源氏物語 藤裏葉 朱雀院
秋をへて時雨ふりぬる里人もかゝる紅葉の折をこそ見ね
うらめしげにぞ思したるや。御門、
世の常の紅葉とや見るいにしへのためしにひける庭の錦を
と、聞こえ知らせ給ふ。御容貌いよ/\ねび整ほり給ひて、ただ一つものと見えさせ給ふを、中納言侍ひ給ふが、こと/\ならぬこそ、目覚ましかンめれ。あてにめでたき氣配や、思ひなしに劣り勝らむ、鮮やかに匂はしきところは、添ひてさへ見ゆ。
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宰相の君 御門の御容貌は、いよいよ歳とともに、整われ、光る君とうり二つに御見えになりますが、御側で控えていらっしゃる中納言樣のそっくりな事には驚かされます。高貴で立派なお姿は、思いなしか、御門に劣りがちではありますが、際だって漂う気品は、加わっているように見えるのです。
(藤裏葉を閉じる)
和泉式部 光る君の華やかな宴の樣子を延々と語りながら、密かに父を同じくする御門と中納言で締めくくるなんて、お見事ですは。
一条天皇 華やかであり、しかも恐ろしいのう。
敦康親王 藤式部。藤壺は、光る君を、真はどう思っていたのであろうか?
藤原公任 藤壺は、真は困っていたのではありますまいか?光る君は、兎角強引すぎます故。
敦康親王 藤式部。教えておくれ。
中宮 私もあれこれと聞くのですけど、藤式部は教えてくれないのですよ。敦康樣。
敦康親王 それなら、藤壺は光る君の事を愛おしんでいたと思う事にします。
藤原道長 例え藤壺の想いを得たとしても、光る君は幸せにはなれなかったと思いますが。不実の罪は必ず己に返って参ります故。
一条天皇 左大臣が、その樣な事を申すのは初めて聞いた。
和泉式部 されど左大臣樣。罪のない恋なぞ、つまりませんは。
赤染衞門 真に左樣に御座いますね。
中宮 衞門までその樣な。
赤染衛門 人は、道険しき恋にこそ、燃えるので御座います。
女房 うふふふ。