古今和歌集 巻第十一 恋歌一
520-529
こむ世にもはやなりなむめのまへに
つれなき人をむかしと思はん
つれもなき人をこふとて山びこの
こたへするまてなけきつるかな
加寸"
行水にかくよりもはかなきは
おもはぬ人を思ふなりけり
人をおふ心はわれにあらねはや
身の迷たにしられさるらむ
おもひやるさかひはるかになりやする
まとふ夢路にあふ人のなき
夢の中にあひみん事をたのみつゝ
くらせるよひはねんかたもなし
こひしねとするわさならし烏羽玉の
よるはすがらに夢に見えつゝ
涙河まくらなかるゝうきねには
ゆめもさたかに見えすそ有ける
恋すれはわか身はかけとなりにけり
さりとて人にそはぬものゆへ
かゝり火にあらぬ我身のなそもかく
涙のかはにうきてもゆらん
「山びこ」、「すがら」に濁点表記、欠落「加寸"」に他者補筆で濁点表記し、「するまてなけき」、「まとふ」、「わさ」に濁点無し。
※行く水に
伊勢物語 五十段
むかしをとこありけり。うらむる人をうらみて
とりのこをとをづゝとはかさぬともひとのこゝろをいかヾがたのまん
といへりければ、をんな
あさつゆはきえのこりてもありぬべしたれかこのよをたのみはつべき
をとこ
ふくかぜにこぞのさくらはちらずともあなたのみがた人のこゝろは
またおんなかえし
ゆくみづにかずかくよりもはかなきはおもはぬひとをおもふなりけり
ゆくみずとすぐるよはひとちるはなといづれまててふことをきくらむ
あだくらべかたみにしけるをんなのしのびありきするかごとなるべし
平成28年3月15日 壱