万葉集のblog仲間であるneige9さんに貧窮問答歌の「憂し」とや「狭し」との可能性を聞いた所、詳しく調べて頂いた。
万葉集 「とや」の用例
5-893 貧窮問答歌
宇之【等夜】佐之等 憂しとやさしと 二句
(山上憶良)
7-1234 羇旅にして作る歌
海人【鳥屋】見濫 海人とや見らむ
四句
(読人不知)
8-1452 紀女郎が歌一首 名を小鹿といふ
伊而麻左自【常屋】 出でまさじとや 結句
(紀女郎)
8-1559 右の二首沙弥尼等
還去牟跡哉 帰りなむとや 結句
(沙弥尼等)
10-1917 雨に寄する
七日不来【哉】 七日来じとや 結句
10-1990 花に寄する
見尓波不来【鳥屋】 見には来じとや 結句
10-1991 花に寄する
君者不来【登夜】 君は来じとや 結句
10-2162 蝦を詠む
秋登将云【鳥屋】 秋と言はむとや 結句
11-2370 正に心緒を述ぶる
戀死【耶】 恋ひも死ねとや 二句
(柿本朝臣人麻呂之歌集)
11-2401 正に心緒を述ぶる
恋死【哉】 恋ひも死ねとや 二句
11-2837 右の四首草に寄せて思ひを譬へたるなり
将乱【跡也】 乱りてむとや 結句
12-3026 物に寄せて思ひを述ぶる
如此而不来【跡也】 かくて来じとや 結句
12-3052 物に寄せて思ひを述ぶる
絶【跡也】君之 絶ゆとや君が 四句
13-3302
引者絶【登夜】 引けば絶ゆとや 長歌十八句
14-3415 右二十二首上野国の歌
可久古非牟【等夜】 かく恋ひむとや 四句
14-3495 東歌相聞
可藝里【登也】 限りとや 三句
15-3607 新羅に遺はさるる使人等別れを悲しびて贈答し、また海路に情を慟ましめて思ひを陳べ、并せて所に当たりて誦ふ古歌
安麻【等也】見良武 海人とや見らむ 四句
15-3780 右の7首中臣朝臣宅守、花鳥に寄せて思ひを陳べて作る歌
古非毛之祢【等也】 恋ひも死ねとや (中臣宅守)
16-3791 昔、老翁ありき、号て竹取翁と曰ふ。この翁、季春の月に丘に登り遠く望むに、忽ちに、羮を煮る九箇の女子に値ひき。百嬌儔ひ無く、花容に匹するは無し。時に娘子等は老翁を呼び嗤ひて曰はく「叔父来れ。この燭の火を吹け」という。ここに翁は「唯々」と曰ひて、漸に赴き徐に行きて座(むしろ)の上に著接(まじは)る。良久にして娘子等皆共に咲を含み相推譲りて曰はく「阿誰がこの翁を呼べる」といふ。すなわち竹取の翁謝りて曰はく「慮ざる外に、偶に神仙に逢へり、迷惑へる心敢へて禁ふる所なし。近く狎れし罪は、希はくは贖ふに歌をもちてせむ」といへり。すなはち作れる歌一首并せて短歌
誰子其【迹哉】 誰が子ぞとや 長歌
(竹取翁)
16-3876 豊前國白水郎歌一首
採【跡也】妹之 摘むとや妹が
万葉集 「やさし」の用例
松浦河に遊びし序
大伴旅人
5-854 答ふる詩に曰く
多麻之末能 許能可波加美尓 伊返波阿礼騰 吉美乎【夜佐之美】 阿良波佐受阿利吉
玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき
全集 君をやさしみーこのヤサシは相手の貌風が優美であることをいう。
体系 恥しみーはずかしく感じて
新大系 「やさし」は、対象に対して自分を恥ずかしく思う気持ち。「世の中を憂しとやさしと思へども」。あまりに立派な君に対して、身も細るような恥ずかしさから、家のありかを明かすことが出来なかったのですと答えた歌。
評釋 君を恥しみ。君が恥ずかしいので。旅人の尊さに對して身を恥ぢての意。
注釋 君をやさしみー「やさし」は集中「世間乎宇之等夜佐之等於母倍ど母」とあるのみであるが、何をして身のいたづらに老いぬらむ年の思はむ事ぞやさしき(古今集巻十九)や竹取物語(御狩のみゆき)、源氏物語(真木柱)にある「人聞きやさし」の語が代匠記に引かれてゐるやうに、氣はづかしい意である事が察せられる。全註釋に「動詞痩すから轉成したものの如く、痩せるやうにあるをいふのであらう。そこで後に強盛でないことの意に分化を遂げた」とあるはどうであらうか。語源はわからないが、類聚名義抄に「媛」(佛、中)や「艷」(僧、下)にヤサシとあるのを見ると、やはり氣はづかしく、面はゆく思はれるものに對する形容となつて、それが「優」の字にも當るものとなつたので、強盛とか繊細とかいふ意には關係がなかつたのではなからうか。ここは君に對して氣はづかしくて、の意。
大成
最新の画像もっと見る
最近の「その他」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事