火のごとくもゆるゆへに、扨も冬の雪さへあるに、
消やすきあわ雪が消ぬ事よとなり。消
ぬは面白と冬よりは一入深切の心なり。
一 題しらず 山邊赤人
父祖不詳。神亀之比ノ人也。是は人丸と
同じく、秘傳ある事也。山邊は姓なり。所の名
なり。それを姓とす。
一 あすからは若菜つまむとしめしのにきのふもけふも雪はふり
つゝ
古抄云。しめしのは領じたる事也。あすからは毎日
つまむと云心也。きのふもけふもといふにて心得
べし。さしあてゝとあすつまむといひさだめ
たるにはあらざるべし。
増抄云。あすとは初春の朝をさしていふ
なるべし。冬のうちこそあれはるのくるあす
からは、雪消ぬべければ、わがなつまむとしめ
おきぬれば、春のきてまた雪がつゞきて
ふることよ。これはいつはれてわかなをばつむ
ぞとなり。
頭注
人丸の后をおかして
ながされしが万葉
の時めしかへされて
赤人と名をかへたる
といふ説あしき
事なり。別人なり。