新古今和歌集の部屋

老若五十首歌合

老若五十首歌合
建仁元年二月十六、十八日


春  夏  秋  冬  雜各十首
作者
  左方老
權大納言忠良   前權僧正慈圓
左近權少將定家  上総介家隆
沙彌寂蓮
  右方若
女房(後鳥羽院) 左大臣(良経)
宮内卿局     越前局
左近權少將雅經

   春歌上
 五十首歌たてまつりし時
 三番   右勝        宮内卿
かきくらし猶ふる里の雪のうちに跡こそ見えね春は來にけり 隠
 五十首歌奉りし時
 四十二番 右持        藤原雅經
尋ね來て花に暮らせる木の間より待つとしもなき山の端の月 隠

   春歌下
 五十首歌奉りし時
 三十九番 左勝        藤原家隆朝臣
さくら花夢かうつつか白雲のたえてつねなきみねの春かぜ 隠
 五十首歌奉りし時
 四十五番 左持        寂蓮法師
暮れて行く春のみなとは知らねども霞に落つる宇治のしば舟 隠

   夏歌
 百首歌奉りし時  ※
 七十一番 左勝        前大納言忠良
あふち咲くそともの木蔭つゆおちて五月雨晴るる風わたるなり 隠
 五十首歌奉りし時
 七十三番 左負        藤原定家朝臣
さみだれの月はつれなきみ山よりひとりも出づる郭公かな 隠
 五十首歌奉りし時
 七十二番 左持        前大僧正慈圓
さつきやみみじかき夜半のうたたねに花橘のそでに涼しき 隠
 五十首歌奉りし時
 八十七番 左勝        前大僧正慈圓
むすぶ手にかげみだれゆく山の井のあかでも月の傾きにける 隠
 五十首歌奉りし時
 九十番 右持         攝政太政大臣
螢飛ぶ野澤にしげるあしの根の夜な夜なしたにかよふ秋風 隠

   秋歌上
五十首歌奉りし時秋歌
 百五番 右勝         藤原雅經
昨日までよそにしのびし下荻のすゑ葉の露にあき風ぞ吹く 隠
 五十首歌奉りし時
 百三十番 右勝        藤原雅經
たへでやは思ありともいかがせむ葎のやどの秋のゆふぐれ 隠
 五十首歌奉りし時
 百廿七番 右持        攝政太政大臣
雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな 隠
 五十首歌奉りし時
 百卅八番 右勝        藤原雅經
拂ひかねさこそは露のしげからめ宿るか月の袖のせばきに 隠

   秋歌下
 五十首歌奉りし時
 百廿五番 左勝        寂蓮法師
村雨の露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋のゆふぐれ 隠

   冬歌
 五十首歌奉りし時
 百五十三番 右勝       宮内卿
からにしき秋のかたみやたつた山散りあへぬ枝に嵐吹くなり 隠
 五十首歌奉りし時
 百六十五番 左勝       寂蓮法師
たえだえに里わく月のひかりかな時雨をおくる夜半のむら雲  隠
 五十首歌奉りしとき
 百六十三番 右勝       藤原雅經
秋の色をはらひはててやひさかたの月の桂に木からしの風 隠
 五十首歌奉りし時
 百六十七番 右勝       藤原雅經
影とめし露のやどりを思ひ出でて霜にあととふ淺茅生の月 隠
 五十首歌奉りし時
 百六十九番 右勝       攝政太政大臣
水上やたえだえこほる岩間よりきよたき川にのこるしら波 隠
 五十首歌奉りし時
 百七十三番 右勝       攝政太政大臣
月ぞ澄む誰かはここにきの國や吹上の千鳥ひとり鳴くなり 隠
 五十首歌奉りし時
 百九十二番 右持       藤原雅經
はかなしやさても幾夜か行く水に數かきわぶる鴛のひとり寝

   羇旅歌
 五十首歌奉りし時
 二百廿四番 左勝       藤原家隆朝臣
明けばまた越ゆべき山のみねなれや空行く月のすゑの白雲 隠
 五十首歌奉りし時
 二百四十二番 右負      藤原雅經
故郷の今日のおもかげさそひ來と月にぞ契る小夜のなか山 隠

   雜歌上
 百首歌奉りし時 ※
 四十一番 左勝        前大納言忠良
折りにあへばこれもさすがにあはれなり小田の蛙の夕暮の聲 隠
 五十首歌奉りし時
 四十二番 左持        前大僧正慈圓
おのが浪に同じ末葉ぞしをれぬる藤咲く田子のうらめしの身 隠
 五十首歌召しし時
 百廿七番 左持        前大僧正慈圓
秋を經て月をながむる身となれり五十ぢの闇をなに歎くらむ 隠

   雜歌中
 五十首歌よみて奉りしに
 二百十二番 左勝       前大僧正慈圓
須磨の關夢をとほさぬ波の音を思ひもよらで宿をかりける 隠
 五十首歌奉りし時
 二百卅二番 左勝       前大僧正慈圓
花ならでただ柴の戸をさして思ふ心のおくもみ吉野の山 隠
 五十首歌奉りし時
 二百九番 右持        藤原雅經
かげやどす露のみしげくなりはてて草にやつるる故郷の月

   雜歌下
 五十首歌奉りし時
 百七十二番 左負       前大僧正慈圓
世の中の晴れゆく空にふる霜のうき身ばかりぞおきどころなき 隠
 五十首歌の中に
 二百廿七番 左勝       前大僧正慈圓
思ふことなど問ふ人のなかるらむ仰げば空に月ぞさやけき 隠
 題しらず ※
 二百七番 右負        宮内卿
竹の葉に風吹きよわる夕暮の物のあはれは秋としもなし

粟田口忠良は、承久三年まで生きており、近衛基通の弟、前大納言として誤記を指摘出来た。夏歌は、定家の「五十首奉りし時」の老若五十首歌合の前、雑歌上の歌は、幸清の「題知らず」の後、有家の「千五百番歌合に」の前なので、誤記以外には無い。撰者名の記載が無いので、後鳥羽院か良経が撰入を指示した歌となる。
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