心ざし道ふかければ、つれ/"\たる愁もなし。
谷の清水、峯の木だち、眼をよろこばしむる友なり。風の音、むしの聲、耳にしたがふしるかなり。
春は、鶯のこゑを待えては、鸚鵡の囀と聞。松にかヽる藤なみ、紫雲のよそほひにて、なつかし。夏は、郭公をきヽ、かたらふごとに、四手の山路を契る。秌は、くまなき月の影に、満月のかほばせをおもひやり、冬のあらしに散りまがふ紅葉をば、常ならぬ世のためしなりと見。
殊さら無言をせざれども、ひとりゐたれば、口業をもつくることなし。かたく禁戒を守らざれども、境界なければ、何につけてか破らん。
春ハフチナミヲミル。紫雲ノコトクシテ西方ニゝホフ。夏ハ郭公ヲキク。カタラフコトニシテノ山チヲチキル。アキハヒクラシノコヱミゝニ満リ。ウツセ
ミノヨヲカナシムホトキコユ。冬ハ雪ヲアハレフツモリキユルサマ罪障ニタトヘツヘシ。
…略…
コトサラニ無言ヲセサレトモ、独リヲレハ、口業ヲゝサメツヘシ。必ス禁戒ヲマモルトシモナクトモ、境界ナケレハナニゝツケテカヤフラン