絵入自讚歌注 宗祇
こがらしよいかに待みんみわの山
つれなき杉の雪をれのこゑ
このうたのこゝろはこがらしにもつれなくてす
こしつる杉の雪をれになるころをえてこがら
しも我にはつれなかりし物をかく侍るかなと待み
んといへるにや。みわの山いかに待みんとしふともた
づぬる人もあらじとおもへは。といふ哥をとりて
いかに待みんとはよめり。千五百番判に此うた
俊成卿心得ずといへり。いかんすこし此判はこゝろを
推量の事侍る。そのゆへは物をあんずるとき
心の入まゝにあらぬことはりをも心ひとつに思ひ
たえていひ出せるところをおさへんとにや。かな
らずこのうたのことはりなきには侍らし。
ある註に木がらしにはつれなくて雪にはおる
る杉のごとく人のこゝろも我にこそつれなくとも
かくまゝなる道もある物をとうらみたるよしとぞ。
月の秋は名のみぞよるのもしほ草
かくかきたえてみる夢もなし
心はたゞかきたえてぬる夜なしといはんとても
しほぐさといへり。儀はあきらかなり。
しほぐさといへり。儀はあきらかなり。
ある註に月のあかければ名のみよるにてさらに
よるはなしと也。もしほ草はかきたえての枕詞也。
又もかくうきて世にふるためしありや
たゞよふくものあとのむらさめ
このさくしやのうたこの本には九首あり。この一
しゆは他本にあり。
ある註にわかれはかりうき世にわぶると思へば
たゞよふ雲のむら雨をそのたぐひにする也。
何とたとへん朝ぼらけとよめる哥のも如此成べしと也。