新古今和歌集の部屋

源氏物語 湖月抄 手習 木の下の妖怪?

            へんげ
なり。きつねの変化したる。にくし。みあら
はさんとて、ひとりはいますこしあゆみよ
      一人は無用よ其まゝをけといふ也
る。いまひとりはあなような、よからぬもの
                        退べき印を結也
ならんといひて、さやうのものしぞくべき
印をむすぶをつくりといふ也
ゐんつくりつゝ、さすがになをまもる。がしら
のかみあらばふとりぬべき心ちするに、こ
の火ともしたる大とこ、はゞかりもなくあ
奧なき也思慮もなくふとよりたる也
ふなきさまにてちかくよりて、そのさま
                               おほき
をみればかみはながくつや/\として大なる
    ね
木の根のいとあら/\しきに、よりゐて
           大悳の詞也
いみじうなく。めづらしきことにもはべる
           ごぼう
かな。僧都゙の御坊に御らんぜさせ奉らばや
 
 
 
 
頭注
かしらのかみあらば
法師なればかくいへり。
身の毛もたちたる也。俗人
の髪ある人ならばと也。
をぢたるさま也。枕草
子ノ下うれしき物の所に
御輿のかたびらのうち
ゆるぎたるほど、まこ
とにかしらの毛など
人ノいふはさらにそら
ごとならずと云々。中畧
髪があらば立あがらん
と也。ふとりぬべきとは身
の毛だつべきと也。
 

        あざりの詞也
といへば、げにあやしきことなりとて、ひと
                             僧都の詞
りはまうでゝ、かゝることなんと申す。きつね
の人に変化するとは昔よりきけど、まだ
             僧都也
みぬ物なりとて、わざとおりておはす。彼
尼君達の也                   尼君の
わたり給はんとすることによりて、下゙す
來給はんとて落着の用意をする也
どもみなはか/"\しきはみづし所゙など、
あるべかしきことどもを、かゝるわたりに
  するイ 食物のまうけを人々すれば他の人はゆかず四五人見ると也
はいそぐものなりければ、ゐしづまりなど
                     彼木の下にふしたる物を也
したるに、たゞ四五人してこゝなる物を
                     僧都の心也
みるに、かはることもなし。あやしうて時
のうつるまでみる。とく夜もあけはてなん。
人かなにぞとみあらはさんと、心にさるべ
頭注
きつねの人に 五通の
中に神境通といふ事
あり。是に妖通報通神
通などの差別あり。狐
たぬきなどの人に變
ずるをば妖通と云。もと
獣にてあるが希有に
人にばくるは妖怪なる
通といふ也。又龍などの
組にのりて空をかける
をば報通といふ。過去
の因行によりて龍と
ならばかゝる報を得
べきによりて果報の
通といふ也。聲聞菩薩
佛などの通をば神通
といふ。是は出世の修行
によりて得てしかも
神變不思議なる通也。
其中に二乗の通は菩
に及ばず。菩の通は仏
に及ばぬ道理あるべき也。
ニ 水鏡に狐の人の妻
にばけゐたる事文集
頭注
古塚狐など引。
みづし所 孟御厨子所は食物を調する所也。孔子ともに称するななり。
尼君のまうけする也。
みづし所は食元を調する
所也。
 しんごん      ゐん                 
き真言をよみ、印をつくりて心みるに、し
化の物にあらずと、見定むる也。 是より僧都の詞也  
るくやおもふらん、これは人なり。さらにひ
常也
ざうのけしからぬものにあらずよりて
とへ。なくなりたる人にはあらぬにこそあ
めれ。もししにたりける人をすてたりける
                       法師ともの詞也
が、よみがへりたるかといふ。なにのさる人を
かこの院のうちにすて侍らん。たとひま
ことに人なりともきつねこ玉やうのものゝ
あざむきてとりもてきたらんにこそ侍
らめ。いとふびんにも侍けるかな。けがらひ
あるべき所にこそ侍めれといひて、あり
頭注
これはひとなり 真言印
などにもおちぬゆへに
人としる也。
 
 
 
この院のうちに 此院へ
死人をつれては來るま
じきと也。
こだま 樹神、木神、
魑魅、魍魎、空谷響
あざむきて
欺。嘲哢の心也。和名。
又詐。いつはりたぶら
かす心也。
けがらひあるべき所 釋に
ならんといふ也。師此人
死人ならばけがるべき所
おなどいふ也。
 

なり。狐の変化したるか、憎し。見現さんとて、一人は、今少し歩
寄る。今一人は、
「あな用な。良からぬものならん」と言ひて、左樣の物退(しぞ)
くべき印作りつつ、流石に猶守る。頭(がしら)の髪有らば、太り
ぬべき心地するに、この火灯したる大徳、憚りも無く、奧(あふ)
なき樣にて、近く寄て、その樣を見れば、髪は長く、艶々として大
なる木の根のいと荒々しきに、寄り居ていみじう泣く。
「珍しき事にも侍るかな。僧都の御坊に御覧ぜさせ奉らばや」と言
へば、
「げにあやしき事なり」とて、一人は參うでて、
「かかることなん」
と申す。
「狐の人に変化するとは昔より聞けど、まだみぬ物なり」とて、
ざと下りておはす。
彼の渡り給はんとすることによりて、下衆ども、皆はかばかしきは
御厨子所など、あるべかしき事どもを、かかるわたりには、急ぐ物
なりければ、居静まりなどしたるに、ただ四五人して、ここなる物
を見るに、変はる事も無し。あやしうて、時の移るまで見る。疾く
夜も明け果てなん。
人か何ぞと見現さんと、心にさるべ
き真言を読み、印を作りて試
みるに、しるくや思ふらん、
「これは人なり。更に非常(ひざう)のけしからぬ物にあらず。寄
りて問へ。亡くなりたる人にはあらぬにこそあンめれ。もし死にた
ける人を棄てたりけるが、蘇りたるか」と言ふ。
「何のさる人をか、この院の中に棄て侍らん。例ひ真に人なりとも、
狐、木霊やうの物の、欺きて取りもて來たらんにこそ侍らめ。いと
不憫にも侍けるかな。穢らひあるべき所にこそ侍ンめれ」といひて、
あり
 
 
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄  九条禅閣植通
※河 河海抄  四辻左大臣善成
※細 細流抄  西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄  牡丹花肖柏
※和 和秘抄  一条禅閣兼良
※明 明星抄  西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
 
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