新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 雑歌上 2

尾張廼家苞 五之上
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こもりゐける比後德大寺左大臣白川の花見ニさそ
ひければまかりて讀侍ける 源師光
いさやまだ月日のゆくもしらぬ身は花の春ともけふこそはみれ
初句のまだは、昨日までは花の春ともしらざりし意也。されど
月日の行もまだしらずといへるやうに聞えてはかくいかゞか。二三の句は年月
                                     のたつもしらぬと
いふ事、物にあはずして籠居せし程なれば、物思ひにて月日の行もしらざりし
也。下句は、花ざかりの春ぞといふ事は、けふ此しら川のさくらをみてしりしと也。
又としてはいよ/\いかゞ。まだにては
                 あるべし。
世をのがれて後百首歌よみ侍けるに花のうた
              俊成卿
今は我よし野の山の花をこそやどの物ともみるべかりけれ
世をのがれたる身なれば、吉野の山にこもり住べき事ぞと也。
世をのがれてとは、出家し給ひし事なるべし。一首の意は、今は我世をのがれたれば、
吉野の山にかくれこもりて、その山の花を、わが宿の物にしてみるべき身となりしと也。
入道前関白家歌合に
春くればなほ此世こそしのばるれいつかはかゝる花をみるべき
下句、死なば又いつかはかゝる花をみるべきとおもへばといふ意なるべ
けれど、上句下句各きれて二段にとゝのひたり。
     と思へばといふ詞をそへてみるにはあらず。たらぬ詞多くていかゞ。
たらぬ詞もなく、そへてみる詞もなし。一首の意、世はいとはしき物なれど、春が来れ
ばやはり此世がなつかしい。いつ又此やうな花をみるであらうと也。
同家の百首歌に
てる月も雪のよそにぞ行めぐる花ぞ此世のひかりなりける
世に月花といへ共、月は雲のよそなる物ならば、此世界の光はたゞ
花にこそ有けれといへる也。光は漢文にて光輝と云。
                 此世のはなになる物はと云義。ひかりとは月ニ
くらべていふ故に其よせ也。此歌上にもぞるといひ、下にぞけると
いへる。てにをはかけ合わろし。世上の人の詠歌、上にきるゝてにはあれば、下にかへる
                   てには有て、一首一段に調ふる事にて二段三段ニ調る
事なし。てにをはの調ふすぢを心えねば危き故也。世上碌々たる哥よみはさてもいかゞせん。
此先生は卓出にて、てにをは格別の見解ありながら、二段三段にとゝのふるを強
にきらひて、花も紅葉もなかりけりを、難波泻と直して下へつゞけいつかはかゝる花をみる
べきに、とおもへばといふ詞をそへて上へまぐらしなど、ひたすらに一段にとゝのふるを好まれた
るは、いかなる事ならん。さてかくの如く分明に二段にきれてつゞくき詞なきは、てにをはかけ合わ
ろしといはるゝ也。二段切三段切は、連歌道は勿論にて、俳諧専門の輩にすら、かつ心えをるも
あるぞかし。おくらゝも今はまからん子なくらんそのこのおやもわれをまつらんぞ、らんとといふもじ
三ッありて三段にきれたり。北へゆく厂ぞなくなるつれてこし数はたらでぞかへるべらなる、
ぞもじ二ッありて二段にきrたり。此厂の
哥此うたの的例なるべきをいかゞ。
 
 
※花も紅葉もなかりけり
新古今和歌集巻第四 秋歌上
 西行法師すすめて百首よませ侍りけるに
                  藤原定家朝臣
見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ
 
よみ:みわたせばはなももみぢもなかりけりうらのとまやのあきのゆうぐれ 隠削
 
意味:見渡すと目立つような花や紅葉もないけれど、浦のみすぼらしい小屋の秋の夕暮をみるととても物悲しく心が動きます。
 
備考:本説 源氏物語 須磨。新三十六歌仙、美濃、常縁原撰本新古今和歌集聞書
 
※いつかはかはる花をみるべき
新古今和歌集巻第十六 雑歌上
 入道前關白太政大臣家歌合に
               皇太后宮大夫俊成
春來れば猶この世こそ忍ばるれいつかはかかる花を見るべき

よみ:はるくればなおこのよこそしのばるれいつかはかかるはなをみるべき

意味:春が来れば、やはり捨ててしまったこの世の美しさを思ってしまいます。来世でこのような花をみることができるだろうか。

備考:入道前關白太政大臣家歌合:治承三年(1179年)十月十八日右大臣九条兼実家歌合か不明。

 
※おくらゝも今はまからん子なくらんそのこのおやもわれをまつらんぞ
万葉集 巻第三 337
 山上憶良臣罷宴歌一首
憶良等者今者将罷子将哭其彼母毛吾乎将待曽
憶良らは今は罷らむ子泣くらむ其も彼の母も吾を待つらむそ
 
※北へゆく厂ぞなくなるつれてこし数はたらでぞかへるべらなる
古今集 羈旅歌
 題しらず     読人不知
北へ行くかりぞなくなるつれてこしかずはたらでぞかへるべらなる
 このうたは、ある人、をとこ女もろともに人のくにへまか
 りけり。をとこまかりいたりてすなはち身まかりにければ、
 女ひとり京へかへりけるみちにかへるかりのなきけるをき
 きてよめるとなむいふ
 
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