
71 尋ぬべき道こそ無けれ人知れず心は馴れて行き帰れども
たつぬへきみちこそなけれひとしれすこころはなれてゆきかへれとも
人知れぬ→岩崎本 こしち離れて→松平本 心に慣れて→三手本・B本 行き帰るとも→C本・京大本・神宮本
72 仄かにもあはれは掛けよ思ひ草下葉に紛ふ露も漏らさじ
ほのかにもあはれはかけよおもひくさしたはにまかふつゆももらさし
下葉に迷ふ→文化九本 露ぞ漏らさし→岩崎本・三手本 露ももよさじ→C本
73 夏山に草隠れつつ行く鹿の有りとは見えて逢はじとやする
なつやまにくさかくれつつゆくしかのありとはみえてあはしとやする
夏山を→B本・三手本・岩崎本 夏山の→国会本
74 知るらめや葛城山に居る雲の立ち居に係る我が心とは 新後撰
しるらめやかつらきやまにゐるくものたちゐにかかるわかこころとは
入る雲の→A本・松平本 葛城山の→森本 我がかてぞとは→C本
75 頼むかな未だ見ぬ人を思ひ寝の仄かに馴るる宵々の夢
たのむかなまたみぬひとをおもひねのほのかになるるよひよひのゆめ
未だたぬ人を→神宮本 よるよるの夢→春海本
76 哀れとも言はざらめやと思ひつつ我のみ知りし世を恋ふるかな
あはれともいはさらめやとおもひつつわれのみしりしよをこふるかな
いはたらめやと→神宮本 言はざらめやは→B本・三手本・岩崎本 我のみ知るし→B本・三手本 我のみ知りて→文化九本・森本
77 見えつるか見ぬ夜の月の仄めきてつれなかるべき面影ぞ添ふ
みえつるかみぬよのつきのほのめきてつれなかるへきおもかけそそふ
みね夜の月の→森本 面影に添ふ→A本・岩崎本・三手本
78 束の間の闇の現も未だ知らぬ夢より夢に迷ひぬるかな 続拾遺
つかのまのやみのうつつもまたしらぬゆめよりゆめにまよひぬるかな
闇も現も→B本・三手本・C本・京大本・岩崎本・文化九本・森本・神宮本 未だ知らず→B本・三手本・岩崎本 またしみぬ→春海本 夢より後に→C本・京大本・神宮本
79 下にのみせめて思へど片敷きの袖越す滾つ音勝るなり
したにのみせめておもへとかたしきのそてこすたきつおとまさるなり
とめて思へど→河野本 袖こそ滝つ→B本・三手本・春海本・森本・文化九本 音まつる也→C本 音勝るなれ→文化九本
80 胸の関袖の港と成りにけり思ふ心は一つなれども
むねのせきそてのみなととなりにけりおもふこころはひとつなれとも
袖の湊も→C本 思う心→森本 一人なれども→森本
81 寄る波も高師の浜の松風のねにあらはれて君が名も惜し
よるなみもたかしのはまのまつかせのねにあらはれてきみかなもをし
高津の浜の→C本 君が名もうし→B本・三手本・岩崎本 君が名もなし→C本・京大本・神宮本・春海本・国会本・河野本
82 古に立ち帰りつつ見ゆるかな猶懲り須磨の浦の波風
いにしへにたちかへりつつみゆるかななほこりすまのうらのなみかせ
立ち変はりつつ→三手本 立ち帰れつつ→春海本 猶懲り過ぎの→C本 猶懲りつまの→春海本
83 恋ひ恋ひてよし見よ世にも有るべしと言ひにし有らず君も聞くらむ
こひこひてよしみよよにもあるへしといひにしあらすきみもきくらむ
よひよひに→京大本 なしみ世にも→三手本 よく見よ世にも→A本 言ひしにも有らず→京大本 言ひしにあらぬ→森本 君も聞こえむ→C本 人も聞くらむ→文化九本・森本
84 辛しとも哀れとも待つ忘られぬ月日幾度巡り来ぬらむ
つらしともあはれともまつわすられぬつきひいくたひめくりきぬらむ
月は幾度→春海本
85 恋ひ恋ひて其方に靡く煙あらば言ひし契りの果てと眺めよ
こひこひてそなたになひくけふりあらはいひしちきりのはてとなかめよ
此方に靡く→河野本 有りと眺めよ→C本 にてと眺めよ→三手本
参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房