新古今和歌集の部屋

式子内親王集 百首 秋



136 明けぬればさぞと思ふに秋に染む心の色の先づ変はるらむ
あけぬなりさそとおもふにあきにそむこころのいろのまつかはるらむ
秋に澄む→益田本 秋に添ひ→森本 心の色→森本

137 庭の苔軒の忍は深けれど秋の宿りになりにけるかな
にはのこけのきのしのふはふかけれとあきのやとりになりにけるかな
ふるけれど→C本・京大本 秋の宿りと→C本

138 秋来れば常磐の山に年を経る松しも深く変はる色かな
あきくれはときはのやまにとしをふるまつしもふかくかはるいろかな
変はる声かな→益田本・神宮本
本歌 秋来れば常磐の山の松風もうつるばかりに身にぞしみける(新古今 秋上 和泉式部)

139 草枕儚く宿る露の上を絶え絶え磨く宵の稲妻
くさまくらはかなくやとるつゆのうへをたえたえみかくよひのいなつま

140 道遠き小野の篠原更けにけり露分け衣摺り重ねつつ
みちとほきをののしのはらふけにけりつゆわけころもすりかさねつつ
道遠み→益田本

141 虫の音も籬の鹿も一つにて涙乱るる秋の夕暮
むしのねもまかきのしかもひとつにてなみたみたるるあきのゆふくれ
籬の鹿の→春海本 涙知らるる→B本・三手本

142 露寒み分くれば風に類ひつつすがる鳴くなり小野の萩原
つゆさむみわくれはかせにたくひつつすかるなくなりをののはきはら
すがる:鹿 すりる鳴くなり→神宮本 すかる鳴くなる→春海本・森本
本歌:すがるなく秋の萩原朝たちて旅行く人をいつとか待たむ(古今 読み人知らず)

143 眺むれば露の掛からぬ袖ぞ無き秋の盛の夕暮の空
なかむれはつゆのかからぬそてそなきあきのさかりのゆふくれのそら
秋のさかせの→森本

144 露深き野辺をあはれと思ひしに虫に訪はるる秋の夕暮
つゆふかきのへをあはれとおもひしにむしにとはるるあきのゆふくれ

145 秋の夜の静かに暗き窓の雨うち嘆かれて隙白むらむ
あきのよのしつかにくらきまとのあめうちなけかれてひましらむらむ
うちにけがれて→春海本 ひましらむなり→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・国会本・河野本・神宮本・文化九本
本説:秋夜長 夜長無睡天不明 耿耿残燈背壁影 蕭蕭暗雨打窓声(和漢朗詠集 上陽白髪人 白居易)

146 露はさぞ野原篠原分け入れば虫の音さへぞ袖に砕くる
つゆはさそのはらしのはらわけいれはむしのねさへそそてにくたくる
野辺篠原→B本 分け入りて→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・神宮本・国会本・河野本

147 葎鎖す宿にも秋の尋ね来て月に誘ふは今年のみかは
むくらさすやとにもあきのたつねきてつきにさそふはことしのみかは
むくらさき→森本 宿にも月の→春海本

148 秋の夜の更け行くままの花の上は月と玉とを磨くなりけり
あきのよのふけゆくままのはなのうへはつきとたまとをみかくなりけり
更け行くままに→文化九本・春海本 月と花とを→国会本

149 月見れば涙も袖に砕けけり千々に成り行く心のみかは
つきみれはなみたもそてにくたけけりちちになりゆくこころのみかは
冬に成り行く→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・森本・文化九本・国会本・河野本
本歌:月見ればちぢにものこそかなしけれ我が身ひとつの秋にはあらねど(古今 千里)

150 久方の空行く月に雲消えて眺むるままに積もる白雪
ひさかたのそらゆくつきにくもきえてなかむるままにつもるしらゆき
雲晴れて→神宮本・国会本・河野本 流るるままに→松平本

151 眺むれば我が心さへ果てもなく行方も知らぬ月の影かな 続拾遺
なかむれはわかこころさへはてもなくゆくへもしらぬつきのかけかな
程もなく→A本・B本・松平本・三手本・岩崎本・C本・京大本 行方も白む→京大本
本歌:我が恋はゆくへも知らずはてもなしあふをかぎりと思ふばかりぞ(古今 躬恒)

152 宿る袖砕く心を託言にて月と秋とを恨みつるかな
やとるそてくたくこころをかことにてつきとあきとをうらみつるかな
いたく心を→三手本 かへとにて→森本

153 今はとて影を隠さむ夕べにも我をば送れ山の端の月 玉葉集
いまはとてかけをかくさむゆふへにもわれをはおくれやまのはのつき
今日とて→B本 我をば送る→B本・三手本 山の端のわき→神宮本

154 更けて行く秋の思ひも侘び果つる涙なすてそ袖の月影
ふけてゆくあきのおもひもわひはつるなみたなすてそそてのつきかけ
秋の思ひし→神宮本・C本・京大本 涙な添へぞ→B本・三手本・岩佐基本・文化九本

155 深き秋の程こそ見ゆれ龍田姫急ぐ梢の四方の色々
ふかきあきのほとこそみゆれたつたひめいそくこすゑのよものいろいろ
深き夜の→森本

156 吹き止むる落ち葉が下のきりぎりす此処ばかりにや秋の仄めく
ふきとむるおちはかしたのきりきりすここはかりにやあきのほのめく
鳴き止むる→B本・三手本・岩崎本・文化九本 吹き初むる→河野本 落ち葉は下の→神宮本 落ち葉の下の→森本 声ばかりにや→B本・三手本・岩崎本

参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房
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