新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 四の巻 恋歌一3

 

 

 

 

隠名戀         俊成卿

海士のかるみるめを波にまがへつゝなぐさの湊を尋ねわびぬる

                              ミ ル
めでたし。 二三の句は、海邊なる海松めの、浪に隠れ

て、見うしなひたる意にて、たとへたる意は、一度逢見つれ

ども、その人やどをも名残も隠せる故に、誰といふことを

とめうしなひたる也。 下句は、なぐさに、名といふことを

もたせて、宿をも名をも尋ねわびぬとなり。 上にぞ°共

や°ともいはで、ぬるととまりたるは、變格にて、尋ねわびぬる

ことよと、うち歎きたる意のてにをは也。 さて此歌、

くさ/"\まぎらはしきことあり。まづ此前後はみな、いまだ

逢ざる戀の哥のみなれば、是もそのこゝろかと思へど、もし

いまだ逢ざる意ならば、名を隱すは、此方の隱す

ことなるべきに、さては下句聞えがたし。さればこれは必、か

なたの名を隱す意なるにさては又いまだあはぬさき

にはいかゞなり。さればかならず逢見たる後の哥なるに、

こゝに入たるは、撰の誤なるべし。 さて又二三の句を

彼方よりまがへたること見ては聞えず。其故は、下句は此方

の事なるに、つゝといひてつゞけたれば、上の句も、必こ

なたの事ならでは、詞のつゞきかなはず。近き世の人は、す

づくかやうのわきまへをしらず。よく/\心をつくべし。

又見るめをなみとつゞきたるは、逢事のなきといふ

やうにきこゆれども、そのいひかけとはあらず。これまた

ようせずはまぎれぬべし。

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