に接し
良き友の訃報を聞きてかなしかり
    彼の笑顔と
       彼の言葉と


いやだいや!
 ため息付く度いやになる
   だったら死ねば?…
       それもいやだね


 鈴木春信展にて
春信を現しに見ゆる人ほどに
    美しき人に
       恋る時こそ

 即興歌
よろこびて
忍びて
逢いてだきしめぬ
夢の中のみ
見ぬものかとは


気が付けば便りの着くを楽しみて
未だ来ぬものかとまた覗き込む


  韓国出張帰りの人へ 「ア音頭韻」
韓国(からくに)の便りを持ちて会う人の
  辛き(から)話を楽しみに待つ


やすらぎの
野に咲く花の合う人の
君を想いぬ
恋する故に


やすらぎの
野菊の君に
まみえんと
満ちる想ひに
恋する故に


やすらぎの
   野に咲く花を
  待ち焦がれ
 身焦がすほどに
      恋しかるらむ


春なれば花の咲く日を思いつつ
寒さの中につぼみ育てぬ


誰も見ぬ酒場の部屋の片隅に
   活けて紅きは菊の一刺し


  帰省
辛き旅忍耐の旅帰省旅懐かしの旅復帰る旅


あたたかの有明の海輝きて
    春を先取り島鉄走る


吹き荒ぶ吹雪の中の陸奥をゆく
    春野花散るまぼろしに見ゆ


紀ノ国の梅の便りの鉢の花
  匂ひに誘われ春をば告げよ


 ホワイトディに折り句を添えて
ほのかなる
私の想ひ
今ここで
トキメキながら
渡すキャンディ


誰に比し「我勝れおり」胸叩く
     動物園のおりのゴリラよ


  友人の娘さんへ即興歌
早すぎる
  やきもき父の嫉妬にも
 まさに十四の
     身の美しさ


   親戚の東京初ライブに
広き世の中で小さき娘のライブ
  不安と
   期待と
    夢とを想ふ


噂とは我に非もあることなれど
  影のみ一人
        歩く哀しさ


 三軒茶屋の変わりように
何をかを目指して夢を語らひし
  学生街も
     今ビルの中


 大学時代のアパートを二十年ぶりに訪れて
二十年という時間の隔たりに
 毎日通った定食を喰ふ


あんなにしてやったのに!どうでもいいじゃん?
 ここに良い酒良き友がある


 親戚の子のコンサートにて
 まぶしさの
スポットライトの中の君
    はにかみながら
     けふを輝く


   日展書道を見て
薄墨の
空白の色細やかに
カスレの流れ心移れり


太古より変わらぬ月を眺めても
 心にかかる雲に乱され


 友人の送別会にて
惜別の友との別れ
又一杯
道なき未知を歩む友への


 明日の事考えず
ただけふの事君の事のみ
 花は咲き、落つ


けふを 生き
明日は死なむと
  酒を飲む
 何とはなくも
けふを漂ふ


 芝増上寺にて
カラカラト
水子地蔵ノ風車
カラカラ揺レル
冬枯レノソラ


 「らしく在る」
これほど辛き言葉無し
漂ひ過ごす我にとっては


 恩人の悲報を聞いて
マッスグニ
飛ベナイワレヲ
人善スギ
叱ッタ人ノ葬(ハフ)ル悲シサ


 東京タワーから
新春の徐々に暮れゆく街並みを
 日の沈むまで
      眺め過ごす


 即興歌 弐 (本歌 古今集)
世の中に
忍ぶる恋の
誰をかを
夢と知りつつ
身はときめかむ


 「誰と似合う」とあまりにもうるさかったので
 去年は誰
今年は誰ぞと言われても
 想ふ心ぞ
   さしも知らじな


 駒込観音堂
観音の智慧に照らされ
ほのかなるかをり漂ふ
 鴎外の梅


 離別歌 伊勢の本歌取り
くれなゐの夕日に向かひ
        鳴く雁は
   花無き里へ帰る身なれば


  相聞歌
うつくしき笑みを浮かべる
    だれをかを
 今日の月見て恋しかるらむ
   返し
移り気な笑みをふりまく
   誰をかを
 けふは信じて請ふものかやと


 離別歌四首
 有明の月のごとくに
幽かなる思ひ出となる
 我が身なればや


先見えぬ霞の中を
  発つ雁は
一つ所におれぬ身なれば


咲き初めし桜を見ては悲しかり
  散りぬる頃の別れ思へば

  友人へ
  友と生き
 共に恥たる
    みととせを
 我が最良の時と数えむ

コメント一覧

jikan314
越後美人様
昔作った定型です😉
背に一つは、自分でも気に入っているものなので、越後美人様から、ご評価頂き、とても嬉しいです。
現在、スランプの真っ最中なので、昔の短歌俳句を読み返している所ですので、又御來室頂ければ幸いです😉
越後美人
まあ~なんと!
素敵な歌揃いですね~♪
昔住むアパートの二階・・・切ないですね~
背に一つホクロのあるを・・・きゅ~んとしました。
けふを生き明日は・・・しみじみと読ませて頂きました(^_-)-☆
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