野 宮
三番目物・本鬘物 金春禅竹作
嵯峨野の野宮を訪れた諸国一見の僧の前に一人の女が現れ、ここは昔斎宮が仮に移られた野宮で、今日は九月七日で神事を行う日なので帰れと告げる。僧が謂れを尋ねると、昔光源氏がここに六条御息所を訪れた日で、源氏の愛を失った御息所が娘と共にここから伊勢へ下っていく話を語り、自分こそ御息所の霊と明かして消える。里の男から源氏の話を聞いた僧は、夜弔っていると、御息所が花車に乗って現れる。そして葵上との車争いの恥ずかしさと痛恨を述べ、源氏の訪問を思いつつ、懐旧の舞を舞い、再び車に乗って消え失せた。
女 花に馴れ來し野の宮の、花に馴れ來し野の宮の、秋より後はいかならん。
シテ 折しもあれ物のさびしき秋暮れて、猶萎り行く袖の露、身を砕くなる夕まぐれ、心の色はをのづから、千種の花に移ろひて、衰ふる身の慣ひかな。
シテ 人こそ知らね今日ごとに、昔の跡に立歸り。
シテ 野の宮の、森の木枯秋更て、森の木枯秋更て、身に沁む色の消かへり、思へばいにしへを、何としのぶの草衣、きてしもあらぬ假の世に、行き歸るこそ恨みなれ、行き歸るこそ恨みなれ。
※身に沁む
色の 第十五 戀歌五 1336 藤原定家朝臣
水無瀬の戀十五首の歌合に
白栲の袖のわかれに露おちて身にしむいろの秋かぜぞ吹く