まさる匂ひそろへし人の里をとひたくこそ
あれといふ心にて、誰里よりとよめる成べし。
一 百首哥たてまつりし時。 藤原定家朝臣
一 梅の花匂ひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
増抄云。梅は軒端にあるものなればかくよめり。
うつすとは、梅のかたより袖にうつすなり。月も
うつるといふによりてかくよめり。軒のしたに
梅を終日ながめてゐたれば、袖に匂ひをう
つすに、夜になりたれば、月が出て、木のまより
袖にかげを、梅にまけじとあるやうにうつ
すとなり。あらそふはかちまけのなき心也。
梅と月と勝劣のなきこゝろ成べし。
上句はひるの心有。下句夜の義とみるべきか。